No,27 Ploy of childhood friend Butler.Ⅱ
「――そういやこの前ジャックさん、言ってましたよね? ……なんか面白い薬が出来たとか」
アルバートが思い出したようにオーナーであるジャックに聞いた。ジャックは「ああっ!」と手を叩き、奥に入っていった。しばらくするとまた出てくる。
手には小さな瓶とクッキーが乗せられた皿。
「カポデリスで流行ってる物語に出てくる物を作ってみたんです」
「へぇ」
「使います?」
「復讐の為に生まれ変わった俺としては、この前のコイツへの復讐ぐらいはしたいですし」
オーナーは「使うんですね」と手を止める。ちょっとしたイタズラだ。復讐と言っても子どもがやる仕返しのレベルだとは思うが、自分の方が大人な分汚い手は使わせてもらおう。
「台本は俺が書くんで……コイツに魔力で幻想空間作らせて、そこに皇女様落とせば実験としてもバッチリでしょ!」
アルバートは少しうきうきしていた。
「……ドリンクミーの方がターゲットを夢の中に落とす薬、イートミーの方が夢のから目覚めさせる薬」
「うん、絶対クッキーは食べさせないから!」
「……俺はサポートする」
「頼みましたよ、オーナー」
アルバートはオーナーであるジャックから二つの薬を受け取る。この店のオーナーであるジャックは、よくこんなように怪しげで面白そうな薬を作ってはアルバートに託し使わせている。物語の中で『赤の女王の使用人』として、物語が変な方向に向かわないようにコントロールする為、ロドルが作った夢に潜り込んでもらったのだ。
「助かる。俺もコレの効果は気になるから……ロドル君には悪いけど」
「デファンス様にも悪いけどー、その分コイツに台詞吐かせるから」
「……貴族の遊びだね」
「貴族と王族で遊ぶのは俺くらいか」
アルバートはニヤリと笑う。
昔、二人でいろんな遊びをした。とんでもなく危険な遊びでも、二人だったから楽しかった。あいつは頭が良くて作戦を考えるのも得意だった。俺はそれに付いていっただけだ。
あいつがある日、あの悪魔の手に落ちなければ、あいつはあんなトラウマを植え付けられることもなかっただろう。俺が目を離さず、油断しなければ――あいつは良いと言ったけれど、俺は許せないのだ。あいつが死んだと聞いた時、俺はまた悔いた。送り出したのは俺だった。
騎士として、俺はまた何もできなかった。
「こいつ、俺と同じ年に生まれたくせに死んだの早かったから……見た目幼いけど、こいつの本分はちっとも変わってない。大人になりきれなかった子どもみたいだ」
アルバートは寝ているロドルの頬をグリグリ弄る。むにむにと伸ばしたり引っ張ったり。幼く若いおかげで頬っぺたが柔らかくて触り心地がいいのだ。散々弄ってもちっとも起きないのは、酒のせいか疲れのせいか。
多分両方だ。
「たまには毒抜いてやらないとな。昔っから強がりの癖に芯が弱いんだ」
甘えることを知らないからだと思うが、十四の時に少し早く大人になろうとしたからでもある。大人ぶって大人の世界で大人から金をふんだくる。そんな世界で生きてきた俺たちには、それぐらいしか生きる術を知らなかったのだ。
例えそれが汚い手だろうと。
大人にもなれずに死んだコイツは、何もかもあの時代に置いてきてしまったらしい。せめて後二年生きたなら、こんなに未熟でもなかっただろう。
子どもと大人の境目に死んだ。見た目は十六で止まって、生きた時間は何百年、だけど中身が未熟な分その差が大きすぎるのだ。精神のバランスは極端に悪い。
大人が呑むことが出来る酒を飲むと、逆に甘えた子どもみたいに幼児帰りしてしまう。酒が人の理性を取っ払うとしても。大人の象徴ともいえる酒を飲むと――だ。
コイツはいつまでたっても大人にはなれない。
なれなかったのだ。
「いいなぁ、俺なんか年だけとって死んだのに。こいつは若くて…….あの時と変わらないのな」
アルバートがロドルの頬をつねるから、彼の頬はうっすら赤くなる。
「俺だけ年取っちまった」
「そうですか」
「俺は羨ましいんだよ」
「そう……」
アルバートは空になったグラスをカウンターに置いた。ジャックはすかさずそれにテキーラを流し込む。
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