No,26 Ploy of childhood friend Butler.Ⅰ
数日前になる。
二人はあるカフェにいた。いや、カフェ兼パブであって、アルバートは酒を飲んでいた。ロドルは紅茶を飲んでいたが、アルバートはコッソリと彼のカップに酒を仕込んでいたのである。
「チェックメイト」
「ふぇっ!? は!?」
「俺の勝ちね!」
レウクロクタ城の城下町。「ケル・ク・シャ」という名前のカフェは彼らの行きつけの店。トランプゲームとチェスが出来る珍しいカフェ兼パブである。
「おい、アルバ。イカサマしてないか?」
紅茶にコッソリと酒を仕込んで思考能力を落としている時点で、かなりのイカサマだがアルバートはシラを切る。ロドルも何かおかしいと思いながらも、ゲームを続ける。
「賭けないか? お前が勝ったらなんでも言うこと聞いてやる。俺が勝ったらお前が言うこと聞けよ」
「何を企んでる……アルバ」
ロドルは城の中じゃ絶対呼ばない彼のあだ名を繰り返す。もうだいぶ酔ってきている。というのも、アルバートはロドルの「酔うと口が軽くなる」という癖を昔から知っていた。
「乗るか?」
「やってやる」
酔うとノリが良くなるのも彼の癖。
「トランプならお前には勝てないけど、チェスなら俺も得意だし……」
「僕だって負けてない」
ロドルははっきりそう言ったが、よく見ると目が虚ろになっている。顔もだいぶ赤い。呼吸も荒い。
「……ひくっ」
どうしてこんなに弱いのか。幼い年齢のせいか。ちょっと首を傾げるが、これぐらいしか勝てる方法はない。
バケモノにはイカサマでもいい。
この前の仕返しができれば。
「あふば……これなんか入れたか」
もうろれつも回らないようだ。
「いやなんも?」
「嘘だ……入れた……入れたに……決まってる……」
ロドルの手から駒が落ちた。そのままずるりと肩から崩れ落ちる。アルバートはそれを見てロドルの耳元で囁く。
「おい、さっきの勝負俺の勝ちでいいか?」
「……」
「さっきの勝負はイカサマしてない。だから、俺が勝った。いいな?」
ロドルは盤上に伏せながらコクリと頷いた。アルバートはニヤリと笑う。
「お前が今駒落としたから今のも俺の勝ち。だから、お前は罰ゲームで一日俺のことを聞いてくれるよな?」
ロドルはこれにも黙って頷いた。
「……僕の負けでいいがらぁっ! グスッ……僕の負けでいいから……僕だってっ、ひくっ」
泥酔になると泣き上戸になるのをアルバートは知っていた。周り誰一人とも知らないだろうが。
「はいはい。寝な、寝な」
「グスッ……」
「お前、こういう時だけ素直なのになー。変わらねぇなぁ」
「アルバ…….こそ」
しばらくして寝息が聞こえ始めた。
「オーナー」
「……寝ました?」
オーナーがひょっこりと店の奥から出てきた。手にはカップ。布で拭いている途中のようだ。オーナーと言っても若い青年だ。机に伏せって寝ているコイツと年齢はさほど変わらないぐらいだと思う。左目の下にトランプのマークのようなものがあり、だいぶ幼い顔をしている。
まぁ、この国にいる以上『魔族』だというのは察しがつくから見た目の年齢で実際の年齢を計算するのは難しい。
「無色透明で無臭で強い酒……。よく置いてありますね?」
「それは最近作った試作品。ロドル君なら落ちてくれると思っていました」
アルバートは小さな小瓶を、自分のカップの影から取り出した。こいつも鼻はいい方だと思うが、さすがに無臭のものには気づかなかったか。それとこの症状。
酒を応用した自白剤か?
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