No,19 Lnsanity of the white rabbit smiling.
アリスは馬車に乗っていた。
白うさぎの使用人であるパットとビルが手綱を握り、隣には公爵夫人がとても不機嫌なご様子で座っていた。向かいには白うさぎが紅茶を啜りながらいた。
「もうちょっと速くしてくれないか。時間が無い」
白うさぎは時計を見て使用人に声をかけた。やけに急かしている。そして公爵夫人は一言も喋らない。白うさぎは使用人に命令する時にしか喋らない。白うさぎの使用人は白うさぎの命令に頷くことしかしない。馬車内は静まり返っている。
アリスはこう思っていた、気まずいと。
「えっと白うさぎ。お城って?」
「アリス、僕の城にようこそ」
白うさぎの言葉に公爵夫人は噛み付く。
「貴方の城じゃなくってよ〜」
「夫人は少し黙っていてくれないか。僕はアリスと喋っているんだ。アリスもその女の隣じゃなくって僕の隣に座ればいいのに」
「貴方の独占欲もここまで来ると引くわ〜」
「ん? 僕がこう言うと大体の女の子は僕の隣に座ってくれるんだけど……おかしいなぁ。ねぇ、アリス」
どこもおかしくはないと思うが、ロドルの顔でそれを言い放つと若干イラっとする。
「むかつく〜」
「アリス、僕の隣がもの足りないっていうんなら僕の膝でもいいけど」
白うさぎは真顔だった。
アリスはそれを見て顔を引きつらせる。
「座る?」
「……いいです」
白うさぎはちょっとしょんぼりした顔をした。首を傾げて、うさぎっぽい。本気で通ると思っていたのだろうか。
「アリス」
「……なに?」
白うさぎはアリスの目を真正面から見て、真面目な口調で語り始めた。彼の紅い左眼がキラリと光る。
「あ、いや。僕達は城に行くけど、君はどうするんだい。僕は裁判官だし、公爵夫人は女王に呼ばれている。城に入るには何かしらの「女王に用事」が無きゃ入れないけど、どうする? 僕の――お嫁さんってことで入る?」
「殺す」
「痛いよ、公爵夫人。なんで僕の頭を叩くんだ。僕は真面目にこう言っているんだよ?」
「冗談でしょ〜? それに白うさぎ、いつもやってるじゃないの」
白うさぎは頭を押さえて涙目だ。赤い左眼が涙で潤んでいる。その様子は媚びた子犬のようであざとい。
「あー、あの方法か。……あの方法ねぇ」
白うさぎが急に真顔になった。
「アリス」
白うさぎがアリスを見た。そしてにっこり笑う。
「アリスは『痛い』のと、『紛れこむ』の、どっちがいい?」
白うさぎのじっとりした目にアリスは身震いする。
「その『痛い』のは外してあげなさいよ〜。それは貴方の趣味でしょう?」
「人聞きが悪いよ。じゃあ、紛れこむほうね。……助かった」
助かった、と言いつつも白うさぎの目は狂気じみていた。
アリスが何を言わなくても、周りが勝手に決めてしまう。もしかしたら操作されて、私がこうするしかないように仕向けられているのではないか。アリスは考える。白うさぎが黒幕なら、公爵夫人の台詞は白うさぎの台詞に乗っかった形になるが、公爵夫人の性格からして台本を持たない白うさぎの台詞に乗っかるとは思えない。逆に公爵夫人が黒幕だとすると白うさぎの台詞を操作しなければ自分のその台詞を言うことはできない。そして、逆転の発想としてもし、二人が黒幕では無いとしたら、これは仕向けられた台詞ということになるが、そうすると二人の台詞が噛み合うのも説明がつく。
第三者が言わせているのだから、本人達は何も考えず台本を読んでいる。噛み合うのは当然だ。
「どうアリス? 『紛れこむ』でいい? もしアリスが『痛い』方がいいなら止めはしないけど、僕が君に嫌われてしまうようなことをするけどいいかい?」
何をするつもりだったんだ。
「……紛れこむ、の方で」
「ありがとうアリス。僕は君にどうやら嫌われないようだ」
公爵夫人が言っていた『城に呼んだってパーティをするわけじゃない』ていうのが少し理解できた気がする。白うさぎの赤い左眼にかかったモノクルがカチャリと音を立てる。
「さぁ、お嬢様。僕の後について来てね。僕から離れたら君はトランプにされちゃうからさ」
白うさぎはそう言ってアリスの手を取った。
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