No,18 Duchess and white rabbit of deathmatch.
白うさぎが使う武器が懐中時計のチェーンだとすると、公爵夫人の武器とは如何なものか。白うさぎは慣れた手つきでその金の鎖を振り回していたが、公爵夫人はナイフであった。
私が彼女の家のドアを開けた時に飛んできたアレである。
「ほらほら、公爵夫人。鈍ったんじゃないですか? 僕のところまで飛んできませんよ」
「うっさい白うさぎ」
押しているのは白うさぎだ。公爵夫人はどこから出しているのか不明だが、ナイフを投げては白うさぎの頬をかすめそうでかすらないギリギリを狙っている。白うさぎはそれを当たるか当たらないかの寸前で避けている。ボールならまだ分かるが、その避け方は怖くないのだろうか。
「胡椒夫人」
「ッ!」
公爵夫人は殺意を飛ばしながらナイフを投げた。それは白うさぎの左眼を射止めていたが、白うさぎは懐中時計のチェーンで弾いて軌道を変える。
「ヌルい」
白うさぎは自分の手にチェーンを巻きつけて動きを止めた。彼の乾いた革靴の音がコツンコツンと聞こえてくる。
「止めましょう。貴方とでは僕の暇つぶしにもなりませんよ。それに――」
白うさぎは懐中時計をチラ見する。
「僕が城に呼ばれている時間でした。僕は行かなければなりません。それに、この裁判には貴方も呼ばれている。そうでしょう、公爵夫人」
公爵夫人はゼェゼェ息切れをしていたが、息を整えて一言。
「そうね。行かなきゃ私も女王に打ち首ね」
「そしたら僕が貴方を殺してあげますよ」
「ふふっ、絶対嫌〜」
白うさぎと公爵夫人はどうやら同じく城に行くらしい。そして、二人は私を見る。予想が出来ないわけではなかった。ここから二人がいなくなる、アリスだけが残される。私が行くべきところは二人が行くところと相違ないのではないか。
「君(貴方)はどこに行く(んだ)の? アリス」
白うさぎと公爵夫人はお互いの顔をまるで気持ち悪いものでも見るかのように見合わせた。その理由は先ほどの二人のセリフを見て想像してほしい。
そう二人の会話だったのである。
「公爵夫人のクセに僕のセリフに被せてこないでくれ? しかも、ほとんど同じじゃないか! 気持ち悪」
「貴方こそ被せてこないで~。私の方が一息早かったわ。反吐が出そう~」
白うさぎは公爵夫人の首に懐中時計のチェーンを巻きつけ、公爵夫人は白うさぎの首筋にナイフを押し当てた。
一触即発。もう、この二人が会うだけでこういう運命なのである。アリスは呆れ半分、哀れみ半分で彼らのデッドマッチを見ていた。
「もうさぁ、このままチェーンで首絞めた方がいいんじゃないのかなぁ」
「ふふっ、貴方こそ〜。首筋掻っ切って大量出血で死ねばいいのにぃ〜」
お互い笑顔でお互いの武器を持つ手を緩めることしない。ギリギリと緊張状態が続く。公爵夫人が「くあっ」と声を出すほど苦しそうになってきた。大分締まってきている。白うさぎも白うさぎで首から一筋血が流れ始めた。
本気だ……。本気で殺すつもりだ。
「二人ともやめいっ!」
アリスの声が辺りに響いた。
冗談で言うならいい。まだいい。でも、彼らの暴言戦争は本気なのだ。『死ね』と言って誰しも本気で相手が死んで欲しいとは思わない。なのに、なのに、この二人ときたら!
本気で本音でそれを言うのだから、タチが悪い。
「ほら、貴方が大好きなアリスちゃんが『やめて』と言っているわよ〜。離しなさい〜。貴方が離したら私も貴方の首に当てているナイフを落としてあげる」
「そうだね。僕の可愛いアリスがそう言っているから僕もやめたいんだけど僕から先にやめるのは癪なんだ。嫌なら君から手を離せばいい。だいぶ首が締まってきて頭に酸素がいかなくなってきたはずだよ」
アリスはこの往生際が悪い二人の頭を思いっきり叩いた。
誰が『僕の可愛いアリス』だ、誰が!
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