No,17 Moody of causes other than pepper wife.Ⅱ
「よく見たらメアリーアンとは顔が違うね。僕の見間違いだったみたいだ。こんな可愛いお嬢さんが、召使であるわけないさ」
白うさぎはその真っ赤な左眼でじっとアリスの顔を見た後、くしゃっと男の子っぽく笑った。あどけない表情で。
ズルい。ロドルと同じ顔でそんな表情をするなんて。顔がぼおっと熱くなるのを感じた。
「この天然タラシ。女の子を何人落とすつもりなのよ〜。みんな貴方の時計の針にされたっていうのに、また犠牲者を作るの〜? この罪作りクソうさぎ」
「イヤだなぁ。その言い方はよしとくれよ。それにさぁ、女の子っていうのはさぁ」
白うさぎはモノクルを少しズラした。モノクルというのは片目だけのレンズであるから、押し上げても嵌るところがなければ落ちてしまう。白うさぎは案の定、モノクルを地面に落としそれを拾い上げる。地面のそれを拾い、アリスの顔を見上げる。自然と上目使いになりその顔がスッとアリスの顔に近づいた。
「アリス」
白うさぎはアリスの耳元でそっと囁く。彼の口元がニヤリと微笑んだ。意地悪そうな声と吐息が耳にかかる。
「女の子っていうのはさ、砂糖菓子みたいに甘くて崩れそうなくらい、か弱くてよく従う方が可愛いとは思わないか? 僕はさ、初めから僕目当てで寄ってくる子には興味無いけど、君みたいな子は大歓迎なんだよ。美味しそうで少し壊すだけでぐちゃぐちゃになってくれそうな可愛い子がね。だからさぁアリス、僕の――」
白うさぎの濃厚で甘ったるい声が急に途絶えた。気づくと目の前で白うさぎが頭を押さえて倒れている。そのまま悶えて転がりまわる。
「白うさぎめ。退治してくれる〜」
「痛いよ! なんで頭を叩くんだ!」
「悪霊退散南無阿弥陀アーメン……」
「なんで!? 僕そんな害虫なの? ねぇ! アリス! 答えてよ、僕はそんなんじゃないよね!?」
いや、さっきの悪魔の囁きを聞くに確信する。
「悪霊退散悪霊退散」
「アリスまで!? なんなんだよぉ、僕はただ僕の本能に従ったまでなんだよ!?」
「最低」
「ぐふっ……僕、もう体力ないよ」
「体力ないなら死ねばいいのに〜」
公爵夫人がそう言う。白うさぎは彼女の顔を睨み、公爵夫人はその白うさぎの顔を見てニヤリとした。
殺意の塊だ。
「アリス、まぁさっきのは冗談じゃないよ。僕は絶対、嘘は言わないさ。君が良いならでいい。その時には君を城に招待しよう。答えは急かさないさ」
「アリス〜、こいつのことは信用しちゃダメよ〜。嘘が口を持って喋ってるようなやつなんだから〜。虚偽を塗り固めて人型にしたらきっとこういう顔よ〜。こいつが城に誘ってもダンスパーティをするわけじゃない。おおかた女の子捕らえて弄びたいだけでいい趣味じゃないんだから〜」
白うさぎの言葉に公爵夫人がすかさず逆説する。白うさぎは公爵夫人を先ほどよりもキツめに睨む。それはほとんど殺意と言ってもよかった。それを見て公爵夫人は高々と笑い声を上げる。完全勝利と言わんがために。
「女の子捕らえてって趣味が良くないぞ、女の子っていうのは可愛がるためにあるんだからその嫌がる顔が見たいってとんだサディストか」
「あーそう〜。貴方は鏡でも見て自分の行いをよく観察すればいいのよ。私を牢に入れて弄びやがったのはどこのどいつなのよ〜。このゲスうさぎ」
アリスは白うさぎと公爵夫人のこの会話を見て考えていた。白うさぎはまたしても性格が先ほどとは違う。なんというか普段の彼が言いそうなこととは真逆だ。主人に謀反的な彼は、女の子を誑かしてどうこうしようとはあまり考えなさそうなのだが(いや、私がそう考えるだけで実際は違うのかもしれないが私の意見としてはそうだ)、今の白うさぎはまさしくその考えだ。よく考えたらそれが彼ぐらいの年の男の子の健全な考えとも言える。
もし、これを彼が黒幕として台本が無いアドリブの演技だと考えたらとても上手すぎる。台本があっても難しそうなのに、その場で思いついてできるものなのか?
いや、逆に台本が無いからこそ完璧にこの場を乗り越えているとも言える。
「弄んだ、そう思うなら思えばいいさ。ただ僕は従わない召使はいらないんだよ。使えない召使なんて、食費だけ食うただのゴミさ。ただ飯食いの怠け者はいらない。僕は僕が嫌いなものはこの世に無くてもいいと思うんだよ? 僕は公爵夫人、君が嫌いだ。僕の言いたいことが分かるかい?」
「私も貴方が嫌いよ〜。嫌い同士気が合うわねぇ〜」
「そうだね。僕もそれだけは君と意見が合ってる。とっても、とっても嬉しいよ」
アリスはさすがに危ないと思った。今にも目の前で『血で血を洗う戦い』が始まってもおかしくない。
デスマッチ、されば必ず死人が出る。
「嫌い者同士」
「殺し合いましょ」
「そうしましょ」
火蓋は落とされた。
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