No,15 If the white rabbit is the mastermind…….
チャシャ猫はああ言っていたけれど、アリスは内心迷っていた。
確かに白うさぎは怪しい。彼の部屋で食べたクッキーを食べて、私は気を失った。それを今思い出したのだ。そう、あの時私はただ気を失ったわけではなかった。記憶も無くしていたし、あの時気を失ったそれは首筋を強く打ったからだ。
つまり、あの時私は――手刀打ちされた。
後ろからだった、その打撃を推理するに、おそらく後ろに誰かいた。そしておそらくその私を気絶させたものが、黒幕だ。その気絶した部屋というのが何を隠そう白うさぎの部屋だし、彼の部屋にあったクッキーは怪しい。彼を黒幕とすればどんなことでも辻褄が合うのだ。それはチャシャ猫の言い分に賛成だ。確かにそうなのだから。
白うさぎが全て演技だとしたら、彼の性格がコロコロと変わっていたのもこの世界の住人と見せかけるためのアドリブということになる。
「ロドルが演技……」
そんなに上手かっただろうか、という疑惑はあの時教会でエクソシストを見下ろし嘲笑った彼の表情を見るに解決する。あの瞬間まで私は疑問すら浮かべなかった。つまり、彼は演技がかなり上手かった。
そう。――白うさぎが黒幕である。
この命題は数々の条件と共に証明出来る。まるでわざとそういう結論に持ってこさせようとしているかのごとく、白うさぎが黒幕であることに辻褄が合う。
不自然なくらいに。
「とにかくさ」
チャシャ猫ネーロはアリスの頭をぽんぽんする。
「俺はそろそろ移動しなくちゃならない。お嬢ちゃん、白うさぎには気をつけな。あいつがお嬢ちゃんを『鏡の国』に引き摺り込む前にこの世界を出なよ」
「――鏡の……国?」
「そうさ。鏡の国に入る前に!」
あ、と思った時にはチャシャ猫は姿を消して見えなくなった。
アリスは辺りを見渡す。天井が妙に高く、頭の上に屋根らしきものがあった。腰の高さのテーブルには鍵が一つ。おそらく床の小さな扉の鍵と思ったのは、その鍵に丁寧に『床の小さな、小さな扉の鍵』と書いてあったからである。そう、書いてあったのである。案の定、小さな扉にその鍵を合わせたらガチャリと開いた。
ここでよく考えてみる。
この扉は小さすぎる。どうやっても自分が出て行くことができないのである。いや、無理だろう。指さえも入らないというのにどうして体が通るだろうか?
首を傾げたアリスはふいに自分のエプロンスカートのポケットをまさぐった。何が入っているかというのは関係ない。ただ、入っていれば何か役に立つかもしれないと思ったからである。
「?」
アリスは手に引っかかった物を取り出した。それは小さなキノコの欠片だった。
「いつ入ったのかしら」
身に覚えはない。というのも、ポケットに何か入っていたというのも初見なのだから。
食べるか? 一瞬考えがよぎる。
白うさぎの部屋で食べたクッキーを食べた後、私は気を失ったそれでも食べて平気だろうか。
でも――。
「ええい、なんとでもなれ!」
そう叫びながら一口。
「もういいわよ。白うさぎの部屋であったことがまた起きれば、背後にいるやつを蹴散らしてやる!」
すると不思議なことが起こった。
「あら?」
段々と体が縮んでいく。腰の高さまであった机は彼方頭の上に、指しか入らなかった小さな扉に届くまでになった。ちょうどいい大きさである。
「不思議なこともあるものだわ。キノコを食べたら体が縮むなんて」
アリスはこれ見よがしに小さな扉を開けて出て行った。
そこは一面のお花畑だった。
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