No,12 Depending on feeling of the Queen of red.Ⅲ

「それにしても女王陛下」

 ふと、白うさぎは語り始めた。

「赤の王はどうしたのです? また陛下は寝てるんですか」

 白うさぎは顔の前で中指を立て、少し首をかしげる。その様子は普段彼がしないような可愛らしい仕草であったが、聞かれた赤の女王はその顔に似合わず物騒なことを言う。

「うーん、昨日打ち首にした下々の輩の血でも飲んでいるんじゃない? アイアンメイデン? なんかそんな名前の道具使って。あれ? 白うさぎもいたよね?」

「……それ中世、吸血鬼と言われたバートリ・エルベージェトの鉄の処女じゃないですか。そんな物騒なもの、この城には置いてありません」

 白うさぎはバッサリと言い切った。

「普通に斧でしたよ。拷問器具じゃなくて良いんです、普通に処刑器具で良いじゃないですか。処罰する僕の身にもなってください。服についた血はなかなか落ちないんですよ!」

 物騒過ぎる。アリスはこいつらの会話を聞いているだけで立ちくらみがしてきた。

「もうやだ、血生臭い。自分の体が臭いのだけは我慢なりません。そろそろ白うさぎじゃなくて、ピンクうさぎにもなりそうですよ!」

「うるさい! うるさい! こいつを早く処刑しろ!」

「女王は僕の首と体を引き離してどうするつもりですか!」

「うるさい!」

「それにアイアンメイデンは、中に人を入れて針で串刺しですから、首をはねることにはならないんじゃないですか? それなら、両手縛って正座させた上に石載せた方がまだ苦痛としてはありますよね」

「それ東洋の江戸の国の拷問法〜。あれ、石積み上げていくのが楽しそう……タワーとか出来ないかしら〜」

「魔女に火焙りは鉄則ですね。キリストは十字架を背負わされて運ばせられた。十字架に縛るのもいい手なんじゃないですか? 今度取り寄せてみます」

「白うさぎ、十字架嫌いなくせに〜」

「あ、そうですね。僕が嫌いなんでした」

 なんでこんなに盛り上がっているんだ、とアリスは疑問に思っていた。白うさぎも赤の女王もこの物騒極まりない話題を嬉々として話しているし、その様子は傍から見ると不快だ。

 吐きそうになってきた――。

「今度首刎ねる時は何か汚れてもいい服にしますか」

「それよりお前を打ち首!」

 赤の女王は変わりない。

「ジャック!」

「はひっ!」

「お前じゃない!」

 赤の女王は物騒な会話を聞かず立ったまま眠り込んでいた使用人を呼ぶが、それに反応したのはまたもや白うさぎだった。ジャックは女王の言葉で起きたが、彼をそれより驚かせたのは白うさぎが女王に頭を叩かれたその音である。

「痛いっ」

 白うさぎは女王を恨めしく見上げた。

「痛いです、女王陛下。僕の顔に傷がついたらどうするんですか! 謝ってください」

「うるさい! 早くこいつを打ち首にしろ!」

 白うさぎも女王に「打ち首にしろ」と言われたくなければ挑発をやめればいい。口を閉じればいいものを、開けるからそう言われるんだ。白うさぎは女王が自分を絶対に打ち首にしないとでも思っているのか。

 その答えは次の女王の言葉。

 つまり、白うさぎの方が上手なのだ。

「貴方が処刑人じゃなきゃ、今すぐにでも打ち首にしたのに!」

 女王が嘆く。

「それより、女王陛下。ジャックが寝ていますし、早く城に戻りましょう? 公爵夫人の処刑を僕直々に出来るなんてとっても僕わくわくしていますよ!」

 嬉々として話す彼は異常だ。

 どんだけ嫌いなんだ……。

 ここまでの会話を聞いて、分かったことといえば、赤の女王はとにかく人の首を刎ねたがる狂った人という事、白うさぎはやたらと公爵夫人の処刑をしたがる狂った人という事、使用人のジャックはそんなイカれ会話の合間にもグースカ寝られる狂った人という事、他に「赤の王」と言う人がいる事、その人が処刑された人の血を飲む(なんかどこかで聞いた事あるな。でもあの人は確か血が嫌いではなかったか)狂った人という事。

 頭がおかしくなりそうだ。

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