No,11 Depending on feeling of the Queen of red.Ⅱ
「ロドッ……白うさぎ」
「あれ? さっきのお嬢さんじゃないか。僕の扇子と白手袋、知らないか? 落としたみたいなんだけどどこにも見つからないんだよ」
「知らないわよ」
それに彼とはさっき会っている。その時も扇子と手袋を探していた。先ほど扇子を拾ったのはいいもののあの彼の剣幕に何処かに行ってしまったのは黙っておく。
「そう? おかしいなぁ、どこに行ったんだろう」
走って来たのは白うさぎロドルだった。服はさっき見たものと変わらない。左眼には傷もあったし、紅かった。モノクルも左眼にかかっている。
「白うさぎぃー、遅い〜、打ち首ぃー」
「女王陛下! 僕を打ち首にしたところで、貴方が困るだけですよ! 裁判官は僕なんですから、裁判官がいなくなっては誰が打ち首の処罰をしますか!」
「うるさいー、打ち首ぃー」
「女王陛下!」
白うさぎロドルと赤の女王メーアの言い合いは、しばらく続いた。終わりが見えない戦いの末に決着がついたのは赤の女王のお言葉。
「白うさぎー、煮れば美味しい、うさぎ汁。毛皮を剥げばあったか毛布」
「ああ、もういいです! 女王陛下のことなんか知りません! 僕をうさぎ汁でもなんでもすればいいですよ! 食われるのは御免ですので、貴方の元から去りますがね!」
「貴方の大っ嫌いな公爵夫人の処罰を貴方が裁くことに決まったのに、見なくてもいいの?」
「それは見たいですね」
なんで今顔をキリッとさせたんだ。変わり身早すぎ。どんだけ嫌いなんだよ。
デファンスは呆れ半分で彼らの話を聞いていた。
「それよりお嬢さんのお名前なぁに?」
「ええっと……アリスと申します、女王陛下」
「へぇ……」
じっくり私の顔を見ている。
「あれ? どこかで会ったことある?」
「ッ……女王陛下!」
「なによー、白うさぎぃー、そんなに首を刎ねられたいの?」
「違いますが、ちょっと用事ができました。公爵夫人と帽子屋の裁判の準備です。ですから、もう城に戻ってください!」
白うさぎは顔を真っ赤にして怒っている。すると、彼の後ろにもう一人いることに気づいた。白うさぎと同じく真っ暗な髪の青年で、少し眠そうに目を擦っている。
顔にはハートの模様があった。
「……ジャック!」
「ヒィッ!」
「なんで貴方が反応するのよ、白うさぎ。私は後ろの木偶の坊を呼んだのよ」
飛び上がって驚いている白うさぎを置いて、彼の後ろでこっくりこっくり夢現(ゆめうつつ)なジャックを赤の女王は指差した。ジャックはやっと自分が刺されていることに気づいたようで、ビックリしたような目をしている。
「僕のことかと思いました。女王陛下、ジャックのことを呼ぶなら使用人ジャックと呼んでください。ヒヤヒヤするじゃないですか」
「貴方の都合なんか知らないわ。貴方の毎回のその反応はイライラする。ジャックというのはここには一人しかいないのだから、私がジャックと呼ぶならコイツしか居ないじゃない」
「いーえ、女王陛下。僕がビックリするのでやめてください。第一、貴方は僕の本当の名前を知らないじゃないですか」
「うるさい、うるさい、うるさぁーっい! 白うさぎなんか打ち首だ。誰かこいつの首を刎ねよ! 黙らせろ!」
すごい剣幕だ。赤の女王は白うさぎのことなんか一切耳を傾けないし、白うさぎも赤の女王の言葉に耳を貸さない。こんなことではいつまで経っても話が終わるわけがない。
「それに、僕が打ち首になったらジャックの通訳は誰がするんです? 僕しか彼の言葉が分かる人、いないじゃないですか」
「それはなんとかするわよ?」
「ジャックは絶対に喋らないんですよ! 貴方が『声が嫌いだから喋るな』というからです!」
「貴方も喋るなと言いたいわねぇ〜」
「僕が喋らなくなったら、更にジャックと意思疎通ができなくなるじゃないですか!」
そのやり取りをアリスは黙って聞いていた。つまり、この使用人ジャックは赤の女王から喋るなと言われているらしい。それはいいのだ。確かに白うさぎの言う通り、喋らないのであれば意思疎通は出来そうにない。
だが――。
「ほら! ジャックは今も赤の女王のことを迷惑がっていますよ!」
アリスはチラリとジャックを見た。ジャックは大きなあくびを一つしている真っ最中。白うさぎの通訳どころか、白うさぎがジャックのことを理解していない。自分のいいように解釈しているというような感じだ。
「いーや! 貴方の言う事に反論しているのよ!」
ジャックは眠そうに目を擦りあげる。どうでもいい、という事らしい。それに彼の行動は例え喋らなくとも理解出来そうだ。ジェスチャーがさっきから分かりやすい。
お互い相手の話を聞かない。
そんなカオスな状態では理論もあるわけない。話が終わる気配もなく、ジャックは早々に居眠りを始めた。白うさぎと赤の女王は未だに口論を続けている。アリス、私はと言うと『もうどうでもいいや』と思い始めていた。
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