No,9 Never touching should not be his room.
白うさぎ、ロドルを探して不思議の国を旅するデファンスアリスに帽子屋クローチェから白うさぎの有意義な情報を知り得ることができた。
帽子屋クローチェ、眠りネズミエルンスト、笑い(三月)うさぎクレールの狂ったお茶会から離脱して、私はまた歩き始めた。周りは森のように薄っすら暗い。明るみに、明るみに、そう願いながら歩いていると本当に明るい所に出た。
広い草原広がる原っぱ。
そこにポツンと建つ一軒の家。真っ白な壁、同じく真っ白な煙突が二本生えている。うさぎの耳のようだと少し思った。
表札には『白うさぎ』とある。
「あの帽子屋さん、白うさぎの家が近くにあるなら教えてくれればよかったのに。意地悪というよりも本当に狂った人ね」
入り口に扇が落ちていた。
拾うといきなり後ろから声がした。
「アーッ! メアリー、ここにいたのか! 僕の扇子と手袋どこに行ったか知らないか! 探しに行ってくれよ。僕の机の上にあるはずだ」
ぴょこっ、ぴょこっ、と駆け寄ってきたのはあの白うさぎだった。彼の家なのだから、当然だが、白うさぎと言えど見た目は自分の執事ロドルで、しかも彼に命令されている。彼は誰かと私を間違えているようだし、やっぱり見た目はロドルでも他人だということなのか。皇女として命令はされるより、する方のデファンスにとっては、執事と同じ姿をしていようと人から命令されることはない。
「何しているんだ、早くしてくれ!」
だが、この剣幕だ。
「分かったから黙っていて! あとで言ってあげるわよ、私の知り合いに『あなたと似ている人』がいるの。その人に言ってやるんだから! 「動作がいちいちぴょこっぴょこっしているのは可愛いけれど、生意気に命令してくるのは腹立たしい」って!」
「僕に似ている人?」
「そうよ。似ているけど中身は別人ね」
「僕にねぇ。それより、メアリ。早く僕の扇子と手袋取ってきてよ」
「言われなくても分かってる!」
デファンスの剣幕に白うさぎは耳を塞いだ。耳と言っても白い耳ではない。長い耳は彼にはなかったのだから。
「僕の机の上だよ。他のものに触ることは許さないよ」
ぴょんぴょん跳ねるのが背後に見えた。懐中時計をポケットから出して、ちらりと見てからまたしまう。
「たくっ……執事に命令されたのはあの時以来だわ」
思い返せばロドルがデファンスに命令することはよくあったのだが、本人はあんまり覚えていないのである。薬を取ってこいだの、早く帰れだの、デファンスはいちいち覚えていない。
白うさぎが言った扇子と手袋は机の上に確かにあった。だが、彼の部屋がとんでもなく汚かった。
まず、机の上に置いてあるのは確認できたがそれまで行くのが困難だと一目で分かった。床という床には本が散乱している。薬品の瓶っぽいものがその上に転がっている。ベッドの上にも本が乗っており、ベッドの下には異臭を放つ液体が流れシミを作っている。
「ここを通れと……」
はっきり言って汚部屋だ。
「あれ? ロドルってかなりの綺麗好きだよね?」
魔王城の彼の仕事ぶりを見る限り、チリや埃さえも許さないといった感じだ。ピッカピカに磨くし、掃いていると思う。
でも彼の部屋は見たことがない――。
「えっへぇ……ここを通るの」
決して埃で汚いわけではない。物が多いのだと思う。部屋に対して物が多すぎる。特に本!
「うん、いざ」
とりあえず足を踏み入れなければ机には辿り着けない。恐る恐る足を踏み入れた。
『パキッ』
「ふぇっ!?」何かを踏んだ。
「何を踏んだの……」
恐る恐る足元を見るとクッキーが落ちていた。拾い上げるとそこには『EAT ME』と書いてある。
「私を食べて……か」
『他のものに触ることは許さないよ』
白うさぎのそんな声が聞こえた気がした。他のものと言ったって、ここは物に溢れすぎている。他のものに触らず机の上に到着するのは困難だ。ということはあの忠告自体が無理難題を押し付けているわけであり――。
「でも、忠告されているんだからその通りにする方がいいのよね。うーん、どうしましょう」
アリスデファンスはクッキーをつまんで包装を見た。どこかに毒と書いてあるかもしれないし、この薬品の匂いで充満した部屋で見つけた食べ物をいきなり口に入れるのは――躊躇われる。
「ええぃ! なんとでもなれ!」
一口食べた。
「結構美味しい……かな?」
アリスはその次の瞬間、気を失った――。
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