No,8 Pathetic story of the servant Jack.

 白うさぎロドルに連れられて、迷い込むは不思議の国。デファンスはアリスとしてこの世界を冒険する――。

「アリス、ワインはいるか?」

 声をかけてきたのは帽子屋。大きなシンクルハットをかぶっている。他の特徴は目つきが悪い。

「ワイン? どこにあるの?」

 見た所、ワインらしきものはない。

「机の上にはないよ」

「だったら勧めないで」

 それを聞いてゲラゲラ笑っているのが三月ウサギ。茶色い。気が狂っている。

「帽子屋さん、無い物を勧めるとか……ウケる」

 こいつはもう、笑いウサギに改名すればいい。

「三月ウサギ、ふふっ、ウサギ汁……」

 ウトウトと座ったまま寝ているのが眠りネズミ。眼鏡をかけている。寝ている。

 白うさぎ――、ロドルを追いかけてここに居る。狂ったお茶会の参加者はこの帽子屋、三月ウサギ、眠りネズミ。

 私はどうにかしてこの世界から出なくてはいけない。

 さて、どうすればいいものか――!

「アリス、お前は『書物机と烏が似ている』理由を知っているか?」

「いやあの、全く違うもののように思うけど」

 帽子屋の問いにデファンスは溜息をついた。似ているもなにも共通点はまるで見つからない。

「俺はこう思う」

「どう思うんです?」

 帽子屋の問いに三月ウサギが笑いを堪えながら聞いた。今彼は振り向いた帽子屋の顔が可笑しかったのか、それでまた笑っている。笑いウサギめ。

「タルトを盗んでないのに女王に死刑を言い渡されたあの哀れな使用人のジャックの身の内と、この疑問は似ている」

「ジャック?」

 急に言い出したのはそんな話だった。

「そうさ。そいつの今の状況と、この疑問はよく似ている」

「似てますかね?」

 今度は眠りネズミが聞いた。

「そうだよ。あいつはあの時何もしていないと言ったさ。しかし、それの証明をするには何を明確にすればいい? 無実の罪でも証拠が無ければ覆せない。ただ、『何もしていない』と頑固に言い続ける他ない。俺も烏と書物机が似ていると言い続ければ、二つが似ていないという証明がない限り覆せない。だから、烏は書物机と似ている」

 論点が完全にズレている。

「うーん、まぁ……ソウネ」

 言い返すのはもう面倒だった。

「えっと……、帽子屋さん」

 それよりも聞かなければならない事があったのだ。それを聞かなければ。

「……白うさぎが何処にいるのか知ってる?」

「白うさぎ?」

「ええ、そうよ、白うさぎが何処にいるのか」

 デファンスは繰り返した。

 帽子屋は首を傾げ、また聞いた。

「白うさぎねぇ、あいつは公爵夫人の家にいると思いきや、ウサギ穴にいたり、クローケ場にいたりするし、色んなところにいるからな。最近じゃ、城の裁判官もやっているがあいつはトランペットが下手くそだから裁判にならない」

 城、という単語に耳が反応した。

「ここって城があるの!?」

「あぁ、あるよ。赤の女王が治めている」

「それって何処にあるの!」

「ここから歩いてすぐかな。トランプ兵の庭を抜けるとすぐだ」

 重要な情報を得られた。城、なら白うさぎ、いやロドルが行きそうな場所である。しかも裁判官をやっているという事はまさしくビンゴだ。それにしたってあの完璧主義が「トランペットが下手くそ」というのは笑える。少し見てみたい。肺活量がないのか、音程が取れないのか。

 そういえば彼は楽器を扱えるのだろうか。そういえば彼が何か楽器を演奏しているところは見たことがない。


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