No,7 Mad tea party of exorcist.Ⅱ

「女王が俺に死刑宣告してから時間が止まってしまった」

 帽子屋がムスッと無表情で呟く。

「なんで死刑宣告されたんですか?」

 眠りネズミがあくびを一つする。

「城のキッチンにあった上等な紅茶をちと拝借したらバレてだなぁ……」

 帽子屋がまた答えた。

 三月ウサギはその会話中、ずっと笑い転げていた。なるほど、チャシャ猫の言うようにあの人は気が狂っている。

「あれ? 紅茶盗んだのがバレて死刑宣告されたんですか? 確かつまらない詩を読んで……」

 眠りネズミがウッツラ、ウッツラしながら聞いている。

「つまらない詩だって? 『きらきら光るコウモリさん』の詩が?」

 また帽子屋が答える。

「コウモリさん……ウケる」

 三月ウサギはお腹が千切れるのではないかと言うくらい笑い転げている。

「ちょっとその詩、教えてくださいよ!」

 三月ウサギが笑いをかみ殺しながらそう聞いた。あいつ、三月ウサギから『笑いウサギ』に改名すればいいのに。

「キラキラ光るコウモリさん、一体お前は何してる?  この世をはるか下に見て、お盆のように空を飛ぶ」

 帽子屋は変わらぬ口調で歌い出した。

 それに眠りネズミは真顔で指摘する。

「頭イカれてますよ」

「くっそ」

 三月ウサギは耐えきれずゲラゲラ笑っている。

「うるさい。ヤマネなのに眠りねずみっていうお前もなかなかだからな。あとそこのバカ、うさぎ汁にするからな」

「食べてもおいしくないっスよ」

 ヒィーヒィー言いながらお腹を押さえている。だからあいつ『笑いウサギ』に改名すればいいのに。

「帽子屋さんまじウケる」

 三月ウサギがテーブルに自分の拳をぶつけながらゲラゲラ笑っている。アレは息をしているのか? 笑いすぎて色々おかしくなってないか? 気が狂っているにも程があるぞ。

「ウケるべ」

 帽子屋は真顔で三月ウサギに向かってティーポットをぶん投げた。

「うぐっ……!」

 もろに受けた三月ウサギは呻き声を上げてその場に倒れ、悶えている。それを見た眠りネズミと帽子屋は哀れむような目を三月ウサギに向け一言。

「うさぎ汁ってほかに何入れるんですかね……」

「うーん。山菜?」と帽子屋。

「そうですね」眠りネズミは頷いた。

 私はそっと彼らのテーブルの空いた席に座った。テーブルはかなり余っていて、全ての椅子の前にカップが置いてある。

「お前は誰だ? なぜ勝手に座る」

 帽子屋にそう聞かれた。

 白うさぎや、公爵夫人、チャシャ猫もそうだがやっぱり見たことがある人物だった。帽子屋はカポデリスの教会で見た教会統括クローチェ、三月ウサギはずっと会話で笑っていた茶髪がトレードマークのクレール。眠りネズミがメガネをかけてウッツラウッツラしているエルンスト。

「いいでしょう、座ってないんですから」

 だが、やっぱり違う人だろう。

 名前を聞くことはやめた。

「お嬢ちゃんの名前は?」

 こう聞かれて困ることがある。

 正直に答えるならだ。れっきとした私の名前。だが、この世界ではどうやら私はと呼ばれているらしい。剛に入っては郷に従え。案外この状況はその通りなのかもしれない。

「……アリス?」

 半疑問になったのはまぁ仕方ない。

「アリスか、いい名前だ」

 誰の名前なのかは分からないけど、褒められた。少し複雑。


 

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