第32話かもしれないし、最終話かもしれない
そんなことだから、とても長く平凡ではない一日となった。私は歩いた。暗くてろくに知らない道を、私は財布も靴も持たずに延々と歩くことになった。当然靴下はすぐに破れた。当然道に迷った。足の痛みは数時間で感じなくなった。
そして朝日が昇ってきた。今日はサボろう、何があろうともサボろう。私はそう決めながら、未だに知っている道へたどり着くことができなかった。いっそここで行き倒れてしまえば誰かが助けてくれるかもしれない。そろそろ朝だし変質者もこの時間から出てこないだろう。なんでバスで二時間もかかる距離を私は歩こうなんて思ったんだ? 馬鹿じゃないのか。もっとスタニスさんに詰め寄って、魔法で自宅とは言わないまでも自宅の近く、例えば春秋私立図書館あたりまで送ってもらえばよかったじゃないか。そんなことすら思いつかなかった私は本当に馬鹿だ。幻滅する。コミュ抜ける。コミュって何だよ。何のだよ。
もういいや、という考えを確固たるものとし、ここで行き倒れる決意を表明するため、私はどこともしれない道の狭い歩道のアスファルトに腰を下ろしながらつぶやいた。
「もういいや」
私はあまり独り言を言わずに過ごしてきた。友だちが少ない人間としては少数派なんじゃないだろうか。いや、友だちが少ない人間がそもそも少数派か。ネットだと友だちがいないことをアピールしている人が結構いるもんだが、私はそういう人たちの中に入っていけないタイプの人間だ。つまり、私が本当の友達少ない人間だ。ネットでコミュ持ってる奴らはまがい物だ。
そろそろ倒れていいだろうか。尻が痛くなってきた。ああそうだ、日が昇るとアスファルトは熱くなるんだった。でも後でもしないと助からないような気がするので、体の表面か裏面に焦げ目がつくことを覚悟して、私は歩道に横たわろうとした。
「探したぞ」
声が聞こえた。それが親の声だったら良かったのだが、残念なことに異世界人の声だった。
「魔王がどうして私を探すんですか」
「本気出して走り回ったからだ。だから、見つけられた」
答えになっていない。魔王はどこで私が魔法で連れ去られたことを察し、私を探し始め、そして発見したのか。
「私の配下に心を操るのが得意な奴がいてな。『スキル:硝子の靴の輝き』とかいったか。それを用いれば心を読むことも、洗脳することも容易い」
「そうやって、うちのクラスの人達も洗脳したんですか」
「教師たちは洗脳したが、貴様のクラスメイトたちには何もしていないな。ロリコンが多いんじゃないのか?」
そんな子供のような魔王に、私はおんぶをされた。
直後、自動車から顔を出しているときのような勢いの風が私の顔にぶつかった。声が出せない。魔王はまだ答えてくれていない。何が起こっているんだ。
風が痛くてまぶたが動かしづらいが、我慢して少し目を開けてみた。魔王は走っていた。走るだけでこれだけの速度が出るとは、ちょっと現実離れしてやしないか。魔王だからこれくらいの体力を持っていても不思議じゃないのか。魔王ってなんなんだろう。死にたいらしいが、この勢いで壁にでもぶつかれば自殺できそうだ。今はやらないでほしいが。
それから数分だろうか。目を閉じているうちに、
「着いたぞ」
と声がした。風も止まっていたのでまぶたを開いてみると、そこは自宅の前だった。
「ありがとうございます」
私は魔王の背から降り、ここ数日で、いや今年に入ってから最大の感謝の意を込めて頭を下げた。
「ん。あとな、フリュレとかいう娘が貴様の周りをうろついているらしいが」
「ええ、まあ」
多分私の家の私の部屋で寝てるんじゃないか。それとも私を探しに家を出てくれただろうか。
「奴は貴様を殺すつもりだぞ」
突然、魔王は私の眠気を奪い取った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます