第27話かもしれないし、最終話かもしれない
物語の終盤には、逆転がつきものだ。起承転結の転は結に繋がるための転なのであり、結に至るためには転ばなければならない。発想の転換の転なのかもしれない。
物語の結末を拾った私は、起と承と転の要素を持ち合わせていただろうか。いや、そもそも私の人生は物語じゃない。そんなに劇的な人生を送ってきたつもりもないし、私のこれまでの人生を小説とか漫画とか演劇とかにしてみたところで、ただただ退屈なばかりだろう。それか原作をブレイクするほどの脚色が行われるか。ともかく、私の人生は物語たり得ない。
だから、私は魔王にこう言い返した。
「私は物語の結末とは関係ありませんよ」
魔王は言った。私から物語の結末を感じる、と。物語の結末の香り、みたいなことを言っていた。どんな香りかわからないが、魔王特有の嗅覚とか、そんなもののせいだろう。
「しかし、奴の頭から抜けた結末を最初に手に取ったのは貴様だぞ」
「分かるんですか」
「私がどこに居たか、それは分かるな?」
「小説の中、ですよね」
「小説とはどこで作られるものだ?」
「紙の上とか、パソコンの中とか」
「そこより前だ。小説はまず、どこで発生するのか。あらゆる物語は、あらゆる妄想は、あらゆる想定はどこから発生するのか」
「頭の中、と言いたいんですか」
「そうだ。私は奴の、私が登場する話の作者の頭の中で発生し、設定を付加され、そこでずっと生きてきた」
作者とは、もちろんペンネーム夕凪隼人さんのことだろう。頭の中に魔王が住んでいたなんて、あの人もなかなかの異能力を持っているものだ。ひょっとしたら私の頭の中にも誰かが住んでいて、いつか飛び出すかもしれない。恥ずかしいからそんなことは起こらないでほしいものだが。
「奴の頭の中が、私の支配してきた世界だ。私が最強の存在として君臨してきた世界だ。そこから飛び出したものの行方を、私は部下に追わせた」
「自分じゃなく、部下に、ですか」
「説明しただろう、私は魔力を振り回すことはできるが魔法の行使はできない」
「便利ですね」
「どんな部下がどんな魔法を使ったのか、貴様はそういった固有名詞を増やしたくないのだろう。だから言わないでおくが、ともかく、私の部下は私が支配していた世界から飛び出した、物語の結末の行方を追うことができた。貴様が拾うところも、しっかりと確認できた」
何だろう。なんだか非常に気色が悪い、というか理解しづらい感覚だ。
「私を追いかけて、どうしようとしていたんですか」
「捨てようとするなら、追いかけて取り戻そうと考えていた。しかし、それ以前のことが分かったんだ」
自分の物語の結末をゴミ箱に捨てられ、燃やされでもしたら大変だ。大変だろうとは思うが、どのくらい大変なのかはちょっと想像がつかない。私の人生のような物語たり得ない人生の結末は、きっと燃やされて終わるだろう。でも火葬されることを大変なんて私は思わない。文字通り、あらゆる意味で、私と物語の登場人物では結末に対する価値観が違う。
「それ以前のことって、どこより前のことですか」
「貴様が私達の物語の結末を拾った、そのことを危惧するよりも先に危険視していなければならなかったことだ。貴様は何度も聞かされて嫌気が差しているだろうが、私達の物語の結末は、まだ決まっていない。そのことに、そんな重大なことに、私達登場キャラクターたちは、しばらく気づかなかった」
自分のことをキャラクターと言い切るのは、結構度胸が必要な事柄なんじゃないか、と私は思う。でも私は人間として人の体から生まれたものであり、魔王やフリュレさんやスタニスさんはキャラクターとして人の頭で考えられて生まれたものだ。人生観も死生観も価値観も、すべてが違うに決まっている。だから、私は魔王やフリュレさんやスタニスさんとぎこちない会話しかできなかったのか。
「それで、そこまで話して、私にどうしろと言うんですか」
「貴様になら分かるんじゃないかと……いや、分かってくれるんじゃないかと思ってな。私達は、どう終わればいいのか。どうすれば、終わることができるのか」
「それこそ、作者に聞いてくださいよ」
ペンネーム夕凪隼人さんが生み出した物語で、魔王含めたキャラクターたちの設定も性格も、ペンネーム夕凪隼人さんが決定したものだ。どうして無関係な私に期待するんだろう、この子供みたいな魔王は。
「奴には期待できないからだ」
「だからって、私に期待されても」
お金を払ってでも物語を作るプロとか、専門学校の先生とか、そういう人に頼んだほうがいい。と、私は思った。そうしてくれるように夕凪隼人さんに頼み込めばいい、と。
「貴様に託すしか無いんだ。だって、貴様は主人公なのだろう?」
魔王はさらに訳がわからないことを言い出した。さすが別世界の住人である。
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