第24話かもしれないし、最終話かもしれない
現実離れしているほどかわいい、と、可夏子さんはそう言いたいのだろう。でも顔が現実離れしている、とは一体どんな顔なのか。
例えば、イラストは現実の存在である。誰かが描いたという現実的行為の結果、イラストが生まれた。
例えば、とても感染率の低い病気にかかっていて、その結果顔が普通は見られないような形状になってしまった、とか。しかし可夏子さんの評によれば転校生はかわいいので、まさか病気で顔がかわいくなったりはしないだろう。だからこの可能性も除外していい。
例えば、今までに見たことがないほど顔が整っている、とか。しかし機械的に整った顔を再現すると、それはマネキンの顔になるという。マネキンの顔は確かに綺麗で現実離れしているが、それは人形だからだ。人間にマネキンのような顔とか言うのは失礼だろう。
じゃあ一体何なんだ、現実離れしたかわいさというものは。まだまだクラスの人間たちが転校生の席を壁を作るように囲んでいるので、一体どんな感じで現実離れした顔なのかわからない。
現実離れした顔。そんなものを、人間は想像できるものなのだろうか。ちょっと考えてみたが、どうしてもイラストの顔になってしまう。イラストの、異様なくらい線の細い美形。異様なくらい黒目が長方形になっている美少女。そういったものくらいしか、現実離れした整った顔というものは思い浮かばない。
「一度見てみればわかるって」
可夏子さんはそう言った。しかし、今は完全に隠されてしまっている。
「明日にはこういうのも収まってるだろうし、さ」
転校生に対する囲み取材のような騒ぎは、二日以上続かないものだ。私は転校したことがないし、これまでクラスに転校生が来たことがないからわからないけど、どんなに現実離れしたかわいさを持っていたとしても、こんな風にずっと囲まれたまま、ということはないだろう。転校生だって人間だ。囲まれたままトイレに行ったりしないだろうし。
「それとも、現実離れしたかわいさなのだから囲まれたままトイレに行くかもしれない」
「それはない」
それは変態の集団の所業である、と可夏子さんは断定した。しかし現実離れしたかわいさが人々を現実離れした凶行に走らせないとは限らない。例えばトイレに行くところを全員で囲むような変態に変貌させるとか。
「私は確かに現実離れしてるって言ったけど、そこまでじゃない。ちょっと銀閣、あんたは一言に対して考え過ぎ」
こういうところが、私が変人であると可夏子さんが断じたポイントなんだろうか。
私はトイレに向かうことにした。
「転校生でも待ち構えるの?」
「いや、純粋な、あまりにも純粋な欲望が生まれたので」
「尿意な」
そう、尿意。だから私はトイレに向かった。
ここの描写は省略させていただく。さすがに。
終わらせ、個室のドアを開けると、そこには小さい女の子が居た。しかし私と同じ制服を着ているので、おそらく背の低い生徒だろう。こういった現実では考えられないような現象、例えば小学生にしか見えない学生とか、そういった存在もたまには現界する。
「待ちかねたぞ、そなた」
そなた、とは私のことだろうか。トイレ内には私と小さい生徒以外の誰も居ないので、私のことだろう。そんな呼び方をされるのは生まれて初めてだ。
「そなたはから私の世界を感じる。私が支配していた世界に触れたことがあるのだろう」
世界を感じるとか現実離れしたことを言い出した。なんだろうこの人物は。
「私は魔王だ。夕凪隼人の物語に登場する魔王、と言えば理解できるか?」
理解したくはなかったが、堂々とそう言えるのであれば、受け入れるしかなかった。信じるか信じないかじゃない、怖いから私は受け入れるしかなかったのだ。
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