第7話かもしれないし、最終話かもしれない

 結末を持った私は、結局学校まで戻ってしまっている。学校以外の何処かへ行くとしても、そのためにはそこへ行くための手続きや理由づけ、許可などが必要となる。「親に扶養されている限り、子の人生の半分は親のものである」とか言い放つ人が時々居たりするが、そういう人は子供になったことがないんだろう。


 私は子供だと思っている。もう二十歳まで五年を切ってしまっているが、しかし私は自分が大人っぽいなんて思ったことは一度もない。きっと二十歳になった当日でも大人の自覚なんか沸かないんじゃないか、とすら思っている。誰かに大人っぽいとか言われてから、初めて私は大人を自覚するのだろう。


 さて、結末を持ったまま学校へ戻った私の行動は、大人っぽいのかそれとも子供っぽいのか。いやどうしてこうなったのか一切語っていないので誰にも判定できないだろう。

 どうしてフリュレさんの持ち物である彼女の物語の結末を、私が持って学校に戻ることになったのか、それはフリュレさんから「ちょっと持っていてください」と手渡されたからである。私なら捨てたりしないと思われたんだろう。その通りだがこのままだとズルズルと異世界の物語に引きずり込まれてしまいそうで怖い。


 やはりどこかで手放すべき理由を見つけなければならないだろう。そう考えて、私は学校に戻ることにした。フリュレさんは自分が出演している物語の作者兼主人公の夕凪隼人という人を探すとか言ってどこかへ行ってしまった。そうするなら結末を私なんかに渡さずに自分で持っていればいいのに。そう声をかけたが「あなたは信頼できる人ですので」とか言われてしまった。私はフリュレさんの信頼を勝ち取るようなことをなにかやっただろうか? 記憶にござらぬ。


 謎の信頼感と謎そのものである結末を手に入れた私は学校に戻った。まず自分の教室に戻ったが、そこは無人だった。体育の時間だったのである。このまま着替えて体育に出席するか? まさか。体育が好きな人間など変態ではないか。この学校の体育教師も高圧的な態度のせいで生徒に好かれてはいない。そのくせ当人は慕われていると思いこんでいるようで、見ていてかわいそうだ。哀れで泣いてしまいそうなので私は体育の授業には出ないことにした。


 続いて美術準備室に向かうことにした。私が手に持っているこの不確定なものを「結末」と名付けた美術教師に、これについてもっと詳しい話を聞くためである。教師に会いたいなら職員室へまず向かうのが道理かもしれないが、授業をサボりながら授業をサボらせたくない人間の群れへ飛び込むほど私は愚かではない。

「失礼します」

 美術室で授業は行われていないようだったので、私は美術準備室の扉を開けた。

「ああ。生徒か」

 美術準備室では美術教師が黒い枝っぽいものを使って抽象画のデッサンを描いていた。内蔵に羽が生えているようで大変気持ちが悪い絵だ。

「名前、覚えてないんですね」

 教師のくせに生徒の名前を覚えてないんですね、という嫌味を、自分こそ生徒よりも圧倒的に数が少ない教師の名前を覚えてないくせに言ってしまった。言ってから後悔した。

「お前だって美術の先生の名前なんか覚えないだろ。受験に役立たないんだし」

 後悔が少し引っ込んだ。

「まあ、そうですね」

「授業サボるやつが受験に力入れてるとも思えないけどな」

 後悔がもっと引っ込んだ。

「まあ、そうですね。で、これなんですけど」

「ああ、これか」

 差し出した結末に、美術教師は普通の水晶玉でも見るかのような目を向けた。

「これは、息子が投げたやつだな」

「この結末を?」

「ああ、この結末を」

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