第6話かもしれないし、最終話かもしれない
哀れなことだ。私はまったくもって哀れな運命に巻き込まれてしまったものだ。やれやれ。しかしやれやれ言う主人公ほど大活躍するものだ。そして口に出すほどうんざりしているようには聞こえない。むしろ口にだすことで説得力を減退させているのではないだろうか? 言霊は「やれやれ」の一語に対してのみ逆の作用をもたらすのではないだろうか?
私としても、やれやれとは思いつつもこうやって自称異世界人に手を引っ張られながらも大した抵抗はしていない。なぜって、学校はそれほど帰りたい場所じゃないからだ。無いなら無いで困らない、それが私の学校に対するスタンスである。むしろ義務教育じゃないんだから執着しているかのように行く意味がわからない。学校に行かなきゃ友達が作れない、とか言う人は、その程度のコミュ力しかないのだろう、と思う。私は学校でも大した数の友達は作れていないが。可夏子さんくらいか。
思索していたとかそんな言葉を使うほどそんなに深く考えていたわけではないが、腕を引っ張られて学校外を引きずり回されている間は退屈だったのでそんな事を考えていた。やれやれ系主人公の運命は言うほどやれやれではないの法則、そして学校にこだわりを持つことへの疑問。考えることは大切かもしれないが、くだらないことを考えることは人生の無駄だと思う。
そんな人生の無駄も終えなければならない時が来た。フリュレさんが立ち止まったのだ。それに手を引っ張られていた私も自然と足を止めることになった。三階建ての雑居ビル、私の生活範囲にこんな建物があったことを初めて知った。
「ここです」
フリュレさんは二階を指さした。窓には「春秋私立図書館」と書かれていた。もしかして可夏子さんの家族がやってたりするんだろうか。確かめようがないので学校に戻ってからでも尋ねることにしよう。おや、学校に行く理由ができてしまった。
フリュレさんに続いて階段で二階まで上がる。ついていかなくてもいいのに私はついていった。私を連れてきたということは私にもなにかやることがあるのだろう。フリュレさんの奇行に手を貸したいわけではないが、ここまで連れてこられて不必要だと言われてしまうのは意味もなく学校へ通うことよりもストレスが大きい。
「失礼します」
「失礼します」
私立図書館の入口のドアには「この図書館のご利用は有料となっています」と赤文字で書かれていた。貸出が有料なのか、入館が有料なのかは書かれていなかったが、フリュレさんが勝手知ったるように入っていったので私も続いた。
「見てくださいこれ! これで私の物語も再び動くことができるんですよ!」
入るなりフリュレさんは受付に座っていた人に結末を差し出しながら興奮していた。
「それは良かったですね。それがなんだかよくわかりませんけれど」
受付の人は冷静だった。
「夕凪隼人の本は貸出中ではありませんので、持ってきますね」
夕凪隼人が主人公らしき物語の作者名は夕凪隼人と言うらしい。私小説だろうか? そうじゃなかったら夕凪隼人の物語は痛々しいことこの上ない。
「こちらですね」
受付の人は一冊の本を持ってきた。どこの出版社から出ているのかわからないハードカバーの本で、タイトルは「おとぎの国の混沌」というらしい。しかも七巻だ。人気タイトルなんだろうか。
「この図書館は、主に自費出版された本を扱っているんです」
受付の人が私が初見だと気づいたようで、軽く説明してくれた。ハードカバーの本を七冊も自費出版できるとは、夕凪隼人(ペンネームだろう)は結構金持ちなんだろう。
フリュレさんは中程のページを開いた。途中まで文章が書かれていて、そこから先は真っ白になっている。あからさまに物語が止まってしまっている。というかよくこんな状態で製本したな、夕凪隼人。そんなに金と暇が有り余っているのか。
「あれ? あ、あれ?」
フリュレさんはそんな本に結末を押し付けながら首を傾げていた。
「戻れませんね。どうしたことなんでしょう?」
私にそんなことを訊かれても。
「知りませんよ」
「これは……どういうことでしょう?」
「だから知りませんって」
それから私は、まだまだこの奇人の行動に振り回されることになる。
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