完結編または続編
第5話かもしれないし、最終話かもしれない
寝ている間に何かが起きた、かどうかはわからない。しかし私が目覚めると、同じ部屋で寝ていたはずのフリュレさんの姿が消えていた。
このままあの不審人物の存在が私の見た幻であってほしい。退屈な日常に少しだけ舞い降りたささやかな幻覚であってほしい。もしあのままフリュレさんの設定に周囲の人々、そして私の生活領域が侵されていったらきっと私は平常ではいられなくなる。頭がおかしくなって、それ以降の記憶が消え、気づいたときにはどこぞの病棟に隔離されてしまっているかもしれない。考え過ぎかもしれないが、考えすぎなければならない異常が昨日は起こりすぎた。まだ少し昨日の影響が私の頭に残っているようだ。
私はフリュレさんが寝ていた場所に置かれていた形も匂いも色も観測できないが触ることはできる、「結末」と名付けられたものを持って家を出た。
全然日常に戻ってないじゃないか。どういうことだ。どうしてくれる。誰に説明を求めればいい。朝食のときに母か父に聞いておけばよかった。凡ミスである。
昨日と同じように教室に入った。するとフリュレさんが私の席で珍妙な儀式をしていた。片膝を着いて両手を組んで目を閉じて祈っている。その身体はぼんやりと青く発光している。その周囲二メートルには誰も近寄ろうとしなかった。数人の生徒たちがその様子を眺めていた。まるでとても美しいものを見ているかのような表情だった。
「何なんですか」
私は二メートル以内の至近距離まで近寄ってから腰を落としているフリュレさんに話しかけた。フリュレさんは発光と祈りのポーズをやめ、ゆっくりと立ち上がった。
「魔力を回復していました」
「寝て起きても回復しなかったんですか」
「魔力は体力じゃないんですから、寝た程度じゃ回復しませんよ。それよりですね、大変なことが起こったんです」
今、私にとっては大変なことが起こっている。自分の席で変な人が変な行動を起こして変な現象が起こっていたのだ。
「私はあなたの部屋で目覚めたのですが……」
周囲がざわつき始めた。変な噂も立てられそうだ。
「結末が失くなっていたんです! それを探しにですね、私はこうやって昨日辿った道筋を逆に歩き、ここまでたどり着きました。それでも見つからなかったのでこうして魔力を回復し、スキルを使ってでも」
「これでしょう?」
私は部屋に置きっぱなしになっていた結末をフリュレさんに差し出した。
「すごい! どうやって見つけたんですか?」
「部屋にありました」
「あちゃー……時計塔の掃き忘れですね」
よくわからない格言のようなことを言っているが、おそらく「灯台下暗し」とかそんな感じのことなんだろう。
「ともかく、ありがとうございます! これで私の物語は再び動き始めることでしょう!」
「良かったですね」
これで私の用は済んだだろう。
「あなたは素晴らしい方です! 仲間になりませんか?」
「何の仲間ですか」
「旅の仲間です!」
「勘弁してください」
何を目的としてこの人は異世界で旅をしていたのか、私はまだ知らない。それに私にだって生活がある。
「恩は増殖する、と言うじゃないですか」
「何ですかその都合のいい格言みたいなの」
「格言ですが?」
真顔で首を傾げられた。この人はずっと本気で言っているように見える。でも世の中にはずっと真顔でふざけたことを言い続けられる人がいることを私は知っている。
異世界人の腕力は圧倒的だった。私は学校から引きずり出されてしまった。今日はサボりになってしまう、とかそんな真面目な悩みは抱かなかった。ただ私は、もう後戻りができなくなってしまうのではないか、という不安でいっぱいだった。
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