異世界編または現代編
第3話かもしれないし、最終話かもしれない
放課後、見ず知らずの人に話しかけられた。
「これを拾った人はいませんか?」
その人は教室に入るなり帰り支度をしていた私にずんずん近寄ってきて、そんなことを尋ねた。まるで私が拾ったことが決定事項でもあるかのようだった。だったら質問内容を変えればいいのに、というより先に、私は別の疑問を口にした。
「コスプレイヤーさんですか?」
この学校にはアニメ研究部があったはず。そしてそこには可愛いだけが取り柄でそれ以外はすべて欠点だと女子の間で言われ放題言われている女子生徒が一人と、そのファンだとこれも決めつけられている多数の男子生徒が在籍している、そんな話を聞いたことがある。私はアニメ研究部に近づいたことがないのでそれが本当なのかどうか知らないし、どうでもいい。
でも教室に入ってきた人はコスプレイヤーっぽかった。金髪の女神のコスプレか、それともエルフの巫女あたりのコスプレか。とにかく制服でも日本人の私服でもない、清楚な印象の奇抜な格好をしていた。
「取り乱しました。これを拾ったのはあなたですね?」
そう言いながら奇抜な人は今朝私が拾って美術教師が結末と呼んだ、不定形で不安定ななにかを突きつけてきた。
「はい」
正直者の私はそう答えた。金の斧でも貰えるかもしれない、と思って。
「助かりました。とても助かりましたよ。お礼が言いたかったんです」
怪しい日本語の日本人なのか怪しいコスプレの美人は深々と頭を下げた。可夏子さんは先に帰っていて、他の教室内の生徒も私達が存在しないかのように続々と帰ったり部活に出かけたりしていた。
「お礼のやり方は、これであってましたよね?」
「ええ、まあ」
「これ、探してたんですよ。これがなかったら私達はどうなっていたことか!」
誰だかわからない人はなんだかよくわからないものを大事そうに抱きしめた。いい加減ふわふわしすぎて三半規管が悲鳴を上げそうになっていた。
「それは何なんですか。あなたは何なんですか。どうしてそれを私が拾ったことで助かったんですか。なんで私が拾ったことがわかったんですか」
どんなに説明が長くなってもいい、一旦地に足をつけさせてほしくて、私は疑問を連射した。
奇抜な女性の名前はフリュレであり、コスプレイヤーではなく異世界人であり、この世界から転生した夕凪隼人という超能力者と旅をしており、しかしその話は自分が登場した直後で投げ出されてしまっており、そうなると世界が止まったままになってしまうので困っており、仕方なく話の筋と設定を無視して現実世界に渡って、投げ出された話の結末を探しており、それは誰かが触れることでようやく形を持ち始めるものであり、私が拾ったことはスキル「ヘンゼルと鳩」で辿ることで判明したらしい。
と、女の人は説明した。
信じられる要素が一つもなかった。
だから私はフリュレという異世界人を自称する女の人を伴って病院へ行くことにした。
「あの、私はこれからこの物語構成物質を最終章に固着するための能力者を探さなければならないのですが」
「そういう人が病院にいるかも知れませんよ」
何もかも否定すると何をしでかすかわからない。こういった本気の人は否定すればするほどのめり込んでしまうものなので、私はフリュレさんをなるべく刺激しないようにしながら病院へ連れて行った。我ながら今日一番の頑張りを見せたと思う。帰ったら自分で自分を褒めてあげたい。
病院の受付の人は看護師ではない、と私は小学生の頃に母親に教えられた。だから受付の人がフリュレさんのことを完全に無視しているのは、あまりにもあんまりなひとが連れてこられたから見たくないのだろう、と思っていた。
しかし、そうじゃないことが診察室で病院の先生の口から告げられた。
「あなたの周りに、変わったものが見えるそうですね」
フリュレさんは私のすぐ脇に立っていたので、
「ええ」
と答えた。
「そうですか。最近、悩んでいることとかありませんか?」
先生は私を見て、そう尋ねた。
私はフリュレさんを見た。
「認識阻害魔法を使っているので、その人に私は見えていませんよ」
フリュレさんの輪郭が淡い緑色に発光しているように見えていたのは私だけだったらしい、と気づいたのは次回の診察の日時を聞かされてからだった。
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