繰り返し、進み続ける僕は

かわらば

繰り返し、進み続ける僕は

僕は歩く。ボロボロになりつつも足は止めない。時たま、手の中で鈍く光る「お守り」を見つめ、考える。これがあれば、「時」だって超えられる。これを僕にくれた子は、そう言っていた。

「あんな事」を起こさないために、時を超える。時を超えるために、山へ登る。

あんな悲しいこと、2度と起きないようにーー



「ほえ、ここが一番近い、パークの外の陸地だよー」空を飛んでいた、グレーの髪と服をした子ーーカワラバトはそう言った。

「ここがパークの外…ですか?」おそるおそる僕はそう言ったが、それは正解だった。なぜなら、パークでは一度も見たことのない、「ヒト」がいたからだ。

港にヒトは2人いた。2人ともとても驚いて慌てているようだった。それは無理もない。海から奇抜なバスのような船が来て、そこには猫耳と尻尾のついた少女と頭に翼が生えて空を飛ぶ少女が乗っていたら、それは驚くだろう。

結局、僕たちはよくわからないままに「偉い人」の所に通された。


「ほう、噂には聞いていましたが、まだジャパリパークってあったんですねぇ…」

「偉い人」の名前は角川(すみかわ)といった。いやらしい喋り方をする人だった。

「…はい。もうヒトはいなくて、フレンズさんしかいませんけど…」若干警戒しつつ、僕たちは角川さんと話をした。

「そうですか。では、かばんさんと個別にお話ししたいので、サーバルさんとカワラバトさんには席を外してもらいたい」角川さんがそう言うと、ドアからいきなり人が入ってきて、サーバルちゃんとカワラバトさんを連れて行ってしまった。

「サーバルちゃんたちをどこへ連れて行ったんですか!」僕が聞いても、

「聞くことが聞けたらお返ししますよ」と言うばかりで、何もいい返事は返ってこなかった。

仕方なく僕は質問に答えた。パークの今の状況や、どんなフレンズがいるか、普段の生活の仕方についても聞かれた。

終わったらサーバルちゃんたちを返してもらう。そのはずだったが、終わって何時間経とうとも、サーバルちゃんの姿は現れなかった。

数日間、僕は角川さんのいた建物にサーバルちゃんたちの居場所を聞きに行った。でも、毎回はぐらかされてしまい、結局わからなかった。陸地に着いてから1週間程経った頃だろうか。その日もサーバルちゃんの居場所を聞き出そうと、その建物に行く最中だった。

「…ジャパリパークってとこでフレンズを捕らえようとする奴らが近頃よく港に来てよぉ…」

2人の人が話していた。会話の詳しい内容は聞き取れなかったが、その一節だけははっきりと聞き取れた。


みんなが危ない。

直感的に僕はそう感じた。

急いでバスに乗り、パークへと急いだ。


パークのキョウシュウエリアに着くと、何やら異様な雰囲気を感じた。

誰もいない。いや、気配すら感じない。普段なら姿は見えなくとも気配は感じることができた。しかしそれすらも感じない。

僕は辺りのフレンズを探しつつ、僕は島の内部まで進んだ。

突然、僕は転んだ。

足元をよく見ると、2本の草が結ばれ、輪のようになっていた。誰かが意図的にしないとこうはならない。パークに、誰かを転ばせようとする、悪意ある誰かがいるんだ。僕はさらに警戒しながら先へ進んだ。

とりあえず、今パークで起こっていることを聞くために図書館へと向かった。


図書館への道には、相変わらずバリケードが設置してあった。心なしか以前より大きく頑丈になった気がする。越えていくのは難しいと思ったから、クイズの森の方を通った。

「すいませーん!博士ー!助手さーん!」

呼びかけても返事は返ってこなかった。

「おーい!だれかー!」

「あなたも我々の平穏を乱しに来たのですか⁉︎かばん!」

振り返ると、かなり怒った様子の助手がそこにいた。

「へ?な、なんのことですか…?」あまりの剣幕に僕はたじろぎながら応えた。

「あなたがパークの外に出たという知らせを聞いてから1週間後、島にヒトの一団が到着しました。彼らは島に着くなり手当たりしだいにフレンズを捕らえ続けました。しんりんちほーにいたフレンズもほとんどが狩られ、博士でさえも捕まってしまいました!まだ島には狩人がいます!我々はその間、常に怯えながらの生活を余儀なくさせられました!」

「そんな…僕はただ…」

「ここにはここのバランスがあるのです!おまえさえいなければ、我々もサーバルも危険にさらされることもなく、平穏のうちに一生を終えることができたのです!もうヒトは信用なりません!この森から…とっとと出て行くのです!」

僕は怒っている助手をこれ以上刺激しないよう、急いで森を出た。


森を抜けると、へいげんに出た。

これからどうしたらいいのかを考えていると、前から何かがものすごいスピードで飛んできて僕の頰をかすめた。

見ると背後にあった木に、細長い槍が突き刺さっている。この槍は見覚えがある。ラビラビこと、アラビアオリックスさんのものだ。

「誰かと思ったらかばんか。いきなり攻撃して悪かったな。つい狩人かと思ってしまった」

ラビラビさんが頭を下げようとするのをオーロックスさんが止めた。

「待て。大将の御命令は『平原に入ったヒトは全員追い出すか、消せ』だった。かばんはヒトだ。すなわち、かばんも追い出さなければならない!」

「そんな…僕はみなさんに危害を加える気なんて…」

「問答無用‼︎ 大将の御命令だ。今すぐにへいげんから立ち去れ‼︎」

僕はその気迫に負け、走って逃げ出してしまった。


へいげんから出てしばらくして、僕は走るのをやめた。

僕にはもう察しがついていた。

ここにあった僕の居場所は、もう跡形もなく無くなってしまったのだ。

今の僕は、完全なる「のけもの」だった。

もはや涙も出ないほど悲しかった。

PPPのライブで聞いて、あとでみんなで歌った歌の一節「けものはいても のけものはいない」がとても皮肉に思い出される。

ヒトは、自然から逸脱して文明を築いた。その結果、元からあった「自然」のバランスからも外れ、自然の中においては「のけもの」にしかなれないのだ。

助手が言った「お前さえいなければ」の言葉が頭の中をぐるぐる回る。

そうだ…僕がいなければサーバルちゃんはあのさばんなちほーから出ることなく、平和に暮らせたのだ。僕さえ生まれなければ、パークのみんなが守れたんだ。

僕はかばんから白い小さな石を取り出した。白と紫で模様が刻まれている。「お守り」だ。オイナリサマと名乗ったフレンズさんを助けた時にもらった。オイナリサマは「私とイヌガミギョウブ、そして四神の印を集めたなら、時さえも超えられる力を発揮するでしょう」と言っていた。これで時を越えれば、僕が生まれるのを阻止できるかもしれない。

あとは四神に印をもらえば、それが可能になるはずだ。僕はサンドスターの噴き出す山へ向かって歩き出した。


そして話は冒頭に戻るーーーーー


山頂に着く頃には、足は疲れ息も乱れきっていた。

僕は、記憶を頼りに四神の石板を掘り出した。前にアライさんたちと会ったのもここだっけ。ゴコクで別れちゃったけど、今も無事にやってるだろうか。

そんなことを考えながら、石版を東西南北に並べ、四神を起動させた。僕は、お守りを握りしめて心の中で祈った。

(今、パークの皆が危険にさらされています。それを救うため、僕は過去に飛びたいのです。だから、四神の力を分けてください!)

すると、返事が返ってきた。

(お前は過去に飛んで何をしたい?)

耳で聞くと言うより、心の中に直接響いてくるようだ。

(僕のせいで、皆が危険にさらされたんです。だから、僕が生まれるのを止めたいんです)

(なるほど、自分で自分を消すのか。もしもそれをしたならば、お前が築いてきた全てのことが消えてなくなるぞ。友も、思い出も、お前のやった一挙手一投足も全部だ。それでもいいのか?)

友。その一言がとても心に引っかかった。確かに、僕が生まれなかったらサーバルちゃんやアライさん、フェネックさんたちとの冒険も全て無くなってしまう。

でも、ヒトに捕まってどこかへ連れて行かれるよりは断然いい。外の世界も何も知らず、たださばんなちほーでのんびりと過ごしていってほしい。

僕は覚悟を決め、はっきりと言った。

(構いません。サーバルちゃんやパークのみんなが守れるのなら!)

するとすぐに返事が返ってきた。

(立派な覚悟を持っているようだ。よかろう、特別に印をつけてやる)

その言葉が終わるやいなや、お守りが輝き出し、そこには赤、青、白、黒の4つの印が刻まれていた。

(それを持ち、願いを思いながらサンドスターの結晶の中に飛び込むがいい。さすれば願いは聞き届けられよう)

これで、過去が変えられる。

僕はサンドスターが噴き出る火口へ一歩踏み出し、あとは重力に身を任せた。


サンドスターは、驚くほど無抵抗に僕をその中に入れた。

さまざまな旅のシーンが断片的に流れる。

「アライさんもいるのだ!無敵の布陣なのだ!」「あなたは…ヒトで「わーい!たーのしー!」「ここはジャパリパーク!私はサーバル!この辺は私の縄張りなの!」…




……



………



気がつくと、僕はジャパリバスの中にいた。


「あ、目を覚ましました?」


ミライさんが僕に話しかける。

それから、ミライさんはパークには動物が人間化したフレンズがいること、セルリアンと敵対していることなどを詳しく説明してくれた。

名前を聞かれたが、僕は「かばん」とは答えず、「トワ」という名前にした。


それから、僕はサーバルちゃんを始め、各チホーで出会ったフレンズさんたちと、フレンズ型のセルリアンーーセーバルさんを追う冒険を繰り広げた。

そして、ついにセルリアンのトップ、女王の野望を止めることができた。

女王は急激な進化に耐えられず、元の弱いセルリアンに戻った。ここでこの1匹を倒せば、「例の異変」は起こらず、ミライさんたちもパークから撤退せずに済むはず。それを提案しようとした時、カラカルさんがこう言った。

「もういいんじゃない?私たちもクタクタだし、女王にもなんの力も残ってないみたいだし」

そんな!僕は追撃の重要性を伝えようとしたが、何故か言葉が出ない。

そうしている間に、元「女王」は逃げてしまった…


それから、僕は沢山のフレンズさんとパークでさまざまなトラブルを解決した。しかし、いつも頭には逃げた女王のことが渦巻いていた。


そして、恐れていたことが現実になった。

セルリアンの超大量発生。

多すぎるセルリアンの前にお守りとフレンズさんの力をもってしてもなす術が無く、パークからヒトの完全退去が決定した。

このままでは以前、観覧車で見たように帽子が飛ばされ、僕が誕生することになってしまう。


そして、完全退去の前日。

ラッキーさんの映像通り、ミライさんは観覧車に乗った。

僕は観覧車の下で、帽子を捕まえようと待ち構えていた。

そしてミライさんの乗ったゴンドラが頂点に達した時、強い風が吹いた。

予想通り帽子は飛ばされ、僕は急いでそれを追った。帽子がさばんなちほーに出る直前、僕はなんとか帽子を捕まえることができた。

「ミライさん、これ、お返しします。さっき飛ばされたんで、追いかけて捕まえました」

「わあ!ありがとうございます!やっぱりかばんさんは優しいですね!」

僕は、内心で胸をほっと撫で下ろした。これで、少なくとも僕は産まれなくなる。

そして次の日、僕らはパークから出て行かなければならない。

僕とミライさん、そしてそのほかのパーク職員が船に乗り、パークを出る。

「ドタバタしたままパークを去ることになってしまったので、みなさん全員にお別れを言えなかったのがとても残念です…」

そんなことを言うミライさんを慰めたりしながら、僕は僕がいた時間に思いを馳せていた。

これでみんな、何も知らず、無事に過ごすことができるはずだ。

そう思った時だった。

1迅の風が吹き、ミライさんの帽子が風にあおられ、空高く飛んでいった。

一瞬のことに何が起こったか把握できなかった。気づいた時には帽子はもう彼方へと飛んでいた。

しまった。本当はこうだったのか。

目の前がだんだん暗くなり、意識が遠のく。

「サー…バル…ちゃ…」

そこで僕の意識は切れた。




いつのまにか、僕はサバンナを歩いていた。自分は何者か、思い出そうとするが思い出せない。

誰かの足音がする。追いかけられている?僕は必死に逃げて隠れた。でも、少しの物音で相手に気づかれ、僕は押し倒されて捕まってしまった。

押し倒した相手の顔を見て、僕ははっと気づいた。

「サーバルちゃん‼︎」

「ええ?なんで私の名前知ってるの?会ったことないよねー?」

「いや…会ったこと…あるよ」

「そうだっけ?うーん…わかんないや…ごめんね」

僕は冷静になって考える。

自分はかばん。ヒトのフレンズ。ヒトを探してパークを旅した。でも見つからなくてパークの外に行って…それを変えるために過去に戻って…でも変えられなくて…

おそらく、過去が変わらなかったから僕がまた生まれたんだろう。


パークの中にヒトはいないし、外に出たらみんながヒトに捕まってしまう。となると僕が旅をする必要はない。どこか誰にも見つからないところで、ひっそりと暮らそう。そう思ったが、あることに気がついた。

黒いセルリアンのことだ。

もしも今が僕が生まれた時期だとすると、しばらくしたら黒いセルリアンが現れる…キョウシュウにもアンインにもホッカイにも…あれはみんなで協力しなければ倒せなかった。ということは、またこの島のフレンズさんたちとの交流を持たなければならない。それにあの作戦にはラッキーさんとバスが必要だ。そしてバスを直すにはサーバルちゃんが必要だ。ということは、またサーバルちゃんと旅を続ける必要がある。


「どうしたの?」

サーバルちゃんのその一言で我に帰った。

「えっと…僕…パークのほかのところがどうなってるか知りたいんだ。でも、1人で行くのはちょっと…怖いから、サーバルちゃん、一緒についてきてくれない?」その場ででっち上げた理由を告げる。

「ええっ?別にいいけど…何で私なの?他にもフレンズだったらいっぱいいるよ?」

「それは…覚えてないかもしれないけど、サーバルちゃんが、僕の1番の友達だからだよ」


そうして、僕はサーバルちゃんと再び旅に出た。その間のことはもう書くまでもないだろう。


そして、パークの西端、ホッカイエリアにて。

「ええっ⁉︎パークの外にも島があるの⁉︎」

サーバルちゃんが驚いて言った。

「ほえ、そうだよー。遠くから見ただけだけど、なんか生き物もいるみたいだよー」

カワラバトさんが相変わらずのんびりした口調で答える。

「かばんちゃん!行ってみようよ!」サーバルちゃんが満面の笑顔でこっちを向く。

だめだ、行ってはいけない。サーバルちゃんの純粋で向日葵のような笑顔を見るとその言葉がどうにも言えなかった。

「あれ、ボスー!これどうやって動かすんだっけー?」

「あ、行くの?じゃあ案内するねー」

僕が迷っている間に2人はもうすっかり外に行く気になってしまっていた。この様子だと、止めても聞かないだろう。

もう一度、やり直そう。

僕は、お守りを握りしめて祈った。




……



………


これで何度目だろうか…数えてはいないが、旅で出会った全員の言葉を一字一句間違わずに暗唱できるから、とてつもない回数なんだろう。

どんなに頑張って足掻いても、ミライさんの帽子は飛ばされ、パークの外でヒトに捕まり、サーバルちゃんを失う結果にしかならなかった。どうやっても救えないならばもういっそのこと諦めたいが、僕の中にもまだまだ未練があるみたいだ…


目の前にはセルリアンがいる。セルリアンが僕に向かって迫ってくる。僕はそれを避けようともせず、快く受け入れる。

あと1m。サーバルちゃん。

あと70cm。今まで一緒に

あと30cm。いてくれて

あと10cm。ありがとう。

そして、目の前が真っ暗になった。


気がつくと、僕は黒一色の世界にいた。光の一筋もない、完全な闇。

ふと視線をあげると、遠くにかすかな光が見える。その光は輝きを増し、こちらへ近づいてくるようだ。

<ヒトよ、聞こえますか>声がした。正確には心に直接伝えている、という気がする。

「あなたは誰ですか⁉︎」

<私は火の鳥。あなたのことは全て知っていますよ>

「ならば答えてください!なぜ、どうしても僕はサーバルちゃんを救えないのですか⁉︎」

<フレンズは各種族の代表。そしてヒトは、地球を破壊し、数々の動物を絶滅に追い込みました。よって、ヒトのフレンズであるあなたに、ヒトが犯した罪を償う罰を受けてもらっているのです。あなたは大切なものを失う絶望を永遠に味わい続けるのです!>

「そんな…」

<残念でした。あなたはもう死ねません!>

そこで僕の意識は途絶えた。


サバンナを歩く。

でも何も感じない。

ただただ機械のように歩く。

もう限界だ。でもどうすればこのループから抜け出せるのかわからない。だから、これ以上精神を疲労させないように、何も考えずに先へ進もう。

「狩りごっこだね!」

懐かしい声が聞こえるが、振り返ってはいけない。振り返ったら、また別れが辛くなる。わかってはいるものの、体が言うことを聞かない。首は勝手に動き、声の方を捉えた。そこには、真夏の太陽のような笑顔のサーバルちゃんがいた。

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