現代病床雨月物語     秋山 雪舟(作)     

秋山 雪舟

第11話 「一期残夢(いちござんむ) その1 福沢桃助氏との会話」


 ここはバスの中で、バスはトンネル内を走行していた。しかしどこか違っていた。私はこのバスはエンジンではなく電気モーターで走行するK電のトロリーバスだと気がつきました。私はバスの最後尾の座席の中央に座っていました。バスの中は私の他には乗客はいませんでした。私とバスの運転手さんとの二人きりでした。

 バスはしばらくすると青いネオンサインの区間である80mの破砕帯を通り過ぎてとまりました。

 バスがなぜ止まったのかわかりません。すると運転手さんが立ち上がり私の方に歩いて来ました。私の前で立ち止まり帽子をぬぎました。運転手さんは、私ですよと言いました。

 私は何の事かわからず、どちら様ですかと尋ねました。運転手さんは、「福沢桃助」ですよと言い、あなたが私をあなたの夢の中に呼んだんですよ。

 そのバスの運転手さんは、ハンサムな美男子の福沢桃助氏でした。桃助氏は本来私は車の運転は苦手ですがあなたの夢の中では何でも出来るようになりますね。このようなことをして私は、ペンシルバニア鉄道(アメリカ)で見習いをしていたころを思い出しました。あの頃は若かったなあ。そうそうあなたが私を呼んだのは、K電を始めとする日本の電力事業がもし私が生きていたならどう思うかですね。

 まずその前に、あなたの夢の中で私の亡くなった後の日本の世の中の動きを知ることができました。しかし、K電はこの黒四ダムを創ってすごい情熱をもっているなと感心しました。また忘れてならないのがこの黒四ダムの完成の為に多くの労働者が犠牲になった事実も忘れてはなりません。犠牲の上に私たちの生活が砂上の楼閣ではなく堅牢な現実の楼閣が出来上がり、成り立っているのです。私も生きている時に100以上の事業を手がけましたが最初からそうだったわけではありません。逆に若い時の私は二度の結核を患って未来などないと思っていました。しかし、その入院(療養)中にやけくそで相場に手を出したのが成功しただけです。私は何故成功したのか秋山さん解かりますか。

 私は、解かりかねますと言いました。

 桃助氏は、人間未来がないと思うと世の中の事が慾得抜きで冷静に判断できるんですよ。しかし成功を重ねると生きたいと感じます。自分の生きた証を残したいと思いました。そして多くの事業を手がけたのです。相場師だけで終わる人生はいやだった。一度死んだと思えばたいていのことが苦も無くできるんですよ。

そうそう秋山さん、日本の電力いやエネルギーのことですね。私は、日本があんなにアメリカと仲良くしていたのにまさか私の死後にアメリカと戦争するなんてビックリです。核戦争を日本人が人類で初めて経験するなどとは思いもよりませんでしたよ。日本は急激に変わったと感じました。そしてその後の日本が21世紀になり再び放射能の被害に見舞われるとは。私の生きていた日本とは違っていますね。私が今の日本に生きていたなら未来に希望が見える様な事業に取り組みたいですね。放射能で傷ついた山川草木と日本人の心と体を癒さなければなりません。その時に大切なのは一度死んだと思い物事を考える事です。幾世代をも繋げていく事業をなすことです。今必要なのは最初の一歩の取り組みです。私は勇気をもって挑戦すべきだと考えます。諺で「二兎を追う者は一兎も得ず。」と言いますが二兎を追うべきです。私の生きた時代も日本を取りまく国際情勢は厳しくロシア(ロマノフ王朝)と戦争(日露戦争)をして何とか勝利しました。あの時も勝利が保証されていたわけでもありませんでした。

 しかし今の日本はあの時の様に戦争する必要はありません。平和目的をとおすべきです。黒四ダムのように自然を利用するのです。火山・風・海流・光です。また、原子力からの撤退というよりも大規模商業発電を中止し廃炉技術構築を世界に先駆けて取り組むべきです。そして癌や難病治療に放射線技術を集中的に発展させることです。雇用と命と地域を護る「御維新」を決断する時期が来たと思います。

 しかしここを見てK電はすごい情熱をもっていたなあとつくづく感じますね。秋山さん、最後は明日を信ずる勇気と情熱だね。そう言うと桃助氏は再び運転席に戻りトロリーバスを走らせました。

私はバスの後ろを振り返りました。破砕帯の青い光が遠のいて行きました。そして私の夢の記憶もそこでフェードアウトしました。

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現代病床雨月物語     秋山 雪舟(作)      秋山 雪舟 @kaku2018

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