第八話 近くにあった秘密
次の日。起きて早々に朝ご飯を済ました俺たちは、各々が自由な時間を過ごしていた。
斯くいう俺もカオス老人のご両親が過ごしていたという寝室へと訪れ、現在は昨日話した通り読書に勤しんでいる。
しかし、やはりと言うべきかここには旧態依然とした本ばかりしかなく、その殆どがお師匠さまの元で研究していた時に読んだものだった。
「はぁー、外れか。もしかしたら、と思って読んでみたが……。家の秘密とやらとも関係はなさそうだな」
背もたれに体重を預けた俺は天井を仰ぎ、目の付け根を揉みほぐす。
ふと横に視線を向ければ、こちらを覗くようにしてルゥが立っているのが見えた。
「なんだ、どうした?」
なんとなく気になって尋ねてみると、首を振られる。
「うぅん、何してるのかなって……」
「ご覧の通り、読書中だ。……まぁ、特に収穫はないけど」
そう言って俺は手に持っていた本をまた一つ積み上げた。
机とも相まって、ちょっとした人の大きさほどもある本の山が、経過した時間をこれ以上なく伝えている。
「……まだ、かかりそう?」
「ん? ……あぁ、まあな。秘密とやらも調べてみたいし、まだここに居るが……何か用でもあったか?」
急用かと腰を上げようとする俺に対して、ルゥは慌てたように手を突き出した。
「べ、別に。何でもないの……!」
そのままトテトテと階段を降りていく音が聞こえ、部屋は静けさを取り戻す。
……どうにも腑に落ちない部分があるが、まぁいいか。
椅子から立ち上がると、俺はグッと背伸びをして身体を解していく。至る所からパキッと小気味のいい音が響き、それだけで疲れが緩和した気分になった。
読み終えた本を全て棚に戻すと、他に何かないかと部屋をぐるっと見て回る。
しかしこれといってめぼしい物は見つからない。
「――ダメだ、何も無いな。これだけ探して出てこないとなると、もしかしたら俺の寝泊まりした客室の方……かも…………あっ」
突如として何かが閃く感覚。走馬灯のように様々な情報が頭の中をかけ巡り、一つの疑問を口ずさませる。
「――――そもそも、なんで客室がある?」
ご両親は両名とも勘当をされているとカオス老人から聞いた。それどころか、両種族からも疎まれた対象であるとも。
だとすれば、誰もこの家を訪れるはずなんてない。客室など作るだけ無駄だ。
「『過去に触れたとき、鍵が全てを暴く』だったか?」
昨日言われた言葉を思い出し、ポケットに忍ばせた鍵を握って俺はそう呟いた。
謎の客室の存在理由。それを暴くためには老人のご両親が何を考えていたのか、その過去を探る必要がある。
過去に触れる、とはそういうことなのだろうか?
何はともあれ、可能性を見つけた。
その一筋の光を確証という名の景色へと変えるべく、俺は件の客室へと足を運ぶ。
♦ ♦ ♦
「――やっと、見つけた」
捜索すること数分。
ようやく俺は、それらしきものを見つけることが出来た。
それは複数枚にもわたるこの家の設計図。茶色い封筒にまとめて入れられ、引き出しの中の天井部に貼り付けられていた。
机に広げて見てみれば、至る所に建築に必要な情報や部屋の説明が書き込まれている。
その一枚目には、この家の外装が記されていた。
森の中というドワーフには馴染みのない環境にも拘らず、家族がなるべく過ごしやすいようにと様々な工夫がされていることをこの図からは読み取れる。
続く二枚目は一階に広がる大部屋などの内訳だった。
ドワーフ語で大きく『Living Room』や『Kitchen』などと書かれており、誰がどのように使うのかまできっちりと想定されている。
そして予想できる通り、三枚目は二階の内部図だ。それと同時に一番気になっていたものでもある。
じっくりと全体を眺め、例の客室がある部分に目を移す。
しかし、これといっておかしな造りになっているわけでもなく、ただ一筆、これまでとは違う筆跡と言語でこう綴られていた。
『
つまるところ、あの部屋は客室などではなかったのだ。
「しかしまぁ、結局は振り出しか……」
分かったことといえば、あの部屋は謎の人物『レイネス』のために造られたということだけ。
その人物を見つけ出し、話を聞けば何か分かるのだろうか?
封筒にもう一度仕舞い直すため、順番を元に戻そうと紙をめくる。
「…………? あっ、これ四枚あったわ」
思わず素で声を上げてしまった。
今度こそ隠し部屋の存在かと期待し、食い入るように見る。けれど、その予期せぬ四枚目に描かれていたものは建物に関するものではない。
それは、カオス老人に贈られた腕輪の――土台に対する設計図だった。
その図によれば、土台の裏には鍵穴がつけられており、中に物が仕舞えるよう細工が施されているようだ。
「……盲点だった。けどまぁ、何ともまどろっこしいことをする……」
ひとまず、秘密とやらの答えを得た俺は、達成感から笑みを浮かべる。
「それじゃ、さっそく報告してきますか」
荒らした部屋を片付け、見つけた設計図を封筒に戻すと、手に持ち、階段を降りていく。
久しくも高揚した様子が、その足取りに表れていた。
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