第二章 忌み者たちの出会い

第零話 聴衆のいない慟哭

 昔から、この里が嫌いだった。

 父を憎み、母を疎み、儂を蔑むこの里の連中が大嫌いだった。


 人が他人を好いて何が悪い。

 誰かにとやかく言われる謂れなどないはずだ。


 儂の生まれがなんだと言うのだ。

 子供は自身の血を選べぬ。生まれるべくして生まれる存在。そこに文句の付けようなどあろうものか。


 ……なにも、親を悪く言っている訳では無い。

 生まれた子供に罪はない――誰もが知っている考え方だ。それにも拘らず、一々罪を数え出す奴らが心底恨めしいだけである。


 それでも儂がこの里を離れなかったのは、偏に恨むべき対象が里に住む者であり、母の愛したこの里そのものに罪がないから。父の形見であるこの家を手放したくなかったから。そして、儂自身にこの里を飛び出せるほどの力がなかったからだ。


 そうしてのうのうと生きているうちに、齢はとうとう百五十を越えようとしている。


 物静かな――より正確に言うなら、辺りに誰一人として存在しない孤独な森の中、揺り椅子に腰掛け穏やかな日差しを浴びながら、そっと目を閉じた。


 風がフワリと頬を撫で、木々のざわめきが耳元で語りかけてくる。

 そんな美しき協奏曲を乱すように、異なる複数の足跡が不協和音を響かせた。


 予期していたノック音が鳴る。仕方なしに重い腰を上げ、扉の前まで儂は歩いた。

 今更取られて困る物もないため、覗き穴などを見ることもなくドアノブに手をかける。


「誰かは知らんが、こんな老いぼれに何か御用かな?」

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