最悪な一日

「いやーガランも容赦ないっすねー自分もそう思うっしょ」


そうライフに共感を求めてきた人は小柄な女だった。

黒い髪を後ろで一つにまとめていて大きい目がとても目立っている身長がとても小さく10代前半なのは間違いない。

人が目の前で死んでいるのに笑っているという完全にこの町に住んでいると分かる。


ライフはこの少女の言葉に答えず固まっていた。


なぜ気づくことができなかったのか。


なぜこんな所で座っていたのか。


疑問がライフの頭を回る。


さっき言っていた名前もガランだったはずだならこいつは敵か。


「どうしたんすか固まって」


ライフにまた喋りかけてきたが、ライフに応じる気はない。


どう考えても敵だろ。


ここに隠れていて姿を現したのならライフを待っていたと考えるのが自然だ。

何かの能力なのかライフが戦おうとしているのに気付き倒しに来たのなら本当にこいつらが追っているのは


ライフは何も言わずに逃げる。


だが逃げられなかった右足を出した瞬間背中に重みを感じバタンと地面に衝突する。


「まだ話は終わってないっすよ」


何が起きたのか分からなかったライフの背中の上で樽に座っていた少女の声が聞こえた。


走り出そうとしたタイミングでこの少女はライフに飛びついたのだ。


「分かった逃げねーよ」


自分の背中に感じた重みの正体が分かりライフは逃げることをやめ話をすることにした。

敵かもしれないが時間がないこの状況ではしかたない。


「以外とあっさり」


ライフの言葉を聞いて驚きながら立ち上がる。

背中から重みを感じなくなったのを感じライフはゆっくりと立ち上がる。


別に全然重くはなく乗っていても立ち上がれたが情報相手に警戒されることは避けたかった。


「まずお前はそのガランっていうやつの仲間か」


「はいそうっす」


体に付いた土などを払い落としながら何気なく聞いたつもりだったが敵だと一瞬で認めたことで面食らう。


「まあそう言ってもあなたを殺す気はないですよ、分かっていると思いますが仲間もいません」


ここは路地の少し長い通路なんだが当然のように人はいない、建物などの上にも見た感じいないようだ。

だがそうなると話はややこしくなるこいつは敵だが殺す気はないのも分からないが話をしに来たといってもつい先ほどこの町にやって来たのだから知っていることなんてない。


「殺しに来たんじゃないならお前は何がしたいんだよ」


殺そうと思えばライフがまだ気が付いてないとき走り始めた時倒れた時攻撃を仕掛けるチャンスはあったが何もしてこなかった事を見ると今は殺そうとはしてないのか。


「だから話をしに来たんっすよ」


後頭部で手を組み少女は答える。


「話ってなんだよ」


「取引です」


そう薄く笑いながら少女は言う。


「まあ内容としては自分が――」


「――待て待てまず質問に答えろ」


ライフは彼女の言葉を遮り要求を出す。


「お前らが追っている奴ってどんな奴なんだ」


この質問は今ライフが一番知りたかった情報だ


しかし彼女が自分と取引したいと言っている時点で予想はついていた。

この質問は自分の予想が当たっているのかの確認のためだ。


その質問を聞いて少女は少し笑う。


「自分がついさっきまで会っていた女っすよ」


やっぱりか。


「もう捕まったのか?」


予想はついていたため驚きはしなかったがヤバい状況なのは変わらず、すぐに行動を起こしたいと話を切り出す。


「安心してくださいまだ捕まってないっすよ」


彼女が狙われていること自体がもう最悪の状況なのだが、その中ではかなりいい方向に進んでいた。


安堵のため息を吐いて話を進める。


「そうか、ならさっさと取引の話をしようぜ」


この町全体を探し回るよりも情報を持っている奴と取引することにした。


「え、もう質問したいことはないんすか」


思っていたことと違ったのか驚いていた。


「ああもういい時間が無いしな」


「分かりましたでもせめて自己紹介ぐらいはしましょうこれは遊びの取引ではないんで」


これから行われる取引の内容は聞いていないが、見ず知らずの人を頼るぐらい戦力が必要なんだろうか。

急いでいるのだが「分かった」とライフは承諾する。


もし裏切られた場合少しでも多くの情報を取れるようにと。


少女はライフの承諾を受け気軽な身のこなしでひょっいと樽にジャンプする体制を崩すことなく着地し座り込む、今度はあぐらではなく足をだらんと垂らしていた。


「アマルナ・フェルフェス、フェルと読んでいいっすよ」


フェルは友好的な笑顔をして、自己紹介を続ける。


「この町で生まれて今は15歳親はいなくて姉、妹、兄、弟誰もいないっす。家はここから10分ぐらい走った所にある古びたビルの最上階。好きな食べ物はパン嫌いな食べ物は魚。好きな生き物はトラ嫌いな動物は蜘蛛。母親と父親は私が10の時に町にやって来た盗賊にやられて死にました。父親は死んだ人もしくは殺した盗賊などから追い剝ぎしてそれを売る仕事、母親はこの町に初めてやってきた人を騙したり盗んだりして売る仕事をしてました。親が死んだ後はガランさんのグループに入って――」


「――頼むからそのくらいでやめてくれ」


ライフはフェルの目の前に手を突き出して長い自己紹介を強制終了させる。


フェルはまだ話したかったらしく不満そうにしていたがライフはこれ以上話をされないように自分の自己紹介を始める。


「俺はライフ、パリッシュ村出身で家族は全員死んで、今はこの世界を転々と旅してる」


「パリッシュ村? 聞かない村っすねここから遠いいんすか?」


「ああこの村からそう簡単に行くことを決めれる距離じゃない」


「お金はどうしているんですか?」


「旅の途中で拾ったものを売って金にしてるんだよ。自己紹介はこれくらいでいいだろ早く取引の内容をいえ」


「分かりましたよ。まあ取引って言ってもややこしいもんじゃないっすよ、ただこちら側があの女を助ける手助けをする代わりにそちら側はこの町のボスを倒す手助けをしてもらうそれだけっす」


フェルは焦っている様子はない、この町のボスを倒すことはそこまで苦ではないのか。


「分かった。それでいいから速く助けに行くぞ」


ライフは取引を即答で受諾する。


「ははははははは、ほんと面白いっすね」


そのことに驚きよりも面白さが勝ちフェルはお腹を抑えて苦しそうに笑う。


普通取引は本当に自分に利益があるか危なすぎる橋ではないか騙される可能性などを考え、相手の狙いなどを読んだり質問をしたりして相手を見定め最善の手をうつ緻密なことだ。


特にこの町のように騙し合って生きている所で何も考えずに取引をする者はいない新しく入って来たバカもそのレベルはいない。

現にフェルは一度出した取引に即答でOKを出した人にあったことはなかった。


小さい子供でも知っている取引の基本中の基本しかしそれをやらない人と会ったのだフェルは笑わずにはいられなかった。


「おい、何笑ってんだよ取引は成立だろ」


急に笑われて少し怒ったライフが言う。


「ははっは、はい取引は成立です」


フェル笑いすぎて息が切れ涙目になっていた


「じゃあ頼んだぞ」


そう言ってライフは友好の証の握手だと右手を突き出す。


だがフェルは手を出さないで喋りだす。


「ちょっと待ってくださいその前に一つしておきたいことがあるんすよ」


まだ半笑い気味で樽から降りる。


「これからのこともありますし能力を教え合いましょう」


能力を教えるってのはそんな簡単なことじゃない、当然いうことは簡単なのだが能力を言うということは一緒に弱点も言うってことだからだ。


例えば戦闘系の能力じゃないとばれてしまったら簡単に攻め込まれてしまい、火を操る能力者だとばれたら水系能力者が襲ってきたり自分の能力は生きるためにおいて簡単に教えられない情報なのだ。


本当に信頼できる仲間にしか教えないのだがそれを教え合おうということはフェルには相当の覚悟があるってことだ。


「それは後じゃダメなのか早く行かないと手遅れになるかもしれない」


「そうしたいんすけど、ライフさんが取引をすっぽかすことも考えられますし」


フェルはライフが女の人を助けた後取引を無視して逃げることを危惧していた能力を教え合うことはその保険なのだと。


「能力を知っているのと知らないことは余りにもでかい差がありますしね」


この能力の教え合いがライフを倒しやすくするためのことだとライフは理解する。


「分かった、さっさとやろう」


今やるしかないと承諾する。


「ありがとうございます、では」


承諾するとすぐにフェルはライフの目をジーと見てくる。

それから数秒間沈黙が走る。


「おいフェル」


「分かりました」


かたまってしまったフェルを呼んだすぐに動き出した。


「自分私を一ミリも信用していないっしょ」


突如言われたフェルの一言にライフは何も反応を表さず聞いていた。


「自分がすぐに取引に応じたのは急いでいるのもありますが、自信があったからそこには信頼なんて言葉はない違うっすか?」


面白そうに笑い、ライフの反応を見るように顔を覗き込む形をとる。

次のライフの反応をまだかまだかと待っている姿は普通の少女とは離れた存在だった。


「ああ、そうだ」


しかしライフはフェルの期待を裏切り驚くことはなく平然と答える。


その様子を見てフェルはがっかりするようにため息を吐き肩を落とす。


「まあそういう感じで私の能力は人の心を読む能力っす」


人の心を読む能力――それは言葉の通り対象が何を思っているのか何を感じているのか分かる力だ。

同じ人の心を読む能力でも違うことが多くフェルがどの範囲能力を使えるのは分からない。


「じゃあ次は俺の能力を教えるぞ」


「質問はないんですか?」


(そんなに強い能力なんすかねー)


ライフはフェルとの会話の中で最低限な質問しかしていない。

そこまで自信があるというと能力も相当なものだろうとフェルは興味が出ていた。


やはりこの世界の強さはかなり能力の良し悪しが関係している。

強いやつらは大抵強い能力を保持している。


「ああ」


「そうですかじゃあ説明お願いします」


「それならなんか斬れる物持ってないか?」


「斬れるもんすか、これはどうすか」


どんな能力を見えせてくれるのか楽しみに思いながらフェルは小さいナイフを取り出す。


それをライフは受け取る。


「よく見とけよ」


そう言ってライフはナイフを持っている反対の手をフェルの前に突き出す。

フェルはそれを何が起きるのか楽しみに見つめていた。


そしてナイフで少し手の甲を斬る。

その時のフェルは興奮しているようで、にこにこして手の甲を一瞬も目をそらさずまだかまだかと見つめていた。


しかしフェルの期待を一瞬で裏切ることになってしまう。


斬って赤い血が見えた瞬間、一瞬にして傷がなくなった。

跡形もなく、まるで斬ったのが嘘みたいなほど完璧に早く再生したのだ。


「俺の能力は再生ってことだ」


目の前の事実を説明しようと能力を明かす。


フェルの顔を見ると氷のように冷め切った顔をしていた。固まっていて無表情で手の甲を見つめている。

それを見たライフは何も声をかけることは出来なかった。


「なんて?」


それから少ししてやっと動き始める。


「再生能力だって」


そう言うと急に色が戻りライフの胸倉を掴んで自分の近くに引き付ける。


「なんすかそれ時間を返せ」


フェルが強く言い放つ。


「普通だったらそこは一滴の血で兵士を作れるような反則級の能力じゃないですか、それが再生ってなんすかそれ」


そう言ってフェルはライフを近づけたり放したりして訴える。


「なんで強い能力だと思ったんだよ」


「質問も全くしてこなかったですし、最後は圧倒的力で何とかなる感出してたじゃないですか楽しみにしてたんすよ」


限界だとライフはフェルを突き放す。


「それはお前が勝手に思い込んだだけだろ」


「そうっすけどそこは期待に応えてくださいよ。弱小能力」


なぜそこまで言われないといけないのか分からないが水に流しさきに進むことにする。


「分かった、分かったそれは俺が悪かった、これでいいだろ」


「全くすよ」


そうやって能力を教えることは終わったのでライフは改めて手を伸ばす。


「ほら、交渉成立だろ」


「弱小能力で不満はあるっすけど約束なのでいいっすよ」


そう言って手を握り返してくるフェル。


今ここに交渉が成立した



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