一つの可能性

ライフはかなりの注目を浴びて走っていた。


ライフを見ているほとんどの人がやばいのではないかと焦っている。


それはそうだろう、ボスが動き出そうとしている騒動に関わらないように静かにしているのに凄いスピードで道の真ん中を走り抜けているのだ。

このままライフが走り続けて巻き込まれることを恐れているようだ。


「やばいんじゃねーのか」


「誰か止めろよ」


「お前が行けって」


静かだった町がざわざわと少しうるさくなっていた。


巻き込まれないために町の住民はライフを止めたいのだがそれをやって目立つことを恐れていた。


こんな暴力がやまない町でも自分の命を軽く見ているものはいない。

もし止めるところを見られよくない方向に捉えられてしまえばそこで人生が終わってしまう。


こんな騒動に首を突っ込まず事が済むまで静かにしていたいのだ。


しかしこのまま放っておくと巻き込まれるかもしれない誰かが止めた方がいいのだが誰も止めようとはしない。


この状況に町の人はどうすれば良いのかと唸る人、最悪だと頭を抱える人、止めに行こうとして人に止められる人などがいた。


その人たちを含め全員から苛立ち、焦り、懇願色々な視線を受けライフは苦しい顔で汗を流し心にたくさんの負担を負っていた。


マジで早く行った方がよさそうだな。


「おいマジであいつ誰か止めろよ」


「勘弁してくれよ」


次々に飛んでくる怒りの言葉にライフは逃げるように走り抜けていく。


だがこの町の人口はとても多くいくら走っても怒りの視線からは逃れられなかった。


どこ行きやがった。


探すと言っても方向しか情報はなかったしかもそれはあの女性のいる場所の情報ではなく、その人を探している人がいる場所の情報だ。


仮にこの町のボスを見つけることができたとしてもあの女性の位置を特定しているかも怪しいところだ。

この町全体を捜索しているところをたまたま爺さんがこの方向で見ただけかもしれない。


だが最悪ボスを見つけることができればもし捕まっても助けることはできる。


「だが本当にあいつなんだろうか」


髪が青いと言われたとき一つの可能性がよぎってすぐさま走りだしたのだが。


髪が青い人なんてそんなに珍しいことではない全くの別人という線もあるわけだ。

そうなると今こうして走っているのは無駄ということになる、それどころかこの町の人から反感を買うことになるし、この町のボスに目を付けられるかもしれない。


もう少しなんか情報があればよかったのだが。


また爺さんのところに戻るのは時間が無くなるしれない、怒りを抑えている町の人に声をかけるわけにもいかないので、ライフは何も考えずに走ることにした。


少し前とは違ってこの町は少し声が聞こえるぐらいの静かな状態だ。

そのおかげで遠くの音が聞こえやすくなっているのだがライフは遠くから聞こえてくる足音に気が付いた。


正確な人数は分からないが複数人で走っていることが分かる。


こんなに町の人が怯えているのだ、たとえ子供でも何かの用事で走っているていうことはないだろう。


そうなるとやはりこの町のボスの部下とかだろう。

ボスとかから追われている可能性もあるがそれなら助けを求める声が聞こえてもおかしくないが全く聞こえてこない。


ライフは怪しまれないように町の人に紛れようと思ったがそんなことができる状況ではなく、見つかると怪しまれるが路地に身を潜める。


怒っているこの町の人に出来るだけ近づきたくはない。


こいつらが路地に入らないのは怪しまれないためか。


路地に入れば目立たないのだがこの町の住民は全員路地には入らず道の端で静かにしていた。

こうしているのはボスの命令とかだろう。


足音は少しずつ大きくなっていき、次第に小さくて聞き取れないが喋り声のようなものも聞こえれくるようになった


「ガランさんどこ行ったんだろ」


路地に隠れながら走ってきた人たちを見ると、男が二人と女が一人横に並んでジョギングぐらいのスピードで走っていた。


走っている三人めんどくさそうにため息をしている男と周りをきょろきょろしながらビビっている男と無表情で走っている女がいる。


めんどくさそうにしている奴は武器を何も持ってなく、怖がっている男は背中に長い槍をさしている、女の方は小さいナイフが腰回りに剣をたくさんさしている。


男二人が周りをキョロキョロ見渡していることと一人の男の発言でガランという男を探していることが分かった。

砕けた空気から敵などではなく仲間を探していることも分かる。


「本当ガランさんどこに、こんな町に僕たちだけ残して」


一人の男が怖がりながら呟く。


「何ビビってんだよ、それじゃいつになってもガランさんは超えらんねーぞ」


もう一人の男が励ますように言う。


「別に超えられなくても」


「だからその弱気がダメなんだって、弱いやつは先に死んでいくぞ」


指を指して強く言うがそこまで伝わなかったようで不満がありそうな顔だった。


「でもそのために今死んだら本末転倒で――」


「――あー今からその精神叩き直してやるからよく聞いとけよ」


全く意見を変えないことに少し苛立ちを感じ言葉を遮る。


「今俺たちはこの町で一番強い人のところにいるからいいが、例えばボスよりもガランさんよりも強いやつが来たらどうすんだ、ガランさんが負けた後にあの人より弱い俺たちが出てもすぐにやられるだけだろだから超えなきゃいけないんだよ」


始まった説教にめんどくさそうな顔をしながら聞き流す。


「それなのにお前はこの状況化のことしか考えてないからガランさんは別に超えなくてはいいとか、自分の身を守れればそれでいいとか何にも分かってないお前は今すぐにもその弱い心を捨てて――」


「――もうガランさんの言ってたところじゃない?」


まだまだ話しが続きそうなことを察し話を変える。


「ん、そうだなここらへんで待つか」


そう言って足を止めそれに続き残り二人も足を止める。

そこは運悪くライフが隠れているところのすぐ近くだ。だがこの三人なら逃げることができそうだ。


「ガランさんいつ帰ってくると思う?」


そしてもう話を戻されないように問いかける。


「ああ、すぐ帰ってくるだろあの人のことだから」


よっぽど信用されているのだろうガランという男が帰ってこない可能性を微塵を考えてないようだ。

さっきの問いかけも時間に関するもので帰ってくるかの有無ではなかった。


どれくらいかは分からないがこの町では相当強いのだろう。


「早く帰ってきてほしいんだけど」


「すぐ帰ってくるだろこんな話をしている間にも」


そんな事を一人の男が言った時ライフは後ろの路地から聞こえる足音に気付く。


ゆっくりと後ろを振り返ると黄色の髪の男が歩いてきていた。


戦い慣れしてそうなガッチリとした体に一匹の獣のような鋭い目腰には右と左両方に一つずつ剣を差していた。

そしてこの町では当たり前の砂などが付着した汚い服しかしある一点だけ他の人とは違っていた。

体の全体的に赤色のものが付いており臭いから血だと分かる、軽い足取りからこいつが斬られているわけではなさそうだ、ほぼ確定でこいつはついさっき人を斬ったのだ。


すれ違う時ライフを値踏みするように見てきた。


「ほらやっぱりすぐに帰ってきた」


そんな明るい声が聞こえてくる。

ライフはさっきまで見ていた三人を見ると、一人は笑いもう一人は安堵して吐息を吐き最後の一人はお疲れ様ですということなのか無言で軽くお辞儀をしていた。


「ガランさん終わったんですか」


「ああ急いで行くぞ」


目つきの割には強い言い方ではなく優しさが見えた。


ガランが走って行くとそれを追うように三人が走って行く。


三人の背中を見ながらライフはさっきのガランの目を思い出していた。

まるで獲物を見つけた猛獣なような目をしていた。


「めんどくさいのに狙われたかな」


そう呟いてライフはガランが来た道を進む。


ガランの服に付いた血は新しかった、流石にないと思うが念の為にと斬られた人を見に行く。


これから起きる可能性は大きく分けて四つだそれで何をするのかが決まってくる。


一つは一番最悪のパターンだがもう死んでいる可能性だ。

どんなに助けたくても死人は生き返させることはできない、残念だがこんな町に来た自己責任として割り切るしかない。


足跡を見るとどこからか垂れたのか地面に血がついている。


二つ目は生きているが捕まっているパターンだ。

この町が広いと言っても端から端まで行けない距離じゃないこの町の人なら拠点ぐらい知ってるだろう。

なぜ追いかけられたかは最後まで分からないが捕まった瞬間すぐに殺されるということはないだろう。

その場合なら助けに行くとライフは決めていた。


進む途中曲がり角などがあったが血の跡のおかげで迷うことはない。


今思うとこの炎天下の中今日は走ってばっかりだった。


三つ目は生きていてしかも捕まっていないパターン。

標的が違うこともあるが念の為に担いででもこの町に出すつもりだ。

死ぬ確率が0パーセントになるんだ、少しぐらいは多めに見てほしい。


四つ目はまず標的が違うパターン。

狙いがまず違ったなんてが一番いいパターンだ、本当の標的は気の毒だがすぐさまこの町を出なきゃいけない、いや出たい。


パターン1だとこの町を出て、パターン2だと戦い、パターン3だとこの町を出て、パターン4だとこの町を出る。


こう考えてみるとよっぽどのことがなければこの町を出れることになる。


ライフが安堵していると懐かしいような臭いがする。


それは昔にいやとなるほど嗅いだことがある臭いだ間違えるわけがない――血の臭いだ。


進むにつれて血の匂いが強くなっていくうちに少し遠くに何か大きいものが見えたまだ分からないが多分死体だろう。


生け捕りにするために浅く斬って動けないようにして誰かが拾いに来ることもあったが血の量から見てほぼ死んでいるだろう。


ライフはゆっくりと近づいていく。


近くまで行って確信に変わるそいつは死んでいた。


そいつの体を触って脈を図ったとか専門的なことはしていないが見ただけで分かった。

人の体については普通の人よりは詳しいどれぐらいの傷を負いどれくらいの血を流せば死ぬのかは分かる。


「間違いなく死んでるな」


50歳ぐらいの大きめの男性だ右手にはまだ剣が握られていた。


水溜りのような大量の血の上にうつ伏せになるように倒れていた。


死んでいるから当たり前なのだがピクリとも動かなかった。


ここで剣で戦ったが負けてしまい命を落としたそういうところだろう。


倒れているところしか血がたくさん流れていないことから一発だ。


ライフは目的の人物じゃないことを確認してその場を去ろうと死体に背を向ける。


別人で良かったと安堵していた。


こんな世界でこんな町だどこでだれが死のうと何にもおかしくない、一つ一つのお墓など作っていたら祈っていてもしょうがない。


それが正しいと思っている自分がいることが悲しかった


ライフが歩き出そうとした直前に声が聞こえた。


「100%ガランすねこれ」


ライフは反射的に振り返り視界にとらえる。


声を出した張本人は樽の上であぐらをかいて薄く笑っていた。









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