想定内
「やっと捕まえた」
その女性は捕まえるために長く走っていたのか大きく肩で息をしながら倒れている男を見ていた。
その人は――目立ちやすい水色の髪、水色の瞳。
ほとんど黒一色のフード付きのシンプルな服を着ていて、かわいいというか美人というのか整った顔をしている。
服は少し汚れていて、この町の住人かそうでないのかが分からなくなっている。
まだ息が荒れている状態で、散らばっている財布の下に歩きたくさんの財布を確かめるように掴んでいた。
別に怒っている様子はない、見つかったことに安堵しているようだ。
それから最悪などぶつぶつ独り言をしゃべりながら少し探した後自分の財布が見つかったのか1つの財布を手に取り立ち上がり歩き出す。
倒れている男の人と財布を残してライフの逆の通路をゆっくりと歩いて行っている。
このまま立ち去るのかと思っていたが、女の人は何かに気づいたようにまたこっちに戻ってきて財布をあさり始める。
しかし今度は特定の財布を見つけようとしているのではなく、全ての財布を次から次えとポケットに収納していく。
彼女は急いでいる様子はない、このすべての財布の持ち主を探そうってわけでもないだろう奪うことに何の抵抗もないようだ。
後ろから見ていたがそんな余裕はないらしいライフの財布も当然だが他のと一緒にポケットに入れられる。
厄介なことにならないように立ち去るまで黙っている予定だったが財布が返ってこなかったら意味がない。
今すぐ止めようと声を出そうとした途端それは人の言葉で妨げられる。
「あんた誰?」
座り込んでまま鋭い視線を向けて女の人はライフをにらんでいた。
声のトーンは低くかなり警戒しているようだ。
ライフはいきなりの言葉に少し驚いたもののすぐに言葉を返す。
「お前が今入れた財布の一つの持ち主だ」
「証拠は?」
彼女の言葉はきつく鋭いものでまるっきし信じていなかった。
まあこの町なら当然のことだ。
「証拠はないけど信じてくれ俺の財布があるんだ」
証拠がないのなら言えることはこれぐらいだ。
少しの確立に賭けてみたが案の定女の人は全く信用していなさそうで、財布をまだあさっていた。
「その財布全部持っていく気か?」
全部の財布を集め終わった彼女を見ながらライフは聞いてみる。
「何、悪い?」
「物を盗むのはやめた方がいいと思うが」
彼女から発せられる鋭い言葉とにらみつけてくる目におどおどしながらライフは答える。
ライフの言葉には耳を傾けず次は横たわっている男の人の服をあさりだした。
どうやら盗人が盗んだものだけではなく、そいつ自身の持ち物まで奪うつもりらしい。
「おい、頼むから話を聞いてくれ」
ライフが全く聞こうとしない彼女の肩を触ろうとした瞬間、彼女の右手が凄いいきよいで飛んでくる。
だが、当たるか当たらないぐらいの差でギリギリでかわし彼女の裏拳は空を切る。
すぐさまライフは体制を崩しながらも彼女から少し離れる。
「いきなり触ろうとしたのは悪かった、落ち着けって」
ライフはいきなり攻撃されたことに困惑しながらも己の不注意だと謝る。
だが彼女はまるで怒っている様子はなく立ち上がるとライフを見据えてくる。
「へえー。やるじゃん」
感心しているように薄く笑っていた。
「あんた財布の色は何?」
「は?いや黒だけど」
突然の質問に戸惑いながら答えると彼女は何やら自分のポケットをあさり始める、財布を抜きっとっては戻してを繰り返してるうちに3つの黒い財布を手に持っていた。
「どれ?」
どうやら自分の財布を選べということらしいライフはこの後どうあるのかと恐る恐る右だと答えると。
右の財布だけを手元に残して、その財布をこちらに投げてきた。
爆弾でも仕組んでるのではないのだろうかと思いながらも両手でしっかりと掴む。
何も起きない。
「いきなり返す気になったんだ」
ライフは財布をポケットにしまいながら当然の質問をぶつける。
「別にただ、取り合いになると面倒になると思っただけ」
ついさっきライフが攻撃をかわしたことから普通の人ではないと察したらしい、それなら一つの財布を渡した方がいいと思ったんだろう。
「もう一回聞くけどその男の持ち物を含めて全部持っていく気か?」
「おかしいことじゃないんじゃない。この町の人は全員やってることだし」
確かに彼女の言う通りこの町のほぼ全員が物を盗んだことがありそうだが、それを理由にするのは意識が軽い。
「まあそれならさっさとこの町を出て行けよ」
「は?何言ってんの」
「そんなたくさんの物を奪うってことはそれだけの憎悪を背負うってことだ。その財布の中持ち主の中に前より強いやつがいてお前が財布を持っていることがばれたら、分かるだろ」
彼女はあの動きからして、中々戦闘の経験を積んでいるのだろうがそれでもライフには攻撃を当てられていなかった。
手を抜いていたかも知れないがそれでも当てようとして当てられなかったのだ。
「私が財布を持っているとばれると思ってんの?」
彼女は分からないと眉をひそめていた。
この町で財布を持っていてばれる確率は低いだろうが一様可能性はあるのだ。
「そこで横になってる男に聞けばお前が持っていることがばれる」
「それがばれて見つかると?」
彼女が少しイライラしてきているのは顔を見れば分かる。
普通なら折れているところだがライフはそれでも止まらなかった。
「まあ普通はばれないだろうなだが、俺はその盗人とお前を見てここにこれた。運よくお前を見つけれるかもしれないだろ」
ライフのその言葉を聞いて彼女は面倒くさそうにため息をはく。
「そんな確率が低いことにビビッてられない」
彼女の言う通り日頃からその様な小さな可能性にビクビクしていたら埒が明かないのは確かなことである。
「低確率だったとしても、無駄なことはしない方がいいと思うが」
しかしそれでも、無駄なリスクはこの世界では無くしていかないと明日を迎えられないことはライフは知っていた。
「はーめんどくさ」
ライフの言葉は彼女の心には届かず、不機嫌になっているのはすぐに分かる。
「じゃあ私もう行くから」
そう言って彼女はライフに背中を見せゆっくりと歩いて行った。
「ああじゃあな」
その背中を見ながらライフは彼女に言葉を返す。
流石に彼女を止めてさっきの続きを話そうとは少しも思っていなかった。
さっきの話はあくまで、ライフの意見ただのアドバイスに過ぎない彼女とさっき会ったばかりの人が何かを強制させるのもおかしな話だ。
それに取っていったのはリスクを背負うだけの何かがあったのかもしれない。
ライフはそんな事を思い彼女とは逆方向に歩き出す。
第一目標である財布を見つけるは案外あっさりと達成された。
あっさり過ぎて返ってきたという実感がないのはさておき、これからどうするのかは全く考えていなかった。
「これからどうするにもまずは・・・・・・出るか」
それが頭に浮かんだこれからやることだ。
正直に言ってこの町は本当にゴミだった。
不注意だったのはある少しは本当に少しは取られる側に問題があると思うがそれでも限度がある一体どれくらいの時間で取られたのだろう。
そのことを思い出しライフはため息をはく。
それに、とライフは財布を取られた後のことも思い出す。
取られた瞬間に人を邪魔者扱いする店員、ぶつかっても謝罪を言わないむしろ暴言を吐く住人、まず一番に警察すらもいない。
長年旅を続けてきたがここまで酷い町は初めてだった、もし旅の本を出そうもんならそのページをフルに使って悪口をかけるぐらいだ。
まずこの町はどうやって始まったのだろう、流石に生きていることはないと思うが一言文句を言ってやりたい気分だ。
最初の住民がどれだけいかれていたらこんな町ができるのだろう。
とにかくすぐに出てやろうとライフは迷路じみた道を早歩きで進んでいた。
歩き出して数分だろうか、やっと運がよくなってきたと道が開けたところに出ることができた。
本当なら喜んでいるところだがその不可解な状況を目にしたおかげで不安でいっぱいだった。
「静かすぎるだろ」
こんなに静かなことは数秒前にも気づいていたがたまたま全く人がいない所に出たのかなと思っていたがそうではない。
人はたくさんいた、それも子供とかお年寄りだけでもなく体にあざだらけのいつも喧嘩をしているのが想像できる青年もいる、その全員が黙って静止していた。
今まで騒がしかったのが噓のようにまるで別の町に変貌していた。
住民のほとんどがは自分の家らしき段ボールに入っている。
まだ発達していない子供までも静かにしているその異常な光景にライフもまた今の住民と同じで固まっていた。
何が起きて。
ライフは何が起きたのだと周りを見渡すと一人の少年が目に留まる。
少年は震えていた。
それは寒いからではない、何かに怯えているそう思った。
それに気付くと少年だけではないこの周辺の人のほとんどが怯えていると感じ取った。
いつも喧嘩喧嘩喧嘩やっている自分勝手な連中が何かに怯えて黙っているのだそれほどまでのことが起こったのだろう。
何が起こったのかそれにつながる疑問がある。
どこまで静寂が続いているのか。
この問題はこの周辺だけの問題なのかそれともこの町全体の問題なのか、耳を澄ましても音は全然聞こえてこないが今どこにいるのかもどれくらい広いか分からないため判断はできない。
「何が起きてんだよ?」
「動かん方がええぞ」
ライフが情報が少なすぎてどうしたらいいのか分からずにいるとそれを見て爺さんが低い声で喋りかけてくる
年齢は見るからに年寄りだった髪は白髪で白髭が結構伸びていた見た感じ80歳ぐらいと思った。
身長もあんまし高い方ではなく、背中を丸めていることでさらに小さく感じられる。
服装はこの町で何回も見かけるような茶色ぽい色の服だ。
「この町のボスが動き出したんじゃよ目立たん方がええ」
その言葉にライフは少し動揺していた。
「動き出したってなんでだ」
この町に来てそんな経ってないのに町のボスが動き出した不幸にも限度がある。
ただの偶然かそれか・・・・・・。
「誰かを見つけるためじゃよ、とにかく動くぬことじゃな」
そのことを聞いてライフの頭の中には一つの可能性があった。
「なあ爺さんそのボスが探しているって人どんな奴か分かるか?」
「どうじゃったか」
爺さんは顎に手を添えて思い出そうとしている。
「もしかしてそいつの髪の色水色だったりするか」
もしかしたら。
「ああそういえばそうじゃったな」
100%ではない何かの間違いかもしれないだが間違いではなかったらそう考えるとライフは止まっていることは出来なかった。
「そのボスはどこに行っていた?」
この町のトップなら情報網はとんでもないものだろう。
それが動き出したらもう見つかっていてもおかしいことじゃない、ボスの方に行った方が見つかっていてもいなくても見つけやすい。
「そっちじゃがお前さん」
爺さんはライフの後ろの道を指で指しながら答える。
そしてその質問からこれからライフが何をしようとしているのかを悟る。
「ありがとう爺さん」
質問に答えてくれた爺さんに笑みを送りライフは走り出す。
正直ライフは自分が何をしているのか分かっていなかった。
少し前の事もそうだが、初めて会った人にしてはお節介すぎるそう思っていた。
全ての人に手を差し伸べて道を教えてあげるほどやさしくはないだが。
彼女は何故か放っておけなかった。
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