第47話 今後の扱い
先程、来たばかりの第一謁見室に、セリカたちは座っていた。
人数は増えていて、魔法量検査室の室長という白衣を着ているおじいさんや、魔法部門のトップ、果ては行政のトップである行政執行大臣、大蔵大臣までが顔を揃えていた。
その増員した人たちと一緒に会議テーブルに座っているのは、ジュリアン第一王子とラザフォード侯爵であるダニエルだ。
セリカたちは応接セットのソファから会議の様子を見守っていた。
「とにかくセリカは私の妻だ。どこにも出さないし、王宮に留め置くつもりもない。」
ダニエルは一貫して、セリカをかばってくれている。
実はさっきの魔法量検査で、セリカは魔法量を計る機械を壊してしまったのだ。
セリカたちが地下から上がってみると、オペレーションルームは騒然としていて、魔法量を計っていた装置は煙を上げていた。
「ラザフォード侯爵、あなたも数値が特定できませんでしたが、奥さんは奥さんは……化け物並ですっ!」
髪の毛がボサボサのお喋りクルトンと言われる人がギャアギャアと
「もう一度言ってみろ。お前の脳天をかち割ってやる。」
そんな二人の横で消火活動をしている人、異常事態を聞きつけてやって来た人などが混然一体となって、とにかく大騒ぎになっていた。
ジュリアン王子が「皆、落ち着け!」と一喝していなかったら、収拾がつかなかっただろう。
あの魔法量検査の機械は、ダルトン先生が王国の魔法部門にいた頃に作ったものだそうだ。
そのため装置の基準が、当時魔法量が一番多かったダルトン先生に合わせて作ってあったらしい。
国王とジュリアン王子は、ダルトン先生より少ない魔法量だっため計ることが出来たが、ダニエルの魔法量は規格外になってしまい計れなかったそうだ。
その妻のセリカが機械まで壊してしまったのだから、国を揺るがす一大事となってしまった。
行政執行大臣が、皆が今まで口に出さなかった核心にとうとう触れた。
「ラザフォード侯爵閣下、あなた方ご夫妻は今のファジャンシル王国で最も魔法量の多いカップルとなります。貴方は国王の血をひいておられる。国を…
ジュリアン王子のこめかみがピクリと動き、会議場がシンと静まり返った。
ダニエルが立ち上がり、一人一人を鋭い目で睨んでいく。
「あなた方は、私が国王やジュリアン王子に反旗を翻すとでも言いたいのかな?」
「…しかし魔法量が…。」
何か言いかけた魔法部門のトップの言葉をダニエルが遮った。
「魔法量だけで国はまとめられません。私もセリカも平民の血を引いている。ついて来る貴族は多くないでしょう。それに私はそんな危ない橋を渡るよりも、魔法科学研究所で研究を進めて、国民全体の生活の底上げをする方が性に合っているのです。セリカ…。」
「は、はいっ。」
「君の夢はなんだ? 私はまだ聞いていなかったな。」
こんな緊迫した中で、ダニエルに夢を聞かれるとは思ってもみなかった。
「えっと…私は菜園で野菜を育てたいです。そして王都でも父さんのご飯と同じ味のものを作って、食べたいと思っています。それからできたら、ダニエルと朝昼晩のご飯を一緒に食べられたらなぁと思っています。」
「……………………。」
エレナもぽかんとしていたし、謁見室にいる人全員が呆けた顔をしてセリカの方を見ていた。
突然、ジュリアン王子とダニエルが笑い出した。
「ククッ、ダニエル、いい嫁をもらったな。私の手柄も少しはあるぞ。」
「ああ、今ではクリストフにも感謝している。」
ダニエルは他の人に向かって言った。
「私の言う条件を王国執行部がのむのなら、私たち夫婦は今後とも科学、経済と食に関して国に貢献していくことを約束する。」
「条件?」
ダニエルの出した条件は、こんなことだった。
★ ラザフォード侯爵夫婦の魔法を軍事的、政治的に利用しないのであれば、壊れない魔法量検査の機械を無償で魔法科学研究所が提供する。
これには、大蔵大臣と魔法量検査室室長の目が見開かれた。
★ ラザフォード侯爵は、今後、第一夫人であるセリカしか妻を持たない。これ以上結婚話で煩わせないのであれば、生まれた子どもの結婚相手として貴族の希望を
これにはジュリアン王子が大笑いしていた。
ダニエルはよほど、結婚話に
行政執行大臣が悔しそうに顔をゆがめている。
「それぐらいのことでは諦められない魔法量なんですよ。国を一つ手に入れられるかもしれない。」
「私たちに干渉しようとする人間がいたら、それこそ徹底的に魔法で叩き潰すまでですな。」
ダニエルの冷たい声が皆の間に戦慄をもたらした。
「…脅しですか?」
「あなたのやりたいことはあなた自身が叶えればいいでしょう。こちらの生活を壊してまで、その力を借りたいというのなら、こちらも黙ってはいないということです。」
「もう止めろ。ダニエルも大臣も。」
ジュリアン王子のとりなしで、その場は一応収まった。
けれど、行政執行大臣はまだ何か言いたそうな顔をしていた。
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