第48話 衣装合わせ
レイトの街に来たついでに、結婚式の衣装合わせをしていくことになった。
ドレスを注文している店が、なるべく早く奥様を店に連れて来て欲しい、とダニエルに言っていたらしい。
サイズ通りに作ってはいるものの、曲線に合わせるところなどは、細かい調整が必要だという。
馬車が止まったところは、四階建ての大きな建物だった。
周りには二階建ての店が建ち並ぶ中、この店だけが王宮の建物のような造りになっている。
「ここが王都の貴族がよく利用しているブリアンという店だ。オーダーメイドの服は、ここに頼むことが多い。」
ダニエルが言う通りなのだろう、この店の車寄せには何台かの高級な馬車が止まっていた。
セリカたちも馬車を降りて店に入っていくと、すぐに執事のように見える男性がやって来た。
「ラザフォード侯爵閣下、お越しをお待ちしておりました。」
「こちらは妻のセリカだ。アリソンはいるかい?」
「はい。部屋にお通しするように言付かっております。こちらにどうぞ。」
ふかふかの絨毯が敷いてある廊下を通って案内されたのは、宮殿の謁見室に劣らないほどの豪華な応接室だった。
ここでもソファに座るとすぐにお茶が出てきた。
セリカはクセになっているようで、ついつい給仕をしている人の動作をじっと見てしまう。
ここの人は、宮殿の謁見室の給仕の人より洗練された動きをするわね。
― 男の人よりも女の人の方が、優雅な雰囲気に敏感だから
じゃない?
そうかもね。
「いらっしゃいませ、侯爵閣下。やっと私の願いを叶えてくださったのね。」
「君が何度も催促して
ダニエルとアリソンという人は親しい間柄のようだ。
こんな風にダニエルもフランクに話せるんだな。
「それでは奥様、ご主人の許可も頂けましたし、こちらにいらしてくださいな。」
「わかったわ、アリソン。私のこともセリカって呼んでくださる?」
「…光栄ですわ、セリカ。ふーん、侯爵閣下のデザインセンスも捨てたもんじゃないですね。閣下が選んだドレスは、とてもあなたに似合いそう。」
セリカとエレナは隣の部屋へ連れてこられ、あっという間に下着だけにされると、あちらこちらをメジャーで計られた。
エレナも花嫁の付き添いとして統一感のある衣装にするらしく、サイズを計られている。
「こんなおばさんになって、結婚式の付き添いをするとは思ってもみませんでした。」
「あらエレナ、これから結婚する息子さんたちのためにもいい経験じゃない?」
「もう奥様ったら、付き添いの衣装と花婿の母の衣装は違いますよ。」
エレナは苦笑しているが、アリソンはテキパキと寸法を紙に書きながら、こちらを見ずに口を挟んできた。
「そうねー。でもサイズを計ったりデザインを決めていく手順は一緒ですよ~。はい、お疲れ様でした。エレナさんは服を着て下さい。セリカは仮縫いしてるドレスを持ってくるからこのままね。」
そう言って奥に引っ込んだアリソンが持って来たのは、真珠の光沢がある白い布でできたウェディングドレスだった。
「うわぁ、綺麗ねぇ。フリルが
夏の衣装らしく軽やかなデザインだ。
「六月の花嫁ですからね。薔薇をテーマにしてみました。」
アリソンがドヤ顔をして、ドレスをセリカに着せてくれる。
「ふむふむ、胸とお腹はこれぐらいであまりつめないほうがいいですね。」
「どうして?」
「だって結婚式まで一か月あるでしょ? おめでたになる可能性も考えておかないと。」
…………。
そんなこと全然考えてなかった。
そう言えば、ミランダもすぐに妊娠したよね。
― ハリーのお姉さんの旦那さんのダギーは野性的だから。
…でも、ダニエルも結構…かもね。
背中で色気をどうのこうのと言いながら、アリソンはサイズを調整していたが、セリカはまだ見ぬ赤ちゃんのことを考えていた。
◇◇◇
セリカは帰り道の馬車の中で、ダニエルが昨夜言っていた策のことを聞いてみた。
「何か良い策があると言われてましたけど、何だったんですか?」
「…私が考えていたことを、君は全部ぶち壊しにしてくれるからね。君に関しては策を考えても無駄だったかもしれない。ほらコルマの件もそうだし、ダルトン先生に言われた魔法量の件も、結婚式も早まったし、魔法量検査の機械も…。」
「ごめんなさい、壊しちゃって。」
「いや、君が悪いんじゃないんだよな、これまでのことにしても。実はね、私は君の魔法量がダルトン先生クラスだと考えていたんだ。その予想は遥かに超えてしまったんだけど…。」
なんか…すみません。
「私は常々、複数の奥さんは持ちたくないと思ってたんだよ。」
本当は、結婚もしたくなかったんだもんね。
「しかしどうしても身分的に逃れられない結婚への圧力があった。」
私との結婚もとうとう王命が出ちゃったし。
「しかし君の魔法量が多いことを高位貴族が知ったら、結婚しなくていいと思った。だから、お喋りクルトンとビショップ公爵の手の者を、その宣伝に利用しようとしたんだが…。フッ、上手くいったとは言えないな。」
「? どうして私の魔法量が多いことを知ると、ダニエルが結婚しなくてよくなるんですか?」
「前に言った貴族の奥さんの序列のことを覚えているか?」
「魔法量や家柄で序列が決まるんですよね。」
「そうだ。どちらかというと魔法量の多さが優先される。公爵家のお嬢様が平民の下の第二夫人にあまんじるだろうか?」
「…ああ、そういうことですか。」
確かにプライドの高い人だと嫌がるだろうな。
マリアンヌさんとペネロピのことを見ていてもよくわかる。
子爵家を動かす権限はほとんど第一夫人が持っている。
第二夫人に持たされるのは補助的な役割だ。
第一夫人が公平性のあるできた人でないと、第二夫人や第三夫人は肩身の狭い思いをしなければならない。
マリアンヌさんは気配りができる人だったけど、それでもペネロピは悩むこともあったもんね。
高位貴族の家で育った娘さんだと、その環境には二の足を踏むだろう。
「しかし君は私よりも多い魔法量の持ち主だ。子どもを産む人材としては国の宝になる存在だ。そのことを利用して
「これから生まれる子ども達の相手…ということですね。でも…親が嫌だったことを子ども達に強要するというのは、そのぅ…。」
「態度いかんによっては考えてやってもいいと言ったんだ。あちらの願いを丸呑みするわけじゃない。」
いかにもダニエルらしい言い回しだ。
でも子どもに結婚を強要するんじゃなかったらいいかな。
「それよりもこれから注意しなければならないのは、君やこれからできる子ども達の誘拐だな。コール、至急、護衛の者を手配してくれ。」
「はい。」
「屋敷の警備も強化するか…何かいい警備方法はないかな。」
― あ、セキュリティの強化ね。
私、知ってる。
外国の恋愛小説を読んでいた、奏子が提案したセキュリティ対策は、ダニエルを感心させた。
「ふーん、それは面白いやり方だな。魔法量が少ないものでも作動させやすいかもしれない。よし、フロイド所長に提案してみよう。これは商売になるかもしれないぞ。」
…フロイド先生、ごめんなさい。
また忙しくなっちゃうかも。
― もしかして私、ダニエルの傘下企業に、セキュリティ会社
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