書評16.あるいは三角コーナーと私

縁あって、レヴィ=ストロースの『野生の思考』を図書館で借りてきました。

序文を読んでいてしみじみ思ったことは、『同士がいるっていいなぁ』でした。

20世紀のフランス言論界はスーパースターの集まりですよね。

「書評14」で触れた進化論の話にもつながりますが、志の高い優秀な人材が集まることによる相乗効果は、一人当たりで2倍や3倍どころではありません。

アイディアとモチベーションの両面において、お互いに刺激し合い、イノベーションが加速します。


今回の書評作品の作者は、「男子高校生四人組グループ」の一員だそうです。

カクヨム上での活動っぷり(他のメンバーの作品もまとめて上げてる)を見る限り、その中心的メンバーの一人と思われます。

集中的に何かに取り組むにも、どこかで挫折せずに長い期間の活動をつづけるにも、「仲間がいる」というのは、とても強い支えになると思います。

ユーチューバーも、だいたいは仲間同士で支え合いながら活動しています。

これから、カクヨム上にもこういったユーザーが増えていくでしょうか。

その際、複数のアカウントをグループ化する「サークル」のような機能が必要になってくるかもしれません。



書評16.『三角コーナー』 作者 鷦鷯飛蝗

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885866464


哲学的省察が非常に明快であり、そこが気持ちいい。

論理の扱いにある程度長けていないと、ここまで要を得て簡潔に表現するのは難しいと思ったが、作者が高校生であると知った時に驚いた。


「概要」が、本編を読む前にしてすでに、その説得力を十分に表現しているので、ここに引用する。

――概要――

 三角コーナーになりたい私は、ある日自宅の三角コーナーから、全宇宙の三角コーナーを一所に集めることで出現するという三角コーナーのイデアに接続すれば、三角コーナーになれる、と告げられる。三角コーナーを買い占め、各家庭の三角コーナーを或いは買い取り、或いは貰い受け、或いは盗み出す日々。そんな中、私は三角コーナーが既に地球と言う一所に集まっていることに気付く。即ち地球こそ三角コーナーのイデアである、と。であれば自身は地球の生態系の中にあり、三角コーナーのイデアと一体であるのだから、自身が三角コーナーであると思えるはず。であるにも関わらずそうではない。その理由を考察していく中で、私は遂に一つの結論に達する――

―――――


さて、本編は上記内容が戯曲形式で展開される。

そこで提示される会話の中身と、哲学的気づきは、非常にすっきりとして明快である。

ただ、その哲学的発見は、三角コーナー以外のあらゆるものにも、まったく同様に援用可能だ。

とすれば、これから始まる「私(主人公)」の旅は、「なぜそれが三角コーナーだったのか」を探る旅でなければならないだろう。

他の何にでもなれる環境の中で、ただ一つ三角コーナーになるためには、「三角コーナー以外の何物でもなく、まさに三角コーナーにならなければならない理由わけ」を見出す以外の方法はないはずだ。


もちろん、それは筋書きでなく、演出で見せられるならば、それも可能だろう。

「そうか、三角コーナーでなければならなかったのだ!」ということを観客も了解できた時、そこには強い感動が訪れるはず。

哲学は一般に向かうものだが、ドラマは個別性から生まれるものだから。

そしてしばしば、個別性からこそ、まだ世界の誰も提示していなかったような、一般的真実の新発見ももたらされるものだろう。

世界を変えたレヴィ=ストロースの理論も、個別の民族研究から生まれたように。(まだ読んでないけど)


書評16.『三角コーナー』 作者 鷦鷯飛蝗

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885866464

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