第七話「夜は更け、日は登る」

美月ちゃんの生活用品を色々と購入し、僕達は二人で一緒に僕の……いや僕らの家へと帰宅した。

「いやー、疲れちゃったねー」

「そ、そうねー」

……帰ってきたはいいものの、あんなことがあったのでお互いなんだか落ち着かないし恥ずかしい。やはり手をつないだりするのは早かったかな?でも、手をつなぎもせずに結婚する人も聞いたことないけれど。

「もう夜も遅いから……寝ちゃいましょうか。明日もきっと早いだろうし」

「あ、そうだね。確かに僕も仕事があるし」

「でもねマコトくん、ひとつ問題を見つけてしまいました」

僕も今更ながらひとつの問題を見つけてしまった。買ってきたものを整理する手が自然と震えてしまう。


ー布団がひとつしかない!


「あの、その、布団がね」

「う、うん分かってるよ、分かってる」

ああ、恥ずかしがる美月ちゃんもかわいい。このままずっと見ていたいけど、ここは我慢してこの状況を打開せねば。

「最悪、美月ちゃんだけでも寝てて。僕は別室で徹夜で仕事しておくっていう手もあるから」

「で、でも。私だけ寝てるなんてなんだか罪悪感が……」

確かに僕も友達と旅行に行ったときに一人だけ寝てたら辛い。特に女の子は何か申し訳なく感じるのだろう。

「う、うーん。じゃあ、僕はこたつで寝よっかな」

うちには7月だというのにこたつが出ている。寒い時は温風ヒーターが入り、暑い日には冷風が通るようなとても便利なこたつなのだ。まあ、Amezonに勤めてるので仕事中に商品の売れ筋についてまとめている時にたまたま見つけたようなものなんだけど。

「このこたつ、すごいんだよ。夏は冷風が吹いてクーラーみたいな役割をするんだ」

「へぇ〜。すごい。じゃあ、私がここで寝るっていうのはどう?マコトくんは自分のベットで寝てて」

「いやいや。僕がこたつで寝るよ。女の子をこたつで寝かせることなんてできないよ」

女の子をこたつで寝かせて自分はベットで寝るなんて男として最低だろう。

「どうしよう。このままじゃ二人とも寝れないという最悪のシナリオが浮かんでいるんだけれど……」

「よし、わかったわ!」

突然大きな声を上げた美月ちゃんは腕を大きく振りかぶり、まっすぐ僕を指差しながら

「ふたりで一緒に寝ましょう!」

「え、ええーー!?」


はい。そんなこんなで、二人で一緒に寝ることになりました。友達の原カズキに言ったらどんな顔するかなぁ。羨ましがるだろうなぁ。でも、とは言え僕も誰かと一緒に寝るのは初めてなんだけどね!





「じゃあ、先に僕から……」

「え、ええ」

僕はいつものように自分の布団に潜り込む。視線を感じているとこんなにも落ち着かないものなのか。これが人間……いや、ヒトの本能というものなのだろうか。おばあちゃんの言葉がふと思い浮かぶ。

『誠、自分の弱みを見せることだけは決してしてはいけないよ。いつでも死ねるくらいの覚悟を持って今、そしてこれからいつまでも過ごしていきなさい』

僕のおばあちゃんは小説家だった。それもあってか色々なことを学んできた。それらひとつひとつの言葉たちは今も僕の中で生きている。

生きている……そうか、この教えを今の状況に当てはめれば良いのか!

そんなことを考えていると、もう目の前に美月ちゃんの顔があった。すごい、僕の部屋で、僕の目の前で、僕のお嫁さんがパジャマ姿で緊張半分恥ずかしさ半分みたいな表情をしている。こんな体験初めてだ……!

「じゃ、じゃあお邪魔しま〜す…」

「どうぞ……!」

まず言えることは普段寝てる時の5倍は暖かい!ってこと。すごく体がポカポカしている……!

「あ…あたたかいね〜」

「ひえっ!?そっそうね!!あたたかいわね」

あれ?なんか好感度すごく下がってない?


『いやいや〜。それはダメだよ誠』

『えっ!?お、おばあちゃん!?』

突然おばあちゃんが脳裏に浮かんできた。ええー、このタイミングで!?という僕の勝手な感想は置いておこう。

『誠、相手は元同級生とはいえこれからの人生を共に過ごしていく方だぞ……?』

『う、うん。まあそれはそうなんだけどね。こんなこと初めてだからどう接すれば良いのかが分からないんだよ……』

『なるほど、そんな時は世間話をするのが一番だよ』

『世間話!?二人並んで眠ろうとしている時に世間話!?』

さすがにダメじゃないだろうか?寝ようとしているのに目が覚めてしまう。本末転倒ではないか。

『ふっ、分かってないな誠は。仲良く話せてこそ本当の家族!本当の関係!言葉は人と人を繋ぐのさ!』

『でも、するとして世間話なんて見つからないよ……』

『見つけるんじゃない。浮かぶんだよ』

『浮かぶ……?』

『振り返るんだ。今日、七月七日という日を』

おばあちゃんの姿がすっと消えていく。そうか、ありのままを話せば良いんだ。

ありがとう。おばあちゃん。


「美月ちゃん。今日はありがとう」

自然と口から言葉が出てきた。美月ちゃんがこちらに顔を向けたのがシーツの音か ら伝わってくる。

「え……別に、私はなにもしてないよ……?」

「ううん。美月ちゃんは僕の告白も、僕のことも覚えていてくれた。だから、ありがとう。僕のことを選んでくれて。」

僕も体の向きを変えて美月ちゃんを見つめる。


人が人と向き合える時間。

それは残念なことに限られている。

だから今。僕はその限られた時間をあなたと共有したい。


「それなら、私だってありがとうだよ。私に告白してくれて……ありがとう」

おばあちゃん……これが僕の、そして美月ちゃんの本当だと思う。


「美月ちゃん……」

僕は自然と美月ちゃんに優しく抱きついていた。

「ひゃあっ!マコトくん!?」

さすがに驚くだろうな……でも、僕は君と……

「ずっと一緒にいたい」



五秒くらいの間があってから、抱き返される感触があった。

美月ちゃんがどんな表情をしていたのか。それは僕にも分からない。


でも、これだけは分かった。



「私も……あなたと一緒にいたい……」



『言葉は人と人を繋げる』


夜は更けていった。

お嫁さんの優しい体温を感じながら。

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ボクのお嫁さん アヤサキ @ken_nakai

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