《第4章》絹の布

目が覚めた。

近くにお爺さんが座っていた。

「やっと目ぇ覚ましたか。大丈夫か?」

辺りを見回した。倒れた場所とは全く別の場所に居た。

身体には絹の布がかかっていた。

「あれ?鳥居は?神社は?ここはどこですか??」

さっきの女性もいない。ここは何処だ?

「何言っとるんや。ここは山のふもとや。ここにお前がここに倒れとったんや。熱あるんやでじっとしとけ!」

お爺さんにそう言われた途端、身体が鉛のように重く感じた。頭もズキズキ痛む。

「えっと、あ、あなたは…?」

「古木や。」

「あっ!昨日はカヅヨさんにお世話になりました!」

「そういやぁ昨日来たって言っとったな。お前が雪夜くんか。体調悪いんやでそう喋らんでええで、歩けるんやったら帰るぞ。」

「すいません…。」

フラフラで倒れそうになりながらも歩いた。

「たまたま山に葉っぱを取りに行こうとしたら、お前が倒れとったんや。絹の布は最初から掛かっとった。誰が掛けたんか分からん。お前がもっと小さかったら、わしの家に運べたんやけどなぁ。倒れとる奴を放置しとく訳にもいかへんからな。」

古木さんは1度も目を合わさずに言った。なんだか申し訳なくなってきた。

「本当にご迷惑をお掛けしました…ありがとうございました。」

「そんなかしこまって御礼なんて言わんでいい。別に怒っとるわけやないし。無事で良かったわ。家でゆっくり休め。」

古木さんは優しくぶっきらぼうに言った。

「ありがとうございます…。」

その後は、一言も話さなかった。話す気力も無かったから、話しかけられないのが有難かった。


家に着いた。熱を測ると38℃もあった。どうりで身体がだるいわけだ。多分ただの風邪だと思う。

あの巫女の格好をした女性は誰だったんだろう。絹の布を掛けてくれたのも…

優しい微笑みをぼんやり思い出しながら眠りについた。


朝起きると熱は下がっていた。まだ少し頭痛がするが、動けたのでご飯を作った。考えてみたら、昨日の昼から何も食べていない。でも、お腹がすいていることに気付かないほど体調が悪かったし、それ以上に、あの女性と神社の事が気になっていた。

(体調が良くなったら、また山に行ってみよう…)

あの時は、なにかに取り憑かれたみたいに走って、突然鳥居が目の前に現れた。だから行き方なんて覚えていない。だけど、どうにかなると何処からか湧きて出てくる自信が僕を支配した。

「こんにちはー!雪夜くーん?!」

午後に、古木さん夫婦がお見舞いに来てくださった。

「山のふもとで倒れとったんやってねぇ…。体調悪い時は無理したらあかんのやお?」

「ご心配お掛けしてすみません…これからは気をつけます。」

「分かったんやったらええわ!ところで、絹の布が掛けてあったんやろ?誰が掛けたんやろか…」

「僕も分からないんです…」

絹の布をカヅヨさんに見せた。

「あ!雪夜くん!ほれ、見てみぃ!端っこに刺繍がしてあるわ!」


布の端をよく見てみると、小さく『羽月』と、刺繍がしてあった。


青い糸だった。

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シラグカナイ 柊 碧梦(ひいらぎ あおむ) @hiiragiaomu

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