邪符黒奥義『導荷禍死賂!

中田祐三

第1話

「む、むう…あれこそが…」


「知ってるのですか!労基よ」


「ああ、あれこそが邪符黒の組織の中で脈々と受け継がれた技、そのやり方故に訴訟を避けるためマニュアル化されてはいない、だがそれを使うからこそ実力無くモラル無くとも出世出来るという…」





導荷禍死賂


『導荷禍死賂が文献に現れるのはかつての邪符黒の上役、無駄口導哉が自身の出世の為に多様していたことで存在を確認できる。しかし邪符黒では昔から使いこなしていたと思われる人物が複数いるためその成立時期を巡っては様々な説があり、学者の間でも意見が分かれている。また記憶に新しい闘死刃の邪長もこの技の使い手であったが、あまりにも使い過ぎた為に闘死刃を倒惨寸前まで追い込んだことはあまりに有名と言えよう


波和破羅書房 『邪符黒とは何か?』より引用』





「ゴ、ゴクリ…し、してその『導荷禍死賂』とはどのような技で?」


「あれを見てみよ」


「あ、あれは使い手が問題が起きたことを部下から報告され…て?な、なんと!怒りまくって部下を口撃しております」


「うむ…まずはああすることで部下を威圧し、異論を言いづらい関係を築く。しかるのちにお前はどう責任を取るんだと部下に問いかける」


「そ、それでは立場が逆では…」


「それが故のモラルも実力も無き者の技よ。そしてそれを言われた部下は必然的に使い手の望みどおりの言葉を口にするであろうな」


「そ、そう上手くいくでしょうか?あるいはそれでも異論を…」


「無駄…そここそがこの技の恐ろしいところよ。まず部下が望みどおりの言葉を言わぬのなら言うまで『どうにかしろ!』『どうにかしろ!』と言い続ければいい、もし逆に『どうすればいいんですか』と問いかけられてもお前が考えるんだ!と跳ね返す。そこまで言っても望みどおりの言葉を吐かぬのなら人事評価を下げてやればよい…外道ではあるがなんと攻防一体とした技であるか」


「部下は違法なことも自分から言い出すことで責任を被され、そして上司の意に添わぬのなら出世は絶望…な、なんと恐ろしいことだ」


「バレれば、部下が勝手にやりました。私は知りませんとシラを切ることで自分は無傷よ」


「ろ、労基…それでは太刀打ちが…」


「案ずるな、見よ!』


「あ、あれは『導荷禍死賂』の使い手のそ、組織がどんどんと崩れていっています!労基よ、これは一体…」


「因果応報、これも必然。いくら『導荷禍死賂』で組織内での安寧を探ろうとそれはあくまで内部のこと。組織の外に違法を知られれば組織自体の責を問われるであろう。そしてその責に組織が耐えられねば必然的に組織は潰れる」


「外法故の崩壊ですか」


「然り、また知られなくともいずれ組織自体が腐敗して自ら瓦解していったであろうな、所詮はモラル無き者の技よ、誰も幸せになどしてくれぬ」


「この技の犠牲になった無数の邪符黒の者達に私は哀悼を捧げます」


「邪符黒の者も早くこれに気づいてくれればよいの」


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