月夜に。
まだ知らない感情を求めて。
第1話
月夜に
“そう言えば、皆既月食だってー。見に行きません?”
同じアパートどうしのLINEグループにメッセージを送る。
このグループのメンツなら1人くらいはすぐに既読がつくだろう。
そう思って、メッセージを送った画面を見つめる。
・ ・ ・ 。
つかない。既読。
とりあえず自分は見に行こうと思い部屋を出る。
上の階から聞こえる喧騒。
思い出した。
みんなは同じ階の先輩の追いコンなんだった。
上の階は仲いいもんな…。
“あ、そう言えばみんなは追いコンだったねこりゃ失礼💦”
1人で行くことなんて、まるで気にしてないようなメッセージを送る。
仕方ない。みんなは追いコンだし、そもそも何にでも人を巻き込むのはきっと良くない。
何でも誰かと行こうとするの、私の悪いクセ。
そう思って、私は1人で屋上に向かった。
そこに浮かぶ月はまんまるで、端が赤くて、とても綺麗だった。
いつもと違う月。綺麗な月。
本当は……みんなで見たかった月。
携帯のカメラの画質に限界を感じながら何枚か写真を撮って、自分の部屋に戻る。
ボーッとテレビを見ながら携帯をいじる。
なんとなく、物足りない気持ち。
ーー。ーーー。
ボーッとしてたら手元の携帯が震えた。
“まだ上にいたりする?”
さっきメッセージを送ったグループの1人。彼女なら、きっと1番に返してくれると思ってた。
やっぱり1番に、というか唯一返事をくれた。
“もう戻ってきたけど、まだ終わってないっぽいからもっかい行こうかなーと思ってたー”
嬉しくて、すぐに返信した。
“ちょっと行こうかな”
もー。なんで貴女はこうも天使なの?
なーんて思いながら、階段を上ると上の階の踊り場で彼女が待ってた。
いつも通りの部屋着に上着1枚だけで来てる。
いや屋上なんて絶対さむいぞ?
というか、もうすでに寒そう。
そういうとこ、なんかあざとい。
他愛もない話をしながら階段を上る。
屋上に着いた。見上げると、赤い部分が減って少し欠けてる月。
隣には彼女。
案の定、寒そうにしてる。
かわいい。
そんなに寒いなら私が暖めてやろうか。
そんな私の気持ちなんて1ミリも知らない彼女は相変わらず寒そうにしながら座って、足まで上着の中に入れて丸くなってる。
だからかわいいんだってばー
狙ってる?狙ってる?
心の中でぶつくさ言いながらも、月を眺めて他愛もない話をする。
この時間がずっと続けばいいのに。
丸くなって笑顔で話す彼女はどうしようもなくかわいくて、美しい。
そんな彼女の隣にずーっと居られたら…。
もう何度したのかわからないこの妄想。
きっとこれからも妄想の範囲を出ることはないだろう。
あぁ、“好き”って言えたらどんなに楽か。
友達として、恋の対象として。
でもそれは、叶わぬ願い。
彼女にとって私は友達。
私にとって彼女は…………友達。
それ以上でもそれ以下でもない。
今までも、これからもー。
ねぇ、もし私が“好き”って言ったら貴女はどうする?
月夜に。 まだ知らない感情を求めて。 @mada-shira_emotion
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