1-3.そうさ
怪傑ワオンが忽然と姿を消したので、展望台には、キリン、アリツカゲラ、かばん、そして、サーバルの四人だけが残されていた。
「に、逃げられちゃいましたね」
「かいけつワオン、ひどいよ!物を盗って逃げるなんて!すぐに探して捕まえて、ダメって教えてあげなきゃ!」
かばんと、まだ鼻をすすっているサーバルが、キリンに言った。
「いいわ、この勝負受けてやる。名探偵の名にかけて!」
キリンは、右手の拳を強く握って、力強く言った。だが、かばんが慌てて、それを止めた。
「き、キリンさん!その紙!右手に持ってる紙!」
「えっ?あ、これ……」
キリンは、自分が咄嗟に掴んだ小さな紙の事を忘れていた。
「あのふざけた犯人がよこしたやつね。どう言うつもりかしら」
「手がかりを基に縄張りまで来い、って言ってましたよね。もしかしたら、その紙に手がかりが書いているかも……」
かばんは、キリンが握り締めていた小さな紙を広げるように言った。その紙には、一本の塔の絵が描かれていた。絵の下半分は黒く塗りつぶされ、塔の上の方には、何か印のようなものが描かれている。
「なんだろう……塔の絵みたいですけど……」
かばんはそう言うと、ふと、キリンの方を見た。キリンは顔をしかめながら、ブツブツ呟いている。
「塔の上に印……今いるここも塔だけど……」
キリンは、自分が今いる展望台を調べ始めた。でも、特に怪しいものは、見つからなかった。
「なにかわかりました?」
アリツカゲラが、キリンに訊いた。
「この絵の塔のてっぺんに印があるから、まずここを調べたらいいのかしらと思って調べたのよ。ここには何もないってことはわかったわ」
「それじゃあ意味ないよ」
サーバルが、鼻を赤くしながら、顔をしかめて言った。
「だからこれから違う方向で考えようとしてるのよ!探偵の推理の邪魔しない!」
キリンはそうサーバルに言い放つと、また、紙の絵をじっと見て考え始めた。
でも、なかなか、他の考えが浮かばなかった。かばんはその様子をじっと見ていた。
二日前、サーバルがたまたまジャパリまんを探しに出かけていた時、かばんの所に、オオカミが今回の計画に協力して欲しいと頼みに来た。その時、オオカミはかばんにこう頼んだ。
「キリンには、私が考えた暗号クイズに挑戦してもらうつもりなんだ。それで、キミには、キリンが行き詰まった時にヒントを出してやる、探偵の助手の役をして欲しい」
そう言って、オオカミは一枚の小さな紙をかばんに見せた。それが、今キリンが解こうとしている、塔の絵の暗号だった。
「キミはとても賢い。私たちが驚くようなことをいくつもして来たフレンズだ。だから、この役を頼みたいんだよ。もちろん、キミだけじゃなくて、他にもキリンにヒントを出す役はいるから、そこは安心して欲しい」
かばんは、暗号の答えを一通り教えて貰っていた。でも、その答えをそのまま教えてしまうと、キリンが自分で考えた事にならない。かばんは上手く答えをぼかしながら、答えにたどり着くためのヒントを、キリンに出す必要があった。
「そう言えば……その塔に似たような物を、何処かで見た気が……」
かばんは、わざと少し小さな声でそう言った。すると、キリンがかばんの方を見た。
「それ本当?よかったら教えてくれない?何か手がかりになるかもしれないわ」
「あ、はい。あの、僕、今は日の出港の近くにサーバルちゃんと住んでるんですけど。僕の住んでる家の窓から外を見ると、遠くにこんな感じの塔があったような」
かばんがそう言うのを聞いて、サーバルも、紙に描かれた絵を見た。
「ホントだ。確かに似てるかも」
サーバルが、かばんに賛成した。
「じゃあ、もしかしたら、その塔が犯人の縄張りかもしれないわ!行ってみましょう!」
キリンとかばんとサーバルは、日の出港までやって来た。
「アレです。あの塔なんですけど」
かばんは、遠くの岸に見える白い塔を指さした。
「なるほど、見るからに怪しいわね」
三人は、塔の目の前までやって来た。遠くから見ると白いが、近くで見ると海からの潮風で錆び付き、あちこちが茶色く染まっているのがわかる。
その茶色混じりの白い塔の壁には、一箇所だけ扉があった。キリンはその扉を開けようとしたが、扉には鍵がかかっていて、開かなかった。
「私が来るのを恐れて隠れてるわね?無駄よ!出て来なさい!怪傑ワオン!」
そう言うとキリンは今度は扉を乱暴にノックし始めた。だが、ドンドンと言う音が響くだけで、中からは何も反応がなかった。
「随分と往生際が悪いのね。なら、強引にでも……」
キリンは今度はドアを蹴破ろうとしたが、かばんがそれを止めた。答えから遠ざかってしまう上に、物を壊してしまうのは良くない。
「お前達、こんなところで何をしているのです」
聞き覚えのある声が、後ろからした。振り返ると、博士の助手のワシミミズクがそこにいた。
「助手さん、どうしてここに?」
かばんが、助手に訊いた。
「パーティーで出す料理の材料で足りない物があったのでロッジまで届けに来てやったのです。そしたら、お前達がいないので何があったのかアリツカゲラに訊いたら、なんだか妙な奴を追いかけて出て行ったと聞いたので」
かばんは、博士と助手も、オオカミの計画に関わっている事を聞いていた。助手は、アリツカゲラから中間報告を聞いて、かばんがキリンにヒントを出すのを手伝いに来てくれたのだった。
「賢い私が手伝ってやるのです」
かばんは、暗号の描かれた紙を助手に見せた。それから、これまでの経緯を詳しく話した。
「キリン、この塔がなんと言うか知っていますか」
助手が、塔の絵を指して、キリンに訊いた。キリンはわからないようだったので、助手はその答えを言おうとした。
「待って、私が推理するから」
「知らないなら黙って聞くのです。いいですか、この塔は『とうだい』と言うのです」
キリンは、自分をバカにされたようで不満だった。でも、確かに聞いたことがない言葉だった。
「……何なの、その『とうだい』って言うのは」
「上の方から強い光を出す塔なのです。それによって、陸の近くを通る船が、陸に乗り上げないように避けたり、今の自分の居場所を確認したりできたそうなのです」
「へぇ……」
キリンとサーバルは、思わず声を漏らした。
「そう言えば、この『とうだい』が関係する面白い言葉があるのですよ。私も気に入っているのですが」
助手は、得意げに話を続けた。
「『とうだいもとくらし』」
でも、その言葉を聞いても、三人は何が面白いのかわからなかった。
「何が面白いの?」
サーバルが、助手に訊いた。
「この言葉の意味が面白いのです。『とうだい』の灯りは強くても、それは遠くにいる船に見せるための灯りで、真下は全然照らされていなくて真っ暗で、『とうだい』の近くに何があるかは全然わからないのです。つまり、すぐ近くにある物事に気づきにくい、という事を表した言葉なのですよ。こういう例えは色々あるのですが、これらを、賢い我々は『ことわざ』と言うのですが……」
「待って」
キリンが、まだ話を続けようとする助手を止めた。それから、かばんから暗号の描かれた紙を受け取ると、思わず歯を食いしばり、声を震わせた。
「私としたことが……迂闊だったわ……!」
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