第46話 ライドンの入浴にて①

 港町を後にして、山岳地帯。道なりに進んでいくと、道中で見知らぬ人物が一人佇んでいた。ざっと見た感じ、そこそこ年齢のいったおじさんだ。その人物は僕らに気が付くなり、会釈をした。


「お待ちしておりました。メルノ様」


「おまた~! 魔物つかいメルノただいま戻りました!」


 知り合いかな? けど、どうしてこんなところに一人でいるんだろう。

 って、お待ちしてたって……。


「族長に監視されてたっぽい?」


「勿論でございます。メルノ様はまだ未成年。本来は集落の外にはでてはいけない決まりとなっております故」


「ちぇ~~。コレだからさ~。あ~あ、さっさと成人した~い」


 ふーむ? はっきりとは分からないけど、メルノの動向は集落の偉い人から監視されてたって事? だから今ここに人が。って事はこの人もメルノの集落の人かな?


「して、何名様のご案内で?」


「アタシと、ボディガード一人と一匹。そして、新しい仲間が二人います~」


 確かに今この場にいるのは5人。ノックは僕らを運び終えるなり、どこかへと飛び去って行った。メルノ曰く、オフの時は自由にさせたげて~らしい。一応、ディーフに狙われていた気がするからそこだけ心配に思ったけど、メルノ曰く、逃げ足ならぬ逃げ翼早いから問題ないらしい。いや、そう言う問題じゃないよ? とは思ったけどね。


「かしこまりました。5名様のご案内で」


 そう言うなり、ご老人は腕を掲げる。

 そこには腕にメルノと同じような紋章が……。って事はこの人は。


「召喚」


 ご老人がそう言うなり、僕らの目の前に猫のような魔物が青い光と共に出現する。

 やっぱりこの人も魔物つかいなんだ。


「では、ご案内いたします」


 ご老人は目を閉じて、腕を前方へと差し出す。合わせるように、猫のような魔物もぴょこんと腕を前に出していた。

すると、僕ら全員を囲い込むかのように辺りに巨大な泡のようなモノが。

それを見るなり、ミーナは目を丸くした。


「これって、転送魔法!?」


「そそ。うちの集落の運び屋さん~。こっから集落までかなり距離あるからね~。送ってもらうのさ」


「そうだったのね。けど、転送魔法をこんな簡単に使うだなんて……」


「これも魔物つかいの力だよん! 魔物の魔力を借りて、魔法を瞬時に出したりとかね」


「凄いわ。人一人で使うとしたら相当な魔力と集中力が必要だと思う。発動に時間もかかるだろうし」


「えへへ、なんだか同族が褒められて嬉しい」


「ふぉふぉふぉ、わたくしめも若い子からお褒め頂き嬉しゅうございますな」


 いや、ご老人さんも喜んじゃってるし。


「ふふ……いえいえ」


 けど、ミーナがそこまで言うって事は相当凄い魔法なのかもね。


「本来なら結構な日数がかかる距離も、一瞬だよん」


「そーいやあメルノと旅立った時、ナミル行くまでめっちゃ時間かかったからまじ助かるわー」


「ナミルついてからほぼ宿屋で引きこもっててよく言うよ~!」


 引きこも……ええ……。


「「…………」」


「おいおーい、ミーナちゃんネルスくーん。そんなゴミを見るような目で見ちゃダメでしょーがー」


「まあ、いいけど」


「うん。過ぎた事だしね」


「なんかすげえ辛らつな言い方だなーおい」


 僕とミーナが大変な思いをしていた時に、この人は……。


「ふぉふぉふぉ、では行きますかな」


「「「はーい」」」


 僕らを包み込んでいる泡のようなモノはみるみる膨れ上がる。

 そう言えばこの泡どこかで……。


『ニッシッシ! やってみるものね。こんな土壇場でうまくいくなんて』


 なっ……! これはホノカがやってくれた魔法!?

 いや、ちょっと違う? こんな大人数を包むような大きさじゃなかったし。

 けど、泡の感じは同じように感じる。

 規模は違うとはいえ、同じような転送魔法をホノカは僕にしてくれた。

 ミーナが言うには、相当な魔力と集中力が必要って……。そっか。ホノカ……。

 ありがとう。改めて言うよ。本当にありがとう。


「転送!」


 ご老人がそう叫ぶと泡が光り輝き始め、景色は見えなくなる。

 やがてそしてそれが弾けると、景色は一変した。


「ここは……」

「ふっふっふ~、いらっしゃいませ! ここがアタシら魔物つかいの集落。ライドンで~す!」


 さっきまでの山岳地帯とは打って変わり、小さな小屋のような家がずらりと並ぶ村のような場所。そして、外を歩いている人は軒並み、腕にメルノと似たような紋章を刻んでいた。

 ここが……メルノの故郷。魔物つかいの集落、ライドン!


「ここが、魔物つかいの集落ね。初めて見たわ」


「同じく。と言っても、僕も故郷からまるで出たことなかったから、殆どの町が初めてだよ」


「それはそれでどうなの……って思ったけど、少し前までは引きこもってた私がいう事でもないか」


「あはは。別にいいよ。村から殆ど出たことないの事実だしね。ミーナだって、今は前に進めているじゃないか」


「ネルス……」


「だな。部屋が下着丸出しで部屋取っ散らかしていた、いつだかのミーナから随分と立派になったとオレも思うよーうん」


「んな……! ちょっ、ちょっと!? そ、その事は忘れるようにお願い」


「え、ゼロ、ミーナの部屋入ったことあるの?」


「前に一度なー。いやあ、部屋の掃除頼まれたんだけど、困ったのが下着類が色々とあってそれをどうしたものかと」


「下着の話はするなあーーーーっ!!」


 頬を染めて、慌てふためくミーナ。年頃としてはちょっと気になるところだけど、たぶんこれは深く聞いてはいけない事だと思うからやめておこう。

 女子だって、色々あるんだ。きっと。


「ゴホン! と、とりあえず、ネルスはディーフの団長さんのところに行かなきゃね」

「う、うん。そうだね」


 と、話を無理やり切り替えようとするミーナがちょっと難儀に思えた。

 けど、ミーナのいう事も正しい。アレンさんと離れ離れになったままだし、早急にギルド警察の人、それも偉い人なら尚更だ。その人と合流して指示を待った方がいい。


「ギルド警察の方ですかな? それならば、つい先日お出かけになられました」


 と、思っていた矢先、案内人の方が意外な事を言ってきた。


「あれ? エレカさんいないの~?」


「ええ。何やら急用ができたとかでお出かけに」


「なるほど~」


 そうか。いないのか。うーん、困ったな。どうしたものか。

 いっそ今すぐナミルまで引き返す……?


「ただ、数日もすれば戻られるとのことでした」


「な~んだ、だったらそれまでここにいればOKじゃんか~」


「え、でも、いいのかな?」


「安心して。私が代わりにネルスを見張っているから」


「ミーナ……」


 確かに、ミーナはアレンさんとの同行人。ミーナがそう言ってくれるなら大丈夫、なのかな?


「そもそも、ネルスやってないんだろ? だったら堂々としてようや。んな警察のいう事なんか信じる必要ねーよ。自由にいようぜ」


「う、うん」


 釈然とはしないけど、ゼロの言う通り、僕には身に覚えのない事。なんだけど、一部の記憶が欠損しているらしく、何とも言えないってのが現状だ。本当に、困ったよ。

 と、悶々としている中で。


「……旅の者、心配はご無用」


「え?」


 前方から、見知らぬ人物がゆっくりと歩いてくる。

 白髪の髪に、若干細めの鋭い目。そして、ガタイのいい肩幅。中年っぽい男の人が僕らの目の前にやってきた。


「……メルノを監視する際、大方の事情は把握している。ギルド警察は数日もすれば戻ってくる。それまでここにいられよ。責任は俺が取ろう」


「え、あ、はい……。えっと」


 そう言ってくれるのはありがたいんだけど、この人、一体……。


「お久しぶり~! バロック族長!」


 族長!? って事は、この人がこの集落のお偉いさん!?


「……ふ、相変わらずうるさい奴だ。メルノ」


「って、アタシを監視とかやめてくれません~? プライバシーのなんちゃらで訴えますよ~!?」


「……そもそもそう言う決まりだ。お前はまだ未成年。本来はまだ外へ出歩いてはならん」


「ちぇ~」


 メルノがぶーぶーいう中、バロックさんはこう続ける。


「……成人の義は明日執り行う。それまでこの集落で休まれるがよかろう。既に食事も宿も用意してある」


「おお、ありがたい話じゃねーか」


「確かに。ふふ、メルノの監視様様ね」


「ぶーー! 裏切者~! 二人はアタシの味方じゃないの~?」


「そもそも、成人の義ってやつをクリアすればオールオーケーだろー。その為に今日まで旅に出ていた。だろ?」


「ん~~~、確かに!」


「だったら、やる事はひとつ、だろ?」


「だね~! おっけー、アタシ頑張るよ~!」


 よし。とりあえず話はまとまったね。


「じゃあ、行きましょ。宿の方へ」


「うん!」


 僕らは族長のバロックさんの案内の元、宿へと向かう事に。

 ……なんだけど。


「…………」


 バロックさんが時折、鋭い目つきで僕の方を見るのがちょっぴり気になったり。

 目つき悪いだけなのかな? そうだといいんだけど。


 そして宿について、食事をごちそうになった僕ら。ご飯は非常に美味しく、旅の疲れを癒すのには打ってつけだった。その後、僕らはお風呂に入る事になったわけだけど。


「男湯と、女湯……」


 まあ、当然ながら分かれている。当たり前だけど、あえて言っておくと、混浴なんてものは存在しない。そう、存在しないんだ……。


「分かってたよ。けど、もしかしたらって思う気持ちもあったんだ。ほら、遠くの辺境の集落とかならもしかしたらって」


「え。急にどうしたの?」


「お腹壊したか、頭でも打ったか?」


 マズイ。心の声がうっかり出てしまっていた。


「いや、何でもないんだ。なんでも」


「あ、混浴はないよ~!」


「ねえメルノ、そんな事言わなくても分かってるから……え、ネルス?」


「ネルスくーん。目えすんげえ見開いちゃってるけどどしたー?」


「もしや……期待してた~?」


 マズイ。どうやら顔に出てしまったようだ。


「いやいや、そ、そんなわけ」


「あ、反対側に混浴風呂~!」


 え、うそ!?


「どこっ!? どこに!?」


 あ……。


「「…………」」


「うん。反対側って、そもそも通路だしな」


 女子二人の目線が、とても痛い。まるで、汚水を見るかのような……。


「ネルス、暫く話しかけないで」


「あはは……。いくらなんでも、そういうのは~~……ちょっと」


「ご、誤解だよ! べ、弁明の機会を!」


「ゼロ、ネルスが覗き行為しないように見張っといてね」


「へいよー」


「ミーナ! ちょ、誤解なんだ! 違うんだああああーーー!!」


「いこ、メルノ」


「あい~」


「メルノ! ミーナ! 違う! 違うからああああああ!」


 まるで聞く耳を持たずに、ミーナとメルノは女子風呂へと入っていった。


「ったく。オレもちょっとは期待したけどあるわけねえだろー」


「だ、だよね……。え、期待してたの?」


「いくぞー、ネルスー」


「ちょ、待って! ねえ、期待してたの!?」


 ゼロは早々と男子風呂へと入っていき、続けてロイが僕の前で立ち止まる。


「ネルス君はもう少し常識というものを学んだ方がいいワンー」


 炭酸依存症且つ魔物なのか人間の子供なのかよくわからない非常識めいた見た目しているロイに常識云々を言われる日が来るとは思わなかった。


「え? てか、ロイも入るの!? 魔物なのに!?」


「当たり前だワン。熱いお風呂入った後の炭酸は格別なんだワン~」


「ロイ。君は……本当に子ども、いや、魔物なのかい?」


 まるで、いい歳のおじさんのようなセリフだ。

 というわけで、まあ、そんな愉快なメンツと僕らは風呂に入る事になったんだけど。


「ん?」


 ゼロは衣服を脱ぎ、肌を露出させる。けど、左肩あたりに、見慣れない紋章のような、もしくは痣のような、得体のしれない刻印が。


「ゼロ、それって?」


「んあ? さーな。オレにもよくわかんねーんだ」


「分からないって……え、もしかして」


 まさか、ゼロはまだ記憶が……。

 林間学校の時、ゼロは記憶がなかったっけ。アレから時間たっているんだけど、まだ思い出せていないのかな。


「丁度いい機会だ。ネルスには話さないとだな」


「え?」


「まあ、湯船につかりながらでも話そうや。ここだと冷えちまう」


「たしかに」


 そうと決まれば話は早い。僕も服を脱いで……!?


「お先に入るワンーーーー!」


 ロイは服を脱ぐこともなく、そのまま風呂場へと向って行った。服。そう、着ぐるみを。


「え、ちょっと、ロイってアレでいいの? 服着たまんまなんだけど」


「ネルス。突っ込んだら負けだ」


「ええ……」


 ゼロはなんだかもう諦めたかのような表情。そういえばロイって元々ゼロの連れなんだろうか? メルノの様子だと、元はメルノの仲間ってわけでもなさそうだったし。

 この際だ。色々聞いてみよ。


 僕も服を脱いでいき、タオル一枚をもっていざお風呂場へ。

 お風呂場は大浴場が一つと、後は小さな浴場が一つなシンプルな構造。僕の故郷の大浴場を思い出すなー。大きな町ってわけじゃないし、規模もこのくらいだよね。寧ろちょっと大きいかも?

 他に人はいなく、いるのは僕ら3人だけだ。

 ゼロは颯爽と身体を洗い、ロイも頭をゴシゴシと。頭ってか、着ぐるみの頭を。

 僕も髪と身体を洗って、いざ大浴場へ。

 入るときは一瞬熱いけど、そのまま芯から体が温まっていく気持ちよさ。やっぱ熱い風呂は気持ちいいね。


「ぷはーーーー。風呂は熱いに限るワン。気持ちいワンーーーー」


 と言いながら、目を細めて気持ちよさそうに入っているロイ。ただ、入っているのは熱い大浴場ではなく、どちらかと言うとお子様向けなぬるま湯な小さい浴場。

 ダメだ。突っ込んだら負け。ロイはあれでいい。うん。


「…………」


一方で、隣で静かに大浴場に浸かるゼロ。身体洗っている時もそうだったけど、中々話しかけるタイミングがない。よく考えたらつい最近再会したばかりだし、いざこうして二人っきり(3人だけど)とかになると、ちょっと気まずかったり……。

 ゼロももしかしたらそう思っているのだろうか。なんせ、再会したのはつい最近。いきなり何か話せってなっても、ちょっと気恥ずかしかったり。


「「…………」」


 ダメだ。僕まで黙ってしまう。お互いに色々話さなきゃいけないことがあるんだろうけど、中々口に出せない。というか、何から話せばいいのか、よくわからなかったり。


 勿論、純粋にお風呂が気持ちいいからってのもあるけど、なんか、普通に話しかけにくい。あれ、さっきまでは普通に話せていたのに。いざこうして対面していると本当に何から話せばいいのか、というか、何を話せばいいのか分からなくなる。距離を感じる……。

 何か、きっかけは……。


「あ~あ、明日緊張だよ~~~」


「って言いながらめっちゃ泳いでいるじゃない!? お風呂は静かに入らなきゃだめよ!?」


「ま~ま~、そう言いなさるな~~」


 てか、他に誰もいないから、隣の浴場から普通に声が響いて聞こえてくる。勿論、僕らがだんまり決め込んでいるから尚更ってのもある。


「てかさ~」


「きゃっ! ちょっ!? そんなくっ付かなくても」


「ミーナめっちゃ可愛いよね~! 髪も長いし綺麗だしモテるでしょ!?」


「そんなことない。私、疎外されてたしね」


「あ~……え~っと……」


 そっか、メルノってまだミーナの事そんなに知らないもんね。僕ら今はこうして一緒にいるけど、まだまだお互いに知らない事だらけなんだなーって、思い知らされる。

 一緒に行動する以上、まずはお互いの事を知らなきゃいけない。僕らはまだその段階なんだ。

 ゼロは目を閉じて黙って湯船につかっている。話をしようにも、何から切り出せばいいのやらわからない。少なくとも僕はそう。ゼロも、そう感じているのかもしれない。

 そんな僕らの状況を知って知らずか、壁の向こう側でミーナはこう切り出した。


「私、独りだったの。疎外されたり、後は教師からパワハラ受けてたりね。それで、暫く……というかホントに最近まで、引きこもりだったの」


 それは、ミーナ自身の、これまでの話だった。


「そうだったんだ~……。ごめん。なんか、思った事普通に決めつけるように言っちゃって」


「いいの。気にしないで」


「でも、今のミーナからはそうは見えないな~。頼もしいちょっとだけ年上なお姉さんって感じ~!」


「ふふ、そう言ってくれると嬉しいな。メルノだって、ちょっとやんちゃだけど元気で可愛いらしいくて、素敵だと思ってる」


「ホント~? やったぜ~~!」


「ちょ! そんなくっ付かなくても」


「まあまあ、女二人だしいいじゃないです~」


「もう……。ふふっ」


 凄く楽しそうな二人の声。ミーナもくっ付かれて満更でもなさそうな感じ。


「変われたきっかけをくれたのは、亡くなった兄さんと、そして偶然出会ったゼロのお陰。それから外に出て、ネルスと出会って、一緒に戦って、もっと勇気を貰った」


 ミーナ……。そう思ってくれていたの?


「今はメルノとロイもいるし、メルノは魔物つかいとして頑張っているし、私も魔法頑張ろうって気にさせてくれるの。ロイは……不思議だけど、見てて不思議と元気出る」


「あはは、わかるかも! 炭酸に対する執着とかホント凄いな~って」


「ふふ、だから、今は皆といられて、なんかいいなーって思ってる。ありがとね」


 ミーナ、僕らの事をそう思ってくれてたんだ。

 僕だってそうさ。故郷を焼かれ、家族同然の友を殺され、絶望のど真ん中にいるところを支えてくれたのはミーナだったし、今はこうしてメルノもロイもいる。そして、赤い人。いや、ゼロがいてくれて。とても、心が温まるのを感じたんだ。


「いえいえ、こちらこそだよ~! えへへ~、なんだか照れますな~」


「ふふ、そうね。ちょっと恥ずかしいかも。皆には内緒ね」


「うん! 二人だけの秘密って事で~!」


 そう言って、二人は笑い合っている。

 ミーナとメルノはどうやら距離が縮まったみたいだ。

 だったら、僕だって……。


「あ、えっと、ゼロ?」


「ん?」


「あのさ、この際だから色々お話を」


「ゼロさーーーん! 炭酸飲みたいワーーーン!!」


「んあー? ったく、仕方がねえな」


 そう言うなり、ゼロはロイと共に風呂から上がっていく。


「え、ちょ、ええ……」


 そんな。折角、話せると思ったのに……。

 いや、もしかしてゼロ、僕の事嫌いだったりするのかな……。なんて、ちょっと考えてしまう。


「話せると、いや、話さなきゃって思ったのにな……」


 思わず、口に出てしまった。けど、小さい声だし聞こえてないか。


「あ~ネルス」


「え?」


 ゼロは僕の方を振り向くなり、静かに微笑んだ。


「今度は二人っきりでこような。ここ声響くし、女子に話聞かれんのハズイ」


「……っ! うんっ!」


 ゼロはロイを連れて先に脱衣所へ向かった。

 はあ。どうやら、考えすぎだったみたいだね。

 じゃあ、僕も風呂を後にし……。


「きゃあっ! ちょ、どこ触って……」


「ふっふっふ~、ミーナちゃん、中々いいものをお持ちで~」


「ん、ちょ……」


「まあまあ、折角だしぃ? 裸の付き合いしましょや~!」


「顔どこに当てて……! メルノはやんちゃなんだから」


「不安なの~明日~。けど、こんな柔らかいのに包まれたら不安なんか消し飛びますよ~」


「もう。ちょっとだけよ」


 ……あー。なるほどね。

 まだ、身体冷えてるかな。もうすこし温まろっと。


 残念ながらそれからの記憶は覚えていない。

 僕はそのままのぼせにのぼせ、連絡を受けたゼロによって部屋まで運ばれて応急処置を受けたのは、また別の話だ。

 ただ、ゼロ曰く、殺人現場かと見誤るくらいに、鼻から出血をして倒れていたという。

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Xクエスト-魔界の勇者- 平カケル @Neru-Kure-Zero

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