④-成人の義と仮面の女-
第45話 暴走ボートと4体目の魔物
……あれ。
ここどこだろう。
何にも見えない、真っ白い空間。
前にも来た事、あるような……。
「再会おめでとう。ネルス君」
え? だ、誰!?
「前にも会ったはずだよ。夢の中でね」
夢の中で?
……もしかして、リアサで眠っていた時に、夢の中で話しかけてきた人?
「ご名答。流石、魔界の勇者だね」
夢じゃなかったんだ……。
って、魔界の勇者!?
「そう。なんせ、君の持つ力、アレはもともと……」
もともと?
「いや。今はやめておこう。知らない方がいい事もあるからね」
そんな! 僕のこの力の事、知っているのなら教えてください!
「いいよ。ただし、一つだけ条件がある」
条件?
「無事に、君が私の元に来られたら、その時にでも」
……あなたは、誰なんですか?
「私は魔王。魔王カネル」
魔王……? おとぎ話では聞いた事あるけど。
でも、カネルって確か……お隣の国の偉い人?
「ところで、君にかかっている記憶の呪い。プロテクトはあと一つだ。だけど、まだ解除には時間がかかりそうだ」
あ、あの! 僕、赤い人の事を今まで忘れていたんです。けど、やっと思い出せました。
「みたいだね。再会も出来たことだし、まずは一歩前進だ」
けど、あと一人。まだ、思い出せない人がいるって事ですか?
「よく、あと一人だってわかったね。術も大分弱まっているのかもしれない。だけど、まだ時間がかかる。とりあえず今は、赤い髪の男についていくといい」
赤い人に?
けど、僕はギルド警察の人と一緒に行かなきゃいけないところが……。
「どうにも、今はそういう状況ではなくなってきたらしい」
え? それって、どういう……。
「私にもわからない……」
ええ……。
「やはり、奴に任せたのはミスだったかもしれない……」
あの、どういうことですか?
「目を覚ませばわかるさ。さあ、時間だよ」
あ、ちょっ! まだ聞きたい事が……!
くっ! 眩しく……!!
「……ルス! ネルス! 起きて!」
「ん……んん……」
ぶーーーーん! っていう激しく走るような音と一緒に、ミーナが僕を起こす声が聞こえてくる。
僕、なんだか変な夢を見ていた気がするけど……。
というか、僕は一体いつの間に寝てしまったんだろう……。
確か、溺れたところを赤い人に助けられて、それで……。
とりあえず、横になっている身体を起こしてみ……るぅうううう!??
「んー、これはアレだ。壊れた」
「壊れた……じゃないでしょおおおーーーーーー!?」
「しゃーねーだろー。こんなん運転した事ないしー」
「だったら最初から運転するなあーーーーーーーーー!!」
僕の目の前でそんなやりとりをしているのは、ミーナと赤い人。
操縦しているのは赤い人っぽいけど、なんだか、とてつもないスピードで海上を駆け巡っている。もう、何かにしがみつかないと飛ばされかねないレベルで。
「ああネルス!? 起きた!? ちょっ、助けてくれない!?」
と、身体を起こした途端にそうお願いしてくるミーナ。額は汗が凄い。この状況に相当焦っているのが分かる。
って、どんな状況? なんでこんな猛スピードで海の上走っているの!?
「ね、ねえ! この状況何!? ギルド警察は!? ナミルに向かっているんだよね!?」
「たぶん違う!」
「違う!?」
「ナミルとは真逆の方角に走ってる! 今現在進行形で!」
「ええーーー!?」
ナミルとは真逆!? なんで!?
「あの後、泣き疲れちゃったネルスはそのままボートの後ろに寝かせて、私達はナミルに戻ろうとしたの! けど、この人が!」
「おーい、人の事指さすなー」
「そのままUターンすることなく、真っ直ぐ突っ切っちゃったの!」
「な、なるほど……」
だったら確かに、この方角はナミルではなくて全く真逆だね……。
「いやーぁ、戻ろうとは思ったんだよ。でも操縦した事なかったからUターンとか分かんねーし。つーかボートの運転とかオレに言われてもよー」
「じゃあどうやってネルスのとこまで行ったのよおおおおおおお!?」
「いーや、そん時はロイとノックの案内あったから付いていくだけで良かったし、てか、ほぼ真っ直ぐだったし……? あれ、オレ、ネルスのとこまで行けたの凄くね?」
「凄いけど凄くないわよおおおおおおおお!!?」
あ、はは……! なんだか二人とも息ピッタリだ!
そっか。ミーナ達と再会して、僕寝ちゃったんだ。それで、今この状況なんだね。
ギルド警察の人が助けに来てくれるのかと思ったけど、実際に来てくれたのは、同じ仇を協力してとることが出来た頼もしい仲間のミーナ。そして、子供のころに僕を助けてくれて、一緒にちょっとした探検をして、僕に勇気をくれた人。赤い人。その二人だった。
迎えに来てくれたのがこの二人で、それがちょっと嬉しかったり。
「よーネルス。目ぇ覚めたんだな。調子はどーよ?」
「あ、うん。大丈夫です! ありがとう! 赤い人!」
「あー、敬語じゃなくていい。苦手だしな。それに別にそんな上下関係じゃねえしなー」
「なるほど……」
そっか。そういう事なら今度からは普通に接しよう。まあ、赤い人が言う通り、上下関係ってほどの仲でもないしね。
「あと、オレ名前思い出したんで、赤い人呼びじゃなくてだな」
「ああ、メルノから聞いた! えっと、ゼロさん!」
「さん付じゃなくていい。普通にお互いタメでいようやー」
「はい。じゃなくて……わかった」
「って話してる場合じゃないから!! 前! 前ーー!!」
「別に海しかねえし大丈夫だろーー。なんかあったら上空でメルノが教えてくれるって」
上空? あ、ホントだ! このボートのスピードに合わせてメルノがノックに座って飛行してる。ロイもいるし。
と、上を向いていると、僕に気づいたのか、メルノはニコっと微笑みながら手を振ってくれた。それにつられるかのように、ロイも小さい体ながらも大きく両手で手を振ってくれた。
ボートじゃなくて、ノックの上に乗っているのも、僕に気を使ってボートに乗らなかったのかも。メルノ達にもあとでお礼言わなきゃ。
「いや前向いてなきゃ危ないでしょーーーー!? 岩とかあるかもしれないし!」
「はあ。ミーナちゃん、そんなに叫ぶと折角の美貌も台無しになっちゃうぜ。年頃なんだしもう少しおしとやかに」
「それ今関係ないし! いいから前向けだしぃ! てか、年頃なのにおしとやかじゃなくて悪かったわねぇえええええーーーーーー!」
「お、おい! ミーナ! 揺らすな! 肩揺らすなって! 痛いから!」
「そもそも今時おほほほほなんて笑い方する女子いないからーーーー!!」
「それおしとやか違ぇーーーーーよ!? 勘違いしてるって!」
「私がおしとやか知らなくて悪かったわねぇええええええーーーー!」
「そんな事誰も言ってねえよおおおおおーーー!!」
「あははは!」
本当に息ピッタリだ。まるで旧知の仲みたい。
「はあ。全くもう!」
背もたれに身体を預け、疲れたかのように深く息を吐くミーナ。
というか、二人はいつから知り合ったんだろう? 僕がいなくなった後、ナミルで知り合ったのかな? 聞いてみよう。
「ミーナってゼロとはいつ知り合ったの? やっぱりナミル?」
「あー、ナミルではなくて、実はもっと前から……かな」
「そうだったんだ。いつくらい?」
「マージル襲撃事件。あの時、ゼロも私と一緒に戦ってくれたの」
「そうだったの!?」
てことは、結構前から知り合いだったのか。こうして知り合い同士が一緒になるなんて、びっくりだ。
「ネルスこそ、ゼロが言っていた子供だったなんてね。名前聞いた時はまさかとは思ったけど」
「子供……?」
いや、まあ確かにまだ未成年ではあるけど……。僕の事、子供って紹介されていたんだろうか。ちょっと複雑だ。
「あー、まあオレがミーナに言ったネルスは、確かにガキのネルスだった。けど、実際は大きくなった少年ネルスだったのでした。めでたしめでたし」
「「どゆこと?」」
思わずミーナと声が重なる。
「色々事情があんの。大人には。もう未成年はお黙ってなさい」
てか、よく見ると、赤い人……ゼロの見た目は昔の頃とちっとも変ってない。あれから7年近くたっているのに。ゼロは少しも更けていない。普通に行けば、今頃はいい年齢のおじ……兄さんになると思うんだけど。見た感じはそうは見えない。寧ろ、記憶の頃のゼロとこれっぽっちも変わっていないような。あの時のゼロをこのまま持ってきたようにもさえ見える。
「まあいいわ。こうして再会できたのも何かの縁。私はネルスとテンドール方面に行かなきゃいけない。だから、あなたも一緒に来てくれると嬉しい、かなあー……なんてね」
「いーよー」
「いいんだ……。言ってみるものね……」
つい今まで気を張っていたのに、そう言った時のミーナは、ちょっとばかし頬が緩んだように見えた。
ミーナも嬉しいのかな。
「ただその前に」
そう言うとゼロはチラリとミーナの顔を見る。まるで顔色を伺うかのように。
「え? な、なに? どしたの?」
ゼロの何やら普通じゃないような雰囲気。僕らが緊張の表情を浮かべる中で、彼はこう言い放った。
「いやあ、ブレーキが利かないんだわー。はは、参るぜまったく」
「「参るぜじゃなああああああああい!!!!」」
え、ちょ、ええええ!? つまりこのスピードのまま止まれないって事!?
「言っただろー。壊れたって」
「壊れたって、アレ、あなたの技量不足とかじゃなくて、ホントだったの?」
「ど、どうしよ!? このままじゃいつか、大事故に……!」
「あ~あ~、ボートの諸君! 聞こえますでしょうか~!」
と、こちらの状況を知らないメルノは呑気に上空からそう呼びかける。そんなメルノの声はまるで拡声器を通したかのように聞こえた。よく見ると、メルノの腕は黄色く光っている。
更には口元付近に口ばしのようなモノが黄色い光で形成されているような。たぶんこれはノックの能力。メルノ、もうノックの力をここまで操っているんだ。
そんなメルノは僕らにこう呼びかけた。
「前方に港あり! 繰り返す~! 前方に港ありでごぜえます~! スピードを落とすようによろしくお願いしますでありま~す!」
「「「なにーーーーーーーー!!!!」」」
まさかの宣告に、声を揃える僕ら三人。
「ど、どうするの!? このままじゃ私達怪我しちゃうわよ!」
「うん、怪我ってレベルじゃないと思うよミーナ!」
「お、おお落ち着け。そうだ、何か攻略の糸口がないかゲームの知識を思い出せ!」
いや、なんでゲーム!? テンパってるの!?
「ゲーム……!! そ、そうね! レースゲームとかだと、ジャンプ台があるはずだからそれに乗ればきっといい感じにジャンプを」
「いやミーナ!!?」
まずい、まさかの状況に、さっきまで常識人側だったミーナが壊れてきている。
「ジャンプ台だな! それに乗れば解決するんだな!?」
「違うって! ゼロ、そんなのないから信じないでーーーーー!」
「ジャンプ台に乗ったら地上のコースに入ると思うからそこからはまだ全開で行けばトップにでられるはず。ジャンプ台から離れる瞬間が大事だからとりあえず今はこのスピードを」
「いや、お願いだから戻ってきてよミーナ!!」
「なるほど、なら何も問題はないな! このままいくぜ!」
「いーや、このまま行くなーーーーーーー!!」
マズイ。言っちゃ悪いけど、こうなった以上二人はもうポンコツだ。
僕が何とかしないと……。なにか、何か手は……。
「え~、ボートの諸君! 直ちに、早急に、スピードを落とすようにお願いします~。繰り返す~! スピードを落とすように~! いや、本当に。マジで~」
ああ。さっきまでは呑気に気取っていたメルノの声も心なしか真面目なトーンになっている気がする。
「と、とりあえず、メルノに知らせてみる!」
上空にいるメルノに向かって、僕は必死に腕でジェスチャーをする。
ボートを指さしたり、腕で罰を作ったりして。
「ん~~~、なんとなくオーケー。任せて」
「本当に!? 助かる!」
でも任せてって、一体何をするつもりなんだろう。
「召喚!」
メルノの声が上空から響き渡る。誰かを呼んだのか、メルノの腕が青く光っている。
ちなみに周りに変化はない。ここら辺に呼んだわけではなさそうだ。
「オーガ! 派手にやっちゃって~~!」
オーガ? 初めて聞く名前だ。メルノってまだ他に魔物がいたんだ。
「ん? お、おい……。アレって……」
と、ゼロが何かに気が付いたようだ。前方をよく見てみると……。
「土!!?」
あ、ミーナが戻ってきた。
ミーナの言う通り、前方の海面から土のようなものが大量に流れてくる。それも、ボートの大きさやルートに合ったピンポイントな感じで。土は水と混ざり合って、泥となり、それがすぐさまボートに迫ってきた。
「スピードが落ちてる……!」
泥に巻き込まれているからか、ボートのスピードは徐々に落ちていっている。
やがて、ボートは動かなくなって、海面で静かに止まった。
「助かった……?」
動かなくなったボートの上で、僕ら3人はあたりを見渡す。前方にはまだ距離はあるからか、うっすらと港が。あとは海面だけ。ボートをせき止めた泥はと言うと、ボートが止まった途端に消えうせていった。どうやら、今の泥はメルノの魔物が生み出した魔法だったらしい。
「ちょいちょい、君達ぃ~~?」
と、上空から静かに降りてきたメルノ。メルノの表情は不気味なくらい穏やかだった。
だけど……。
「こっからノックで順番に運んでいくから、大人しく待ってなさい」
「「「はい……すみませんでした……」」」
メルノの目は、全くもって笑って等いなかった。
一方で。
「ゼロさん、炭酸切れたワン。また買ってくるといいワン」
「…………」
ロイの無邪気ながらも恐ろしいその要求に、ゼロはと言うと、僕やミーナ以上にショックを受けている様子だった。
その後、僕らは一人ずつノックによって地上にまで運ばれていき、そして最後は僕。
「全くもう~! ホントにもう~!」
「はい……」
「アタシがいたからどうにかなったけど、いなかったらユーたちもう死んじゃってましたよプンプンだよ~!」
「おっしゃる通りです……」
広大な海と、前方に見える港町。それを上から見られるのは大変喜ばしい事。けど、そんな綺麗な光景も小言付きだと台無しだ。
「あの、どちらかと言うと僕悪くな」
「言い訳無用~! 連帯責任じゃ~!」
「す、すみません……」
うう、痛い。後ろから軽くチョップされる僕。
メルノは僕の後ろでノックの首からぶら下がる手綱を引いている。まあでも、こうして魔物の上に乗ったり、手綱を引く魔物つかいがすぐ近くにいたりと、結構新鮮だ。考えようによってはラッキーだったのかもしれない。けど、一つ気がかりなのが。
「あのボート、どうしよう」
故障したボートは海に漂ったままだ。放置しておくわけにはいかない。しかも、あのボートは恐らくギルド警察ディーフの物だと思う。側面にロゴ入ってるし。
「心配ご無用。アタシの魔物のオーガが回収に向かっているです」
「オーガって、さっきの!?」
オーガか。あんなに凄い技をどこかから出して僕らを助けてくれたし、さらに今度はボートの回収に向かったりって、一体どんな魔物なんだろう。気になる。
「オーガってどんな魔物なの?」
「ふふ~、気になる?」
「そりゃあね! あんな凄い技初めて見たし!」
「ん~~、けど今は内緒~!」
「ええー、気になるよー!」
「たぶん、近日中に見れると思うよ。アタシの試験あるし」
「試験……?」
「あ~、言ってなかったねそう言えば」
港町の方へと近づく中、メルノはこう話してくれた。
「近日中に、アタシの故郷の集落で成人の義っていう催し……試験があるんだ~。その試験に合格しないとアタシは本来、集落の外には出られなくてね」
「そうだったんだ! え、けど今って」
「今は特別。一緒に試験を乗り越えてくれる魔物を探す旅に出なきゃだから、まあ、準備期間的な感じかな~。んで、そのボディガードにゼロがいるって感じ」
「なるほどね。そういう事だったんだ」
って事は、メルノはその集落にもう戻るって事だよね。できる事なら僕もついていきたいけど。ギルド警察の人と合流しなきゃだし……。
……てか、ボートの一件でアレンさんとすっかり逸れてしまったんだけど、大丈夫なのかな。てか、ボートなんて説明すればいいんだろう……。
「って事なので、ネルスとミーナにもアタシの集落に来てもらうからよろしくね~!」
まあ、考えても仕方がない。とりあえずメルノの集落に向か……。え?
「え!?」
「え?」
え? って。こっちがえ? なんだけど。
「いや、まあ僕は一向にかまわないんだけど……なんで?」
「なんでって……うちの集落にたぶん今ギルド警察ディーフのトップがいるからだよ」
「ディーフのトップが!? って事は、団長!?」
ギルド警察ディーフの団長。確か、少し前に変わったんだよね。亡くなったとかで。そして、その亡くなった前団長を手にかけたかもしれないとどういうわけか疑われているのが僕。勿論身に覚えはない。今のところはだけど。
それで、今は確かエレカさんが団長だったはず。エレカさんとは林間学校でちょっと会った事あったっけ。
「ミーナから事情はあらかた聞いたけど、ネルス、ディーフの人のところ行かなきゃなんだってね~。けど、こんな状況だし、合流もいつできるか分からんでしょ~。だったら独りでふらついているのは何かとマズイでしょ~?」
「たしかに……」
そう言えば僕、一応、身柄拘束中の身だったっけ……。色々バタバタしてて逸れたり逸れたりですっかり忘れてた。
「だから、それだったらエレカさんとこに連れていっちゃお~ってゼロとも話したんだ~さっき。集落もここからなら近いしね」
「集落近いの!? てか、ここどこかわかるの!?」
「わかるさ~、だってここ地元だし~」
「地元!?」
まさか、どこぞの知らない町に来てしまったと思いきや、メルノの地元だったとは。世界は広いのやら、狭いのやら。けど、そこにディーフの人がいるなら安心かな。
ただ、なんでメルノの集落にその人がいるんだろう。ちょっと気になる。
「あとさ~、え~とさ、あのさ、アタシもさ、ちょっとさ、聞きたいことあるんだけど」
「ん? 何?」
なんだろう。なんか、心なしかメルノ落ち着きのない感じがする。
「アスカさんとシオンさんどこ行ったの? 突然、しかも船ごとなくなって焦ったんだけど~!?」
「あー……」
そっか。やっぱメルノには見えてなかったんだね。あの二人の消える瞬間を。
あの二人に関しては僕もいまだにわからない。あんな消え方、別れ方したんじゃ、本当に実在する人なのかも怪しい。だけど……。
『ネルスとわたし達は、また会えますから。絶対に』
「大丈夫。また、会えるよ」
「そ、そう~!? まあ、そう言うなら、まあ~?」
「え、どうしたの? なんか、声震えているような……」
「べ、別にぃ~!? 怖がってなんかいませんし~~!」
そう言った時の手綱を持つメルノの両腕は、見るからにガクガクと震えていた。
アスカさん、シオンさん。メルノ、完全にあなた達の事誤解していると思うので、なんとか誤解を解きに来てください。
なんせ、凄くノックの操縦が雑……ってか震えて危ないので。
そんなこんなで、何度か振り落とされそうになりながらも、地上に降り立つことが出来た僕ら。地上ではゼロとミーナが申し訳なさそうに、顔を下げて待っていた。
「これで全員。まったくもう~!」
「「「どうもすみませんでした」」」
二人に合わせるように、僕もまた顔を下に向ける。まったく、メルノがいなかったら本当にどうなっていた事やら。
「まあ、過ぎたことはしかたな~し! ではでは、集落にいこか~!」
けど、すぐに気持ち切り替えてくれるメルノは、優しいなーって思ったり。
「おい、ちょっと待てメルノ!」
と、すぐさま出発しようとするメルノをゼロはどういうわけか止めに入る。
「なになに、どったの~?」
「いや……お前、魔物の数、足りてなくね?」
「へ? 魔物の数? 何をおっしゃいますか、こうしてアタシはノックを仲間にして」
「ノック仲間にして、残り一体じゃねえの?」
「あ……」
凄い。メルノが見たことない顔してる。まるで、この世の終わりが来たかのような。
人って、あそこまで口が下がるんだ……。
けど、魔物の数ってなんだろう?
「魔物の数? 何の話?」
ミーナも疑問に思ったようで、二人にそう聞いてくれた。
「メルノの集落で行われる成人の義、なんか知んねーけど、魔物が4体必要なんだとさ。でもメルノの今の手持ちはノック入れて3体。1体足りてねえ」
「ええ……。だめじゃないそれじゃ」
「悪い……」
ミーナにそう言われ、どういうわけかゼロがメルノに申し訳なさそうにしている。
「いや、ゼロのせいじゃないから! 気にしないどいて~!」
どういう事? と言わんばかりにゼロを見るミーナ。
「メルノの魔物のうち、一体は魔獣になったんだ。んで、それをオレが……。ミーナも知ってるはずだ。初めて会ったあの日に襲ってきたアイツ」
「え? 嘘! あの魔獣!?」
「いや、もう過ぎた話だし、大丈夫だよ~」
「辛い想いしたのね……。お悔やみを……」
「だ、大丈夫だよミーナ! 大丈夫大丈夫~……!」
そう言った時のメルノの表情は、ちょっと切なそうに見えた。事情はよく分からないけど、メルノの仲間が魔獣になって、それをゼロが……。それを、実はミーナも心当たりがあった。そんな感じだろうか。だとしたら、とても悲しい。
「あと一体。ね……」
「簡単な話に聞こえるが、魔物ならなんでもいいってわけじゃあねえ。各々の魔物に対して、各々の腕の紋章が大きく反応する魔物じゃなきゃだめらしい」
「んー、相性みたいなものね。難儀な話だわ」
紋章が大きく反応か。そういえば、ノックの時、紋章の光がすごい輝いてたな。あれが目印みたいなものだったのかな。
「んで、散散探し回って、よーやく見つけたのがあの大きな鳥さんだったっつーわけだ」
なるほど。じゃあ、ノック入れてもあと1体足りてない状況か。
「あと一体かあー。腕の紋章が大きく反応する魔物なんてどこかに」
「ゼロさーーーーーん! 炭酸たっぷりだワン!」
と、悩んでいる僕らの前に現れたのは、ビニール袋に炭酸ジュースを大量に抱えて元気いっぱいの魔物っぽい子供……じゃなくて、人間の子供っぽい魔物のロイ。
見た目は完全に着ぐるみを来た人間の子どもなのに、これでも魔物だ。メルノの腕が光っているから間違いな……。
ん? 魔物?
あれ……。もしかしてロイっていけるのでは?
しかも、メルノの腕の紋章、凄い光り輝いている気がする。まるで、ノックを目の当たりにした時みたいに。
「いたな」
「いるわね」
「いけるか」
「問題ないかと」
あ。ゼロとミーナが悪い顔してる。
「ん~? どしたの?」
いや、なんでメルノは気が付かないの!?
「集落いくぞーメルノ」
「いや、ちょ!? 先行かないでよ~~~! アタシの魔物まだ足んないよ~!」
うん。足りてるんだよなー……。
何がともあれ、これで解決だね。
メルノの集落か。どんなところなんだろう。少し楽しみだ。
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