第96話 接触

闘技場には四騎の神聖なる駆動体アルカナ・エンジンが並び立つ。

その姿は神々しさすら感じる程だ。

その場に居合わせた者達は一様に言葉を飲み込み、ただ沈黙しその姿を眺めていた。

太陽ヘリオス恋 人エルメス焔女帝エンプレス世 界ソフィア。 創西暦が始まって現在いままで、これ程の数の神聖なる駆動体アルカナ・エンジンが、同じ時、同じ場所に会した事は記録としても存在してはいない。


その静寂を切裂くかのように、場内へと高らかに声が響く!

「お待たせ申した! 」

反対側の入場門へと視線を向けると、何も無い空間へと陽炎が立つ!

次の瞬間、手品の様に一騎の神騎が現れた。

あれが、隠 者ハーミットであろうか?

その姿を目にした者は殆ど居ないのだから分からぬのも無理は無い。

 だが、ゲオルグとアイギスは違った。 以前に一度だけ目にする機会があったのだ。

その姿は紛れも無く、ギレン七世オットーの神騎、隠 者ハーミットであった。

一瞬姿を晒すも、すぐさまマントの様な物を展開し、その姿を覆い隠してしまう。

そうする事に、どの様な意味があるのか伺い知る事は出来ない。 しかし、その行為を止める事も無為に思えた。


隠 者ハーミット は闘技場へと降り立っと跪きその動きをとめる。

何時の間に現れたのか、その足元には人影があった。

「(…… あの装束は!? )」

ノリトは数瞬前に己が中に芽生えた…… いや、以前・・からの疑問を意識の外へ追いやると、目の前に現れた者へと意識を集中する。


ゲオルグが 隠 者ハーミット唯一の聖戦士ハイランダーで在ろう者へと問いを掛ける。


『御主が、オットー・ギレン・ゴダール殿より隠 者ハーミットを預かりし唯一の聖戦士ハイランダー殿で宜しいのかな? 』

皆の視線が集まる中、堂々と姿を見せた者へとゲオルグが問いかける。


その者の装束はこの世界では見る事の無い物であり、この世界の文献には記録されてはいなかった。

はじめて見る異国? の装束に戸惑いはあるが、今はその疑問を口にする者は誰一人として居はしなかった。

「(ミオ、あの装束をどう見る? )」

「(あれって…… どう見ても…… そうよね )」

「(忍び装束。 同郷か? )」



「如何にも。 お初にお目にかかる。 アスガルド王国 ゲオルグ・ノリス・ヴィルヘルム 国王陛下。 それがしは、萬川集海よろずかわしゅうかいが1人、無き君主であるオットー・ギレン・ゴダールの命を受け、この国へと参り申した。

我々・・の願いにお力をお貸し願えるとの御返事と受け取って宜しいか? 」


ギレン七世オットー殿は…… 我の大切な友であった。 墓前へと花を手向ける事も叶わぬ。

我の方こそ其方の力を借り受けたいのだ。

あの国ギレン法国に何が起き、そして何処へと向かっておるのか。

全てが謎である。 そのあたりの事情も其方なら存じておろう? 』


皆はゲオルグと隠 者ハーミットを預かりし唯一の聖戦士ハイランダーとの遣り取りを、唯見守る。


「何が起き、そして何処へと向かっているのか…… 何か・・ですか。

無き君主も、それを気にされておりました。

この十年余りの歳月を、我々・・はその真意を探るべく費やし。

全ては、何により起こり、何処へと向かっているのか…… その事由とは何か。 


奴原やつばらの目的はアスガルド王国とアールブヘイム王国の併呑。

だが、の目的は違う。 その先にあるモノを欲している 」


奴原やつばらとな!? ……もしや、ギレン八世レイモンドは別の目的を持ち、家臣へは告げておらぬのか!? 』


「……如何にも。 真の目的は他者へは告げてはおらぬのです。 開戦当時、二国の併呑を餌に踊らされた者達が数多く居たのですが、その者達は戦後に粛清されこの世にはおりません。

今は、傀儡子くぐつ達が政を行なう独裁国家と変容しており、次の侵攻・・へ向けて力を蓄えております 」


『侵攻だと! 戦の準備をしておるのか!? 』

皆はその言葉に息を呑む。


「……残念ながら。 の指示により、ギレン法国は十年前より戦の準備をしております。 まだ僅かながらでありますが、時間は残されております。 神聖なる駆動体アルカナ・エンジンがあの国に残っていなかった事が幸いでした。

それに代わる物・・・・の準備に時間を要したため、今のスピードならもう2年は大丈夫かと思われますが…… それも不確かな事。 1年余りしか時間は無いと考えた方がよいでしょう。

その様な事から、先日親書をお送り申し上げたのです 」


    ◇    ◇    ◇    ◇


その遣り取りの間、ノリトは周りに潜む者達に違和感を見つけた。

5人の内の一人は、今現在目の前に居る。

残る人数は4人だが…… 一人の動きが余りにも不自然であった。 と言うよりも明らかに怪しい。

ミオとジークへも指示を飛ばし、警戒レベルをすぐさま引き上げた。

暫くは様子見だが…… 念のためにマザーへも警告を発する。


もう一つ、隠 者ハーミット唯一の聖戦士ハイランダーの言葉に引っ掛かりを感じていた。

「(…… 。 何故、ギレン八世レイモンドとは言わない )」

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