第95話 神聖なる駆動体

闘技場へと向かうノリト達、先日の模擬戦闘でも通ったルートで観覧席へと向かう。

その先には既にゲオルグ達が待っている筈だ。

ノリトとミオは索敵能力を開放し、闘技場周辺をサーチしながら移動していた。

「(ミオ、そっちはどうだ?  )」

「(ノリトの予想は当たったみたいね。 複数の存在を感知したわ)」

「(全部で五人か…… もっと居るかと思うのだが ) 」

恐らく、別の場所に待機させて居るのだろう。 もう少し索敵範囲を広げるか?

だが、そこまでする理由も見出せないな。 

それに、他国の間者が居る可能性もあるか……

ノリトは一瞬の逡巡の内にマザーへと指示を追加する事にした。


観覧席へと到着するとゲオルグ以下のメンバーが揃っていた。

『陛下、ノリト殿にミオ殿をお連れ致しました 』

「お待たせ致しました 」

ノリトはゲオルグへと頭を下げ挨拶をする。


『いや、我らも今着いた所故に問題は無い。 さて、早速だが神聖なる駆動体アルカナ・エンジンを顕現させておきたいのだが、ノリト殿達の準備は宜しいかな? 』


「ええ、大丈夫ですよ 」

ノリトは、ミオに視線を送り準備を促す。


『では、右手側の入場門より、左側の入場門へと向け顕現させて欲しい。

ハーミット殿は左手側より参られる筈なのでな 』

闘技場には、二箇所に正対した位置で入場門がある。

今居る観覧席の右手と左手に其々二門の入場門があり、右手側が王城側であった。


『先ずは我の乗騎である、太陽ヘリオスを権現させよう。 こい! ヘリオスよ! 』

ゲオルグの呼び掛けと共に大気が引き裂かれ、空間が揺らめいた様な錯覚を起こす。

実際には瞬間的な次元転移が起こる事で、空間が歪み、光の屈折率の変化によりその様に感じるのだ。

チリチリと言う破砕音と放電現象を伴い、太陽神の如き霊圧を纏った騎神が降臨した。


全高が八メートル程の人形の巨神。

コロナの如き揺らめく魔力を纏い、大地へと降り立つ!

両の手には武器らしき物は装備されておらず、無手であった。

戦いに赴くのでは無い事から、その必要が無いと判断されたのか…… 


続いてミオが一言呟いた。

焔女帝エンプレス! 」

前方の空間が揺らめく! 先程とは違い火炎を纏った人型が顕現すると、一瞬だが辺りの温度が上昇したかの様な錯覚をおこす。

太陽ヘリオスと同様に無手の状態である。

その姿は何処か女性的な雰囲気である、しかしその内面は紅蓮ぐれんの炎を纏った戦神に他ならない。

だが、その名を聞き、唯一人眉根を寄せる者がいた。

アイギスである。

…… あの 神聖なる駆動体アルカナ・エンジンはもしや彼の国の? 


ゲオルグは新たなる神騎を見やり、続いてエレオノーラに視線を向け顕現を促す。

いで恋 人エルメス! 』

エレオノーラの呼び掛けに呼応するかの様に、天空より一条の光が差し込む。

次の瞬間、光のベールを潜り抜け一騎の巨人が現れた。

その姿は焔女帝エンプレス同様に女性を模した様な柔らかな感じであるが、それは現在の唯一の聖戦士ハイランダーが女性だからに他ならない。

従える物が男であったなら、雄雄しき姿へと変容する特性を持った、特殊な神聖なる駆動体アルカナ・エンジンであった。


残すはノリトの乗騎である。

その時、ノリトの胸中は疑問に埋め尽くされていた。

「(何故!? 違うのか…… )」

皆の視線が注がれる中、唯一言を呟く。

世 界ソフィアよ来い 」

その登場に、視線を向けた者達は一様に言葉を失った!

荘厳、天空より、地上より幾何学的な紋様の円環が現れたのだ。

他の三騎とは異なるエフェクトに言葉が出ない。

上下に描かれた円環の間には、虹色の彩光を纏ったヴェールが発現し上下を繋いだかと思うと、次の瞬間には全てが破砕し飛び散った!

皆は慌てて目を覆うが、それは実体を持った破砕物ではない。

眩い光とともに砕け散った円環と虹色のヴェール。

残されたモノは、其処に佇む神騎のみである。


その名は世 界ソフィア世界を総べる・・・・・・神騎である。

アイギスが目を見開き、「右手には未来を、左手には過去をも掴む」と呟く。

それは、「失われし聖典に記されていた」と伝承されてきた言葉だった。 

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