第86話 密室にて

 先日会談した密室にて、ゲオルグとアイギズ、そしてエレオノーラにレイン、エストが早朝より集まりなにやら相談をしていた。

話の内容は、今日の闘技場の件である。


「アイギスよ、先の依頼の方はどうなっておる 」

ゲオルグは昨日の依頼の件を確認する


「既に先方へと届いております。 

本日中には、ア-ルブヘイムより返信が返ってくるかと思われますが 」


 この世界には特殊な魔導通信装置がある。

書簡に音声、使う魔導具によって効果は様々あるが、特定の魔導具同士での双方向通信が可能であった。

所謂、魔導式転送機の様な物といったら良いかと思う。

しかし、その様な便利な物であれば、人などの移動にもと思うのは誰もが同じであり、先人達は試行錯誤を繰り返してきた。

だが、その努力が報われる事は無く、小型の書簡や小箱程度物の遣り取りが限界であった。

だが、その恩恵は計り知れない。 火急の書簡も迅速に届ける事が可能なのだから。

但し、双方で通信が承認されている必要があり、受け取るのも送るのにも鍵の様な物が必要となる。

お互いの鍵が一致している事で、双方向に遣り取りが可能になるのだ。

上位では王室同士での通信網があり、下位では都市間の通信網である。

従って、地球の電話やファクシミリの様に個人同士の通信は出来ず、専ら輸送業者輸送ギルドを介しての遣り取りになっていた。

それでも、個人で使用が出来る便利な物として、民にとっては無くてはならない物となっていた。


「さて、ここに居る者達は午後より闘技場へと行くことになるが、エレオノーラには恋 人エルメスを用意してもらう。 もう一騎は契約者不在によりそのままになるが、問題無かろう 」


「さて、彼の者はやって参るのでしょうか? 」

エレオノーラが、ふと疑問を漏らした


「その辺りは心配ないでしょう。 彼の者の願う事のためには避けては通れぬ事。

こちらへ信用して貰うためにも必要故、やって来るでしょうな 」

アイギスが答えると、レインが補足する

「ただし、付け加えるのなら。 恐らくは、一人でと言う事は無いのよ 」


「一人ではない、数名と言う事ですか? 」


「うむ、ギレン七世オットーには、忍ぶ者・・・と言われる私兵が居たとの噂があった。 我も、その真偽は知らぬ。 だが、恐らくはその者達では無いかと踏んでおる 」


忍ぶ者・・・ですか? その様な者達が居たなら…… あの様な事にはならなかったのでは? 」

エレオノーラは、先の戦闘は回避出来たのではないかと疑問に思った。


「それ以上に手強い相手…… いや、既に手遅れだったと見るべきであろう。

あの時は、既に国の中枢を侵されていたのであろうな 」


ゲオルグの言に、皆が沈黙するのだった。

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