第85話 はぁ…… どんな顔して会えば良いんだ?

 早くに目が覚めてしまったな。

はぁ…… どんな顔して会えば良いんだ?


仕方ない、外で身体でも動かすか……


ノリトは白み始めた空を眺めながら鍛錬を始める。


鍛錬と言っても筋力の強化等ではない、反応速度のズレを確認するためのものだった。

現在のノリトの身体は外見上は人のそれと変わらない。 

その見た目から想像できないのだが、意外な事に、生体部品等は一切使われてはいない。


 全てが人工的に錬成された物で、ノリトが機械仕掛けの身体を、コピーしようとする過程で造り上げたものだ。

本来の目的である、タリスマンの製法は分からず仕舞いであったが、人造人間アンドロイドの製法を完成させた。

破損等は波導マナを吸収し自動的に補修してしまう、自動補修オートリジェネイションなど特異な機能を有している。

だが、所詮は人工的に造られた物だ、意識との僅かなズレが生じる事も有り得る。それが作戦行動中や戦闘の最中に起こったなら…… 

その危惧もあり、時折ズレが無いかを確認していた。



歩法とバランスの鍛錬方法を使って確認を始める。

ノリトは虚空より、長さが五十センチ程の鉄杭にロープが結び付けられた物を取り出した。

だが、良く見ると、片側のロープは短い。

鉄杭を握ると、投擲の要領で十メートル程先の地面へと垂直に投げ刺した。

不思議な事に、ロープは手元の空間の中から繰り出されていく。

もう一本の鉄杭を虚空より取り出すと、そこには、先程のロープの片端が結び付けられていた。


ロープをピンと張り、具合を確かめると、目隠しをし、ロープへと飛び乗った!?

ロープは弛む筈なのだが、不思議な事にピンと張ったままである。

錬成術で相対位置の強化を施した様だ。


ノリトは、ユックリとロープを渡って行く。

ロープは揺れる事もなく、まるで床を摺足で歩く様に。

上下左右へと錬成術により空間強化を施す訓練と、自身の身体を一定の高さで移動させ、身体と意識とのズレを修整してゆく。

数度繰り返したとき、なにやら違和感を覚えた。

フワッと地面へと降り立った瞬間!?

一瞬の事だが、唇へと柔らかい感触が伝わって来た!?

ノリトはすぐ様目隠しを外す…… と!?


「おはよぉ。 これで許してあげる…… 」

ミオが上目遣いで告げる。

だが、その瞳は潤んでいた。

目の周りは赤く…… 泣き腫らしたのだろう。


ノリトは、ミオを暫し見詰ると、居た堪れずに視線を逸らしてしまう。

「……食事を用意しよう。 少し待っていてくれ 」


「うん 」


ノリトは鉄杭を素早く抜き取ると、キッチンへと急いだ。

その後ろ姿をミオが照れ臭そうに見送る。


二人の間に、何時もの朝が訪れた。

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