第87話 その血を継ぐ者には義務が生じる

「既に過去の事、考えても無駄なのよ。 それよりも明日の事なのよ 」


「エストよ。 これから話す事は、我の想像でしかない。

彼の者は、御主にギレン法国の次代を望んでおるやも知れぬ。

それが、ギレン七世オットーの願いだった可能性が高いと思うのだ。

ただ、恐らくは、御主の母をと望んでおった筈だがな。

よもや、あの戦で命を落とすとは考えては居なかったと思うのだ。

だが、エレノアは既に居らん、然らば御主がと言う事になろう 」

ゲオルグはエストを見やる。


「わ、私にはその様な…… 覚悟等は御座いません 」

エストは俯き消え入りそうに呟いた

それも仕方が無い事だろう。 両親の事を知ったのは数年前なのだから。

ゲオルグはそんなエストを見詰め、次ぐ言葉は飲み込んだ、

(だが、王族…… その血を継ぐ者には義務が生じる。

それも教えて行かねばなるまいな )

「まあ、今は其れで良い。 その様な事を、心の片隅に留め置いて欲しいと言う事だ 」


「さて、アイギスよもう一つ確認しておかねばならぬ事がある。

神聖なる駆動体アルカナ・エンジンの事だが、今日までに判っておるのは何騎であるか? 」


「伝承によりますと二十二騎との事。 聖典が消失しておりますので、全ての記録は残ってはおりませぬが…… 。

先ずは、我が国の神騎ですが。

陛下の太 陽ヘリオスとエレオノーラの恋 人エルメスですな。

そしてグリモアール家の預かる正 義バランスですか。


後は、ギレン法国の三騎

魔術師マーリン女教皇ジューノー、そして隠 者ハーミットにります。


アールブヘイム王国の

ランスロット国王陛下の司 祭ジュピター

ペンドラゴン家の天狼星シリウス

ライオネス家の月 光ヘカテですか。


あとは、

アルテミシオン海洋王国の大天使サリエルに、

アヴァロン王国の堕天使ベリアル聖 塔バベル 

グラント王国の使 徒ゼーラフ、 

ゲルマニア連邦王国の死 神アヌビス   


不明となるのは、七騎となりますか。

ノリト殿とミオ殿の神騎は何と言う名なのか気になりますな。

まあ、それも後少しで判明致しますが 」


「そころで、内偵は進んでいるかの? 裏切り者は赦せないのよ 」

レインが鋭い目つきになり、低い声で問いかける。


「そうよ、この国へと再び手を伸ばそうとは…… 」

エレオノーラも同様だった。

大事な人を二人は奪われた、掛替えの無い友、たった一人の兄。


「現在内偵中ですが、動き出したのが一昨日の事。大凡の見当は付いておるのですが、確証までは一歩と言う所ですか。

ノリト殿…… いや、ジークフリート殿が切欠となりましょう。

早晩、動き出すでしょうな 」


「その時は…… シャルルにもあの力・・・を発揮してもらわねばならぬ。

心苦しくはあるのだが、二度とあの様な事は起こさせぬ 」

ゲオルグが目つき鋭く言い放つ。


「そのためにも、残りの密書を検めねばならぬな 」


「その後は、反撃へと転じましょう 」


エレオノーラがエストへと視線を向け

「エスト、望むと望まぬとに関わらず、既にお前は事の中心にいると心得よ。

そして、己が意思をしっかりと持て、決して己が気持ちを見失うな。

迷ったら、立ち止まり私達を頼れ! お前の後ろには私達が居るのだから 」

と笑顔で伝える。


「そうなの。 迷いは大事なの。 でも、それで行く先を見誤っては駄目なの。

時には立ち止まり、時には頼ればいいの。 そうやって行き先を決めたら良いの」

レインもエストへ微笑み語り掛けた。


「では、参ろう 」

ゲオルグが立ち上がり、皆で闘技場へと向かうのだった。

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