第78話 人類を恐怖に落とし入れた

 人類を恐怖に落とし入れる切欠となった事件が、世界各地で発生した。

突如発現したゲートは5ヶ所あった。

そのゲートが発現した地域は、アメリカ、ロシア、ドイツ、エジプト、日本の5ヶ所である。


地球統合政府は該当地域を分割管理するため、軍事戦略的にクラスターⅠ~Ⅴへと表記を変更した。

クラスターⅠ・ 北米および中南米

クラスターⅡ・ ヨーロッパおよび中央アジア

クラスターⅢ・ ロシア及び中華圏

クラスターⅣ・ 南アジア、東アジア、オセアニア

クラスターⅤ・ 中近東・アフリカ


そのゲートの周りは、妖魔の侵食を受ける事でその領域を徐々に拡大していった。

地球統合政府は、侵食を食い止めるための防衛線を敷いていたが、その穴を突き外の世界へと、人々の住まう世界へと少数であるが漏れ出したモノが現れる。


妖魔の名は「無角鬼ゴブリン」と呼称されていた事と、その特異性を地球統合政府は秘匿していた事が、結果的に悲劇を助長した事になる。


良くある、ありふれた異世界の物語に登場する様な「ゴブリン」と同じだと、手前勝手に思い込んだ若者達が各地で暴走したのだ。


 地球統合政府の結界から漏れ出た「ハグレ」を狩る若者達。

異世界冒険譚のハンターや冒険者気取りで「ゴブリン」の討伐へと出掛ける者達。

彼らは鼻歌交じりで、散歩に行くかの如く、酒を飲みながら楽しげに向かった。

行きは楽しかった事だろう!!

しかし、良くある物語の様には行かなかった! 


その「ゴブリン」の固い皮膚はナイフ等では傷付かず、猟銃等でも傷を負わせられず、その俊敏さに翻弄され、次々とその手に落ちていく。

「ゴブリン」達は歓喜した! 

「餌が向こうからやってくる! 」


「ゴブリン」達が血走った!

「メスがやって来る! 繁殖の季節だ! 」

若者達は知らない、自分たちが蜘蛛の巣の中に入り込んでいた事に。

既に、猛獣の口の中に入って居た事に。


男なら、その最期は幸せだったろう。 

その場で縊り殺されると、巣へと運ばれ無角鬼ゴブリンの食事に変るのだから。

ただ一瞬の恐怖と、一撃の痛みで済むのだから。


だが、女は違った。

殺される事無く、欲望の捌け口となり、望まぬ子を孕み生まされる。

その地獄に発狂出来たならどんなに幸せだろうか。

なまじ臨月までは命がある事が地獄であった。

無角鬼ゴブリンの子は、腹を食い破って誕生する。

自分の下腹部が大きくなると、その痛みを想像し…… 

食い破られる恐怖に眠れぬ夜をすごす。


自ら命を絶つ勇気などある筈も無く、恐怖に震える日々が続く。

そこで気が振れたのなら、死の恐怖に麻痺できただろう。

そうで無かったのなら…… 正に生き地獄であった。


どれ程の若者達が、己の無謀さから死んで行ったのだろうか。

政府が敷く緘口令などは無駄である。

それは、世界中へと知れ渡り拡散され、更なる恐怖を伝播させた。

他種族の雌を攫っての繁殖行為を前提とする種族。

その歪さと、穢される嫌悪感に地球の人々は恐怖した。

妖魔の名は無角鬼ゴブリン

だが、物語の様に矮小なモノでは無く、人類の脅威として人々の記憶に深く刻まれた。


    ◇    ◇    ◇    ◇


無角鬼ゴブリンとの戦闘では、人相手の装備では歯が立たず、大型銃器の標準化は加速する。

しかし、人の身ではアンチマテリアルライフルなど、重量のある銃器を携行しての戦闘は困難であった。

身体能力の補助器具、エグゾスケルトンやパワードスーツによる兵士の強化へとシフトして行く。

だが、戦局が長引くにつれそれにも限界が訪れようとしていた。


 各国が焦る中、日本は独自の計画を進めていた。

数年前より、同盟国へも秘匿し進められた計画への期待が高まってゆく。

日本が独自に進めていた「Pandora Projectパンドラ・プロジェクト」である。

その技術的アプローチや考察など、その殆どの技術が謎に包まれていた。

特別な子供達を養育し訓練していたある施設・・・・

特殊な技能や能力、遺伝的な特性を持った者、人為的に特殊性を付加された者。

其処には未来へ進むための希望があった。


その施設での養育の他に、別の施設でも並行して兵器開発を進めていた。

後に、錬成術や錬金術といわれるモノの習得と完成。

そして、錬成術や錬金術により、全てのゲートの結界の完成と強化が実施された。


エグゾスケルトンやパワードスーツによる兵士の強化兵装に替わる新技術。

High Maneuvering harmonic translator frameworks 

波動転送式 高機動躯動体フレイム・ワークスの完成と配備。


世界各地で同時多発的に発生した「世界群発地震」から実に十三年が経過していた。

それは、人類の存亡を掛けた、反抗作戦。

いや、害獣の世界規模での駆除が始まった日だった。

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