第79話 胃袋を掴め!? 

騎士ノリトよ! 

先人はよく言ったものだ、将を得んがためには、馬を射る前に、先ずは胃袋を掴めと! 』


「胃袋を掴め!? その割には###の飯は不味いよな! 」

「そうそう! ***の方が料理の腕は上でしょ? 」

「逆に***に###の胃袋を掴まれてるッテのが正解だろぉ! 」


『お前達! その言い草はなんだ! 

それなら私に「美味い!」と唸らせてから言いなさい! 

それに! ***の料理が美味いのは当たり前! 

なんたって私のダーリンだからね! 』


「え~! 騎士ノリトは大分上達したとは思うけど? まだ駄目かぁ? 」

「う~ん。 もう一頑張りだと思うけれど? 」

「うん、 騎士ノリトの腕は上がってるわよ! 」


『そうだぞ!  騎士ノリトの腕は上がってるぞ! 

もうすぐ###を上回るだろう! 俺が保障するぞ 』

『え~! それは不味いわね! 』


    ◇    ◇    ◇    ◇


「今日の料理は自信作だぞ! さぁ! 味を確かめてくれ! 」

少年が胸を張り目を輝かせ、皿をテーブルへと並べた。

「ノリト、今日はいけそうだね! 頑張ったもんね! 」

『……むぐ!!! 』

「おおぉ! 唸った? 」

『……おおぉ!!! むぐぐ!!! 』

「どう? 」

騎士ノリト! 頑張ったな! これなら俺が合格をくれてやるぞ! 』


「「「「「やったぁ~~~~!!! 」」」」


    ◇    ◇    ◇    ◇


『とうとう嗅ぎ付けられたわね 』

『奴らは鼻が利くからな! だが、なぜ此処がばれた? 』


『もう、時間稼ぎも終わりね…… 』

『そうだな…… もう、無理だろう 』


『あなた達はここから、シェルターへ逃げなさい! 』

『決して、振り向くな! そして、立ち止まるな! 』

『そして、絶対に開けては駄目よ! 』


    ◇    ◇    ◇    ◇


「あれから12年かぁ、あの頃は楽しかったなぁ。

騎士ノリトも居て、皆がいて…… 」


    ◇    ◇    ◇    ◇


 日本国政府の管理の元、特別な子供達を養育し訓練していたある施設・・・・

そこに騎士ノリト達は居た。

施設には数十人の、5歳から12歳までの子供達が、保護と言う名目で隔離され特殊な訓練を受けていた。

そこに集められたのは特殊な技能や能力、遺伝的な特性を持った子供に、人為的に特性を付加された子供。稀人の末裔と呼ばれる子供達。

異界の妖魔への対抗手段としてのであり兵士・・の素体として。

非人道的な手段で改造された子供達、世界が恐怖に晒される事が、世論を黙らせ、人権団体をも黙らせた。

己が身が可愛いのは皆同じで、大国程その傾向は強かった。

大義の前に、小さき事と黙殺した。


その様な特別な施設・・・・・は日本だけではなく、の発現した国々には造られていた。

いや、それ以前から在ったのかも知れないが。


従前の、それなりに平和だった世界なら表に出る事は無かった者達。

人との接触を避け、隠れ続けていた者。

世界から忌み嫌われて、逃げ隠れしてきた稀人の末裔。

中世より、ライカンスロープと呼ばれ狩の対象とされて来た者達。

特異な力・・・・を持つ故に差別を受けてきた者達。


それでも、忌み嫌い迫害して来たそれらの力に縋っても、妖魔に押されゆく人類。


人類に光明が射したのはその時だった。

いや、人類が生贄として祭壇へと捧げた彼等への救いだったのかも知れないが……。

異界からやって来たモノは「無角鬼ゴブリン」だけでは無かったのだ。

異世界人「ドーラ・E・モン・ターニュHide」も とは別のゲートを抜けて地球の日本・・へとやって来た。


その見た目は人と変わらず、しかしその能力・・は神にも等しいのでは無いかと思われた。

ドーラに依って齎された数々の技術・・・・・が地球を救う事になる。

だが、そのために少年少女達が支払った代償は…… 余りにも大きかった。

後に使徒・・と呼ばれる六十五人の子供達。

数年後、子供達の命を削りながらの奮戦により、地球は解放への道を歩みはじめる。


    ◇    ◇    ◇    ◇


の周りに施された結界を擦り抜け、こちら側へ抜け出て来る妖魔達。

次第に結界の範囲が拡がり、抑え込むのも困難になって行く。

それはどの国も一緒だった。

妖魔は学習し、巧妙に、狡賢くなって行く。

そして、敵意や害意に対しては特に敏感であった。

元居た世界では最下層の生物。

無角鬼ゴブリン達は搾取される存在であり、餌であり、玩具であった。

そのため、身を護る為に磨いた技能・感覚が特殊な子供達・・・・・・を見付ける力となったのだ。


無角鬼ゴブリン達は考える、敵の中に強き者が混ざり始めたと。

そして違和感に気付く。 敵の中に魔法らしきモノを使う異物が混ざっていると。

実際には魔法ではなく、錬金術や錬成術と呼ばれるものだったが。

だが、齎される事象と感じ取るマナの感覚から、無角鬼ゴブリン達は魔法と同じものだと感じ取った。

度々現れる魔法を使う異物達、無角鬼ゴブリン達は考えた。

決して頭が悪い訳では無い。 答えを出すまでに時間が掛かるだけである。

そして、答えを見つけたのだ!

「魔力を追えば、異物が見つかると 」

そして、結界の穴を抜け数十体の無角鬼ゴブリン達たちが野に放たれた!

恰も猟犬の如く、魔力の残滓を嗅ぎ分け、目的の異物の巣を見つけた。


後は、仲間を待ち襲うだけだった。

簡単な狩りであり、遊びであり、繁殖手段だった。

雌の臭いがしたからだ。

無角鬼ゴブリン達は興奮し、時が満ちるのを待つ。

牙を研ぎ、興奮を抑え、欲望を膨らませて。


そして時が満ちる。

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