第64話 上の者は命令だけを下し、決して己が血は流さない。

 争いとは、何時の時代も突然に起こるものだ。

民の都合等お構い無しに、上の者達がはじめるのだ。

そして、上の者は命令だけを下し、決して己が血は流さない。

 

 法国の民は違和感を拭えなかった!

誰も彼もが…… 子供でさえも信じた者はいなかったであろう。

決して口には出来なかった事だが、彼らは法王を疑っていた。

いや、法王だけではない! この国の支配者達をだ。


新たなる法王であるレイモンド・ギレン・ゴダール

ギレン八世・・の事さえも疑っていたのだ。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 開戦の四日前の事だが、前法王であるギレン七世オットーが毒殺された!

あろう事か、その犯人をファルド・ギレン・ラルース、ラルース家当主と断定したのだ!

断定の理由が実に曖昧だった。

娘のエレノア共々、ギレン法国の転覆を企み、アスガルド王国へと売ったと言うのだ。

訳の判らぬ証人や、証拠等を並べ立て一方的に罪状を言い渡した。

ラルース家の犯したとされる罪に、フィルモア家が異論を唱えたのだが、それすら聞き届けられなかったのだ。

ラルース家の当主夫妻は地下牢へと幽閉され、ラルース家は取り潰された。

残った者達は命こそ奪われなかったが、国外退去の命令が下だされた。

一族の命を奪わなかった事に疑問は残るのだが、レイモンドの最後の慈悲だったのだろうと、領民たちの間で囁かれた。

ラルース家の当主夫婦は斬首される予定であったのだが、地下牢で命を断ちその花を散らせたと発表され、その亡き骸は刑場へと晒される事になる。


    ◇    ◇    ◇    ◇


「ぐふっ! くくくくっ! あはぁはぁはぁはぁはぁ!」

法王の居室に笑い声が木霊する。

だが、それが外へと漏れ聞こえる事は無い。


「はぁ~。 長かった。 待ち侘びたぞ。

嗚呼! 復讐は成った。

後は…… 愉しいお楽しみだ! 」

その顔は狂気に歪み、一点を見詰める。

そう、その方角にはあの国がある。

アスガルド王国へと歪んだ欲望と言う牙を剥いた!

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