第51話 時は昨夜まで遡る。

 時は昨夜まで遡る。 

時間的には、シャルル達が丁度お風呂を堪能していた頃になるだろうか。 

ノリト達が現れた場所、壁や床、天井へと魔法陣が描かれた部屋には一人の女性が居た。

特に怪し気な所は無く、堂々としている事から侵入者では無いであろう。

 

その彼女は何やら調べている様で、頻りに床を調べて居た。

何が気になっているのか?

二ヶ所程を見比べ、「うむむぅ! 」と時折声を上げては、唸り声を上げている様である。


『うむむぅ! どうやったの? 部分的な魔法破壊…… 侵食? 

まるで切り抜いたように無くなっているのよ!

そして、破壊された床が問題なの 』

どうやらノリトが破壊した床を確認していたようだ。


『普通では無いのよ…… 普通では 』

部分的な魔法のキャンセル、破壊や侵食は前例が無い。

普通なら魔法の破壊を行なうと、術式その物が消し飛ぶのだから。

彼女が確認した限り、ノリトが砕いた床の部分には切り抜いた様に・・・・・・・施術された魔法が無くなっていた。


部分的に魔法を無効化する事は不可能だと思う。

発現された魔法その物に干渉して無効化するには魔法の破壊・・・・・が一般的になる。

反作用を起こす魔法、所謂対抗魔法の行使や、同等またはそれ以上の魔力を当てて効果の霧散か発動の阻害がこの世界・・・・の常識なのだから。


『彼らは能無し・・・だと言っていたのよ。 

でも、有り得ないのよ! 能無し・・・には無理!

錬成術? もしかして同じなのかしら 』 

とても気になるのだが、ここを修復する事が今の優先事項だ。

気持ちを切り替えると、作業へと戻る。 


 彼女は方膝を床に着くと、破壊された魔法部分と床へと右手を翳した。

特に詠唱等をする事も無く暫くそのままでいる。

次第に高まり行く魔力によってなのか、淡く輝く燐光をその手に纏い始める。

次第に大きくなってゆくそれは、やがて吸い込まれて行く様に破損された部分へと注がれていった。

映像の巻き戻しが如く、床の破壊が再生されて行く。

完全に破壊された床が直ると、続いて両手を掲げた。

目を閉じ、なにやら呟いているようだ。

先程とは違い、全身へと淡く輝く燐光を纏い始める。

やがて、「チリチリッ 」と言う、スパークにもにた現象が起こった。

彼女を中心にして、部屋中の気体が干渉するかの様に広がってゆく。

部屋全体をスパークが覆い始めると、掲げた両の手を自身の胸の前で打ち合わせた。

パシンッ! と言う音と共に部屋を埋め尽くすほどの発光現象が発生する。

発光が収まり次第に元の明るさへと、部屋には静寂が戻った。


彼女は切り取られて無くなった場所を目を細め凝視する。

『うむっ、 これで問題ないのよ 』


さて、近いうちにお会いする事になるかしら?

楽しみが出来たのよ

とご機嫌になり、部屋を後にした。



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