第6話 ぬくぬくタイム
お風呂は陶器の湯船があって、湯船の上に魔道具のシャワーが固定されてるタイプのものだった。なんと、此処にきて初魔道具だよっ!? ちょっとワクワクする。
しかし、リディアさんから使い方を聞いたとは言え、使うのはやっぱり緊張する...。私なんかが触って暴走したり壊れたりしないだろうか?
......よし。何時までも全裸でこうしてもいられない、そろそろ覚悟を決めるか。壊れたらその時だ、潔く土下座しよう。
え、ええと。魔石に魔力が入ってるから、魔石の近くにある緑の魔法陣が刻まれた部分に触れれば良いんだっけ?
--ぴとっ
--シャァァァァ
「わっ、わっ、出たっ、冷たっ!!」
わわわっ! お湯、お湯にするにはこっちの赤色の魔法陣だったっけ。これかっ!
うわっ、わっ、ちゃんと温かくなってきた、凄いっ。
「あ~......」
ふぃぃー......癒やされるー。
体の正面からお湯を受け止めて、冷えた体がだんだんとポカポカしてきた。
やっぱお風呂は気持ちいいなぁ~......はふぅ。
いやぁ......。リディアさんがいきなり防具を脱ぎだして私を洗おうとしだした時は慌てたけど。追い出して正解だったよー......。
あんな超絶美人の完璧な裸体を見せられながら、体をゴシゴシ洗われるなんて絶対緊張してリラックスなんて出来なかったよ。それに、いくら同性でも体を洗われるのは流石にちょっと恥ずかしいからねぇ~。
あー......でも、今ならそこまで恥ずかしがる必要もないのか~。見た目は子供だしねー......はふぅ~......。
でも中身の年齢は高いままだから、やっぱりお風呂は一人が落ち着くよー。
それにしてもこの体、肌がすべっすべだなー。さすが子供肌だー。
前は徹夜やら仕事のストレスで肌がボロボロのカサカサだったし。まさか、こんな美肌を手にする日が来ようとは、夢にも思わなかったよ。
ようし、ピッカピカに磨くぞぅ!!
--シャァァァァ....
「うっ......」
お、重い。
気合を入れて頭からお湯をかぶったは良いんだけど。
髪の毛がっ! 髪の毛が!!
そうだった、今の私って踝(くるぶし)のあたりまで髪の毛あるんだった。こんなに伸ばした事なんて無かったからまさかの事態だ。
大量の水を吸うと、髪の毛ってこんなに重くなるんだね。あまりの重さに首がもげるかと思ったよ...。しかも髪の毛が体にひっついて動きにくいし、これは早々にカットしないと踏んづけたり絡まったりして大惨事になる未来が見えるぞ。
以前はボブにする事が多かったし、今回も肩あたりでバッサリいっとくかー。しっかし髪が長いとこんな面倒なのね、カットしたら二度と伸ばすことはなさそうだ。
それにしても...髪の毛まで綺麗だなこの体。こんなに長いのに枝毛とか1本も無いんじゃないの? 色も淡い金髪で...プラチナブロンドって言うんだっけこれ?
白い肌に絡みついてるのを見ると何だか凄く幻想的で、今でもこれが自分だなんて信じられないよ。
--ふぃ~......
「さて......」
そろそろシャワーを止めてっと......。
「うーん...。やっぱ面影は欠片もないなぁ」
いやね、お風呂場には姿見が付いてて、初めて自分の顔を見たんだけどもさ。
記憶にある顔の要素は跡形もなく、そこには人形のように幼く整った顔が映しだされてるわけで...。
いったい誰だコレ?
瞳の色なんて赤色だし、こんな色の目なんてアニメの中でしか見たことないぞ。
やっぱこれ、異世界転生...なのかなぁ...?
この姿を見てしまったらもう信じるしかないんだけども、全く実感が湧いてこない。
いや、そもそも腕が取れた時点で転生以前に人間ですら無いと思うんだけどさ。
だけど、姿かたちに加えて種族までアンデッドに変わってるって事は、えーっと...なんて言えばいいんだ?
異世界転移じゃないだろうし...。転生...も、違うよね? 別に赤ん坊から始まってるわけでもないしさ。
んー......これは、異世界憑依ってのが言葉としては正しいのかな?
--まぁ......
もしそうだとしても、虫とか動物とか人の形をしてないモノに憑依しなかっただけでもラッキーだと思うべきか...。
それでも今の私ってどうなのよ?
アンデッドだよ?
この世界ってアンデッドはどう言った立ち位置なんだろ...。
ほら、ラノベによってはアンデッドでも人間と交流もってるのとかもあるじゃない?
アンデッドかぁ...。
どう考えても魔物枠なんだけど、討伐されるのだけは勘弁してほしいなぁ。
もしも死体じゃなくて生きた人間に憑依してたらアンデッドじゃなかったのかな?
いや、でもその場合は元の体の持ち主が意識あるから憑依できないのか。
うぅ~.......。
アンデッドかぁ......。
私、この世界でやっていけるのかなぁ...。ちょっと不安になって来た。
はぁ...。
......。
「よしっ」
ネガティブな考えは辞め辞めっ!
うだうだ悩んだって仕方がない。パシンと頬を叩いて沈んだ気持ちを入れ替える。
こんなところで美幼女の......あっ、美幼女っていうのは私の事ね。
それで、そんな自分の裸体を眺めてても湯冷めするだけだし、今後の事はまた今度寝る前にでもゆっくり考えよう。
ってワケで、お風呂から出ると借りたタオルで丁寧に身体を拭いていく。
んー、身体は良いけどこの髪の毛は簡単に乾きそうにないなぁ。
ひとまず頭の上に纏めて、タオルで包んで......うー、でもこれじゃあ濡れたままで髪が痛みそう。
......まぁ、後でバッサリカットしちゃうし別に良っか。
「それよりも私の服は......?」
さっき脱ぎ捨てたボロボロの布切れが消えてるんだけど、代わりに置かれてるこの白いのが着替えなのかな?
そう思ってボロ布と入れ替わりに置かれた白い布を摘み上げると、目の前で軽く広げてみる。
手触りはかなり良い生地っぽいんだけど......。
「なにこれ、かわいい!!」
思わず感嘆の声が漏れてしまった。
広げてみると真っ白なワンピースだったワケなんだけど、それがとても私好みのデザインだった。
派手になりすぎないよう裾に花柄が刺繍されていて、かといって地味になりすぎない、もの凄くバランスの取れたデザインをしている何処にでも着ていけるようなタイプのワンピースだ。
うん、これでいいよ。
普段着はこの服が良い!
ゴスロリドレスみたいなファンタジーでヒラヒラした服には確かに憧れるんだけど、あれを普段着にしたいとは思わない。
流石にあれで過ごすとなると体力的に疲れるだろうし、悪目立ちして視線を向けられると精神的にも疲れそうだし。
出来る事なら、このワンピースみたいな着慣れてる服が1着は欲しいところだ。
この服、もらってもいいのかな?
よし、後で交渉してみよう。むしろ出世払いで売ってもらおうっ!!
えーっと、それで下着は......。
「えっ......?」
なんであの痴女とお揃いのスケスケ下着が置かれてんの?
これは......あの痴女の脱ぎ忘れかなー?
......。
...。
ちょっ、待って待って!!
これは流石に無理だから!!
流石にブラは必要無いと思われたのか、代わりに黒いシャツが置かれてるんだけど。
パンツが......これは、ものすっごいエグいんですけど?
いや、まぁ、実はさっきまでノーパンだったから既に痴女だったのかもしれないけど。これは次元が違くて、着けないより着けた方が恥ずかしいってレベルなんだけど!?
どうしてノーパンから下着を着用して痴女度あげなきゃならんのだっ!!
「う...うぅ...」
でも、着けないとまたノーパンだし。
痴女パンかノーパンか...。
痴女パン...。
ノーパン...。
ぐ...ぬぬぬぬぬぬ。
......。
...。
はい、負けました。
どうせ誰にも見せないし別に良いよね。
うん。
いや、ほら、ワンピース着るわけだしさ。ちゃんとした服着てるのにノーパンは流石にちょっと抵抗があるというか何というか...。
まっ...まぁ、後で別の下着買えば良いだけの話だしねっ! うんっ。
あぁー...それにしてもコレ、妙に高級なシルクの感触がデリケートなゾーンから伝わってきて落ち着かない。
「おぉ、少しシンプル過ぎるかと思ったんだが、なかなか似合うじゃないか」
お風呂場から出ると、すぐ目の前の壁に寄りかかっていたリディアさんから声を掛けられた。私のこと待っててくれたのかな?
「あの、私、この服が気に入っちゃったんだけど...」
「ん? そうか...」
うん、ゴスロリっぽい服も着てみたいっちゃ着てみたいけど、やっぱり着慣れた服が一番過ごしやすい。
「これって、買い取れたりとかは......もちろん、お金は私が働いて...」
「ああいや、その服はジルがくれたからメイが欲しいならもらって行けばいいぞ」
「ホントに!?」
え、あのジルさんにこんな服のセンスもあったの!?
「女の子なんだから、服が一着なんてありえないわぁ......とか言ってな。他にも欲しいならくれるそうだ」
「い、いいの?」
「構わん構わん、着せ替えはアイツの趣味だからな、むしろ付き合ってやると喜ぶぞ」
「そ、そうなの?」
「ああ、私にも毎回やたらと可愛い服を勧めてくるしな......むしろ相手にするのがいい加減面倒になってきたし、矛先が変わってくれると私としても非常に助かるんだが...」
「あー......」
確かに服をくれるっていうのは魅力的なんだけど、『着せ替え』って部分に『あの店頭に並ぶ品揃え』を加えると全く素直に喜べない。
このワンピースみたいな服ばっかりなら大歓迎なんだけど、絶対に変な格好をさせられるに決まってる。
服を手に入れる対価が、変態ファッションショーかぁ.......。
「か、考えとく」
うん、ごめん、服は欲しいけどあのセンスに付き合うメンタルがまだ私には備わっていないよ。
さて、それでリディアさんと一緒にジルさんの居る店舗の方まで戻ってきた。
その前に私の髪の毛が濡れたままなのに気づかれて、リディアさんにわしゃわしゃと髪の毛を拭かれてしまったけど、最後に風の魔道具みたいなので乾かされてスッキリした。
んで、ジルさんは店舗で暇そうにぽけーっと店番をしていたけど、この店なら客が来ないのも仕方がないと思う。
そんなジルさんに服のお礼を言ったんだけど、案の定と言うか想定通りと言うかあまりにも暇だったんだろう、着せ替え対象としてロックオンされてしまった。
服をくれたので無碍にも出来ず、死んだような目で棒立ちする私に着せ替えファッションショーが始まってしまい。
最初はまだマシな服だったのだが、徐々に変態チックになる衣装にリディアさんからストップが入ってようやく地獄のファッションショーは御開きとなった。
の...だが。ジルさんがゴネにゴネて後日再びファッションショーをすると約束させられてしまった。
もうこの店には近寄らないようにしよう。
因みにもらったワンピースだが、家で着ることは許されたものの外で普段着にするのは却下されてしまった。
理由はなんか『貴族らしくないから』らしい。
なんぞそれ。
そういう本人は貴族のはずなんだけど、どう見ても鎧姿で貴族っぽい服装ではない。これは理不尽ではないだろうか?
って思ったんで聞いてみた。
「リディアさんはフリフリのドレス着ないの?」
「わっ、私は良いんだ、この鎧で」
「でも鎧だと貴族っぽくないんじゃ?」
「いや、ギリギリ大丈夫だ。高級な鎧だからな、貴族じゃないと着れないんだぞこれはっ!」
「そ、そうなんだ」
「あ、ああ、だから私にドレスは不要だ! 絶対にだっ!」
と、頑なに全否定されてしまった。
「ふふふ、あのねぇ...リディアったら昔「おっ、おい言うなっ、たたっ斬るぞ!」...ぶぅ~......わかったわよぅ」
どうやら昔何かあったらしい。
ジルさんがなにか言おうとしたら全力で口を封じていた。
むちゃくちゃ気になったんだけど矛先がこっちに向くのは嫌なので、後日リディアさんが居ない所で聞く機会があったらジルさんに聞いてみよう。
それでその後は、ゴスロリドレスが私の身体に合うように自動でサイズを調整する魔法陣を組み込むとかファンタジーな事を言われ。
私の魔力波紋とか良くわかんないものを水晶玉みたいな謎道具で取られ。
そのたびにジルさんがベタベタとくっついて来て、それをリディアさんが引き剥がすのを繰り返し...。2時間くらいかけてようやく作業が終了した。
いや、この魔力波紋取る作業さ...。本来なら1時間もかからずに出来たでしょ?
--はぁ...なんか凄く疲れた......
結局サイズを調整する魔法陣は仕上げに数日かかると言うことで後日配達してくれるって事に...。
そして私は今からリディアさんのお家へと連れて行ってもらえることになった。
この際物置だってかまわない。野宿を覚悟していた私にとっては屋根があるだけでも幸運なのだ。
棺桶の中から始まったこの世界。ついに私も屋根持ちだ!
と...浮かれていたわけなんだけども。
なぜか遠くにあったネズミーランドで見た事があるような城にどんどん近づいて行ってる。
途中で騎士が守る妙に立派な門を幾つか抜けて、貴族街っぽい厳重な塀の内側に入って......。
あのね、リディアさんや。騎士の護る塀の中に顔パスで入れて、その上私が居るのもスルーって。いったいどれくらい地位が高いんでしょうか?
鎧着て一人で外をウロウロしてたからてっきり騎士爵とか下の方の爵位を想像してたんだけど。これは絶対に下の爵位なんかじゃないよね、お家についたらちゃんと聞いておかないと、知らないままだと大変なことになりそうだ。
あ、それとリディアさんのフルネーム、リディア - N - フォールって言うんスね。さっきの騎士達がフルネームで呼んでるのを聞いてしまったよ。
うん、何だかもの凄く貴族っぽいです!!
砂姫 るかに @RUKANI
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