私から見た、龍野君

有原ハリアー

ヴァイスの見る須王龍野

 龍野君。

 私の幼馴染である、龍野君。


 思えば、貴方にはいつも世話になった。


 六歳で日本に飛ばされた時には、私に気さくに話し掛けてくれた。

 小学校時代は、いつも笑顔を私に見せてくれた。

 とりわけ小学四年生の時に、卑劣な所業から私を守ってくれた。いえ、それどころか、私に仇なす者を追い払ってくれた。

 そして、小学六年生の時。


 貴方は私を見送るために、一人で走って、私を泣きながら見送ってくれた。


 その事を私は、十五を迎えた今でも覚えているわ。

 聞けば貴方は、渋滞で動けなくなった車から、出国ゲートの手前までひたすら走って、私を大きな声で呼ばわって……ふふ。


「ヴァイスッッッ!」


 そう呼んでくれたわね。

 既に処刑場に駆け込んだメロスと同じくらい、息も絶え絶えだったのに。

 それでも最後の一呼吸を絞り切る勢いで、私を呼んでくれた。


「俺は……お前と、別れたくない!」


 素直な心情を吐露してくれた龍野君。

 私は既にヴァレンティアに帰ることを余儀なくされてはいたけれど、正直、貴方の言葉で帰郷の意思が揺らいだわ。


 そして私は、悔しさを滲ませてこう言ったわね。


「ごめんね……龍野君。私も別れたく、ない。けど……これだけは、私もどうにも出来ない、の……」


 そう言った後に、私達は泣きながら抱擁ほうようしたわね。

 お母様も、私の、いえ、私達のわがままを黙って許して下さった。

 きっと、「最後の別れ」だと思ったのでしょうね。


 けれど、今、こうして再会出来た。

 そして今の龍野君は、かつて私が六歳で会った時の龍野君のままでいてくれた。


 私が傭兵集団に襲われた時、たった一人にも関わらず、助けてくれた。


 私がこっそり龍野君の様子を伺っていた時、たった一人で黙々と腕立て伏せをこなしていた。


 私が自室に行った時、たった一人で読書に没頭していた。


 そう。龍野君、貴方は、、ひたすら自らを鍛えていた。

 龍野君がそこまで強靭な意思を持つ理由は、そこにあったと、今になって悟ったわ。


 もっとも、三年前から一か月前の、およそ三年間は違ったらしいわね。

 聞くところによると、龍野君。

 中学生時代は、誰とも打ち解ける事が無かった。

 反抗期を迎えたのは元より、弟ぎみ達や妹ぎみとさえも、打ち解けなかった。


 その原因が私だったなんて、運命を呪ったわ。当時はね。


 それでも、やはり龍野君は、そんな状況でも自らを鍛え続けていた。


 ふふ、変わらないわね、今も昔も。

 少年時代の純真さを引き継ぎつつも、成長と共に見方を進歩させる……。貴方こそが、真の天才なのかもね。

 けれど、それにおごらない。

 そんな謙虚な、そして、強く気高い龍野君が好き。


 龍野君は今のまま成長すれば、きっと、歴史に名を残すのでしょうね。


 私は龍野君を応援することしかできないけれど、それでも、全力を尽くさせて頂戴。

 もっと、龍野君と同じ時間を過ごしていたいから。


 願わくば、これからもお付き合いしたいわ。よろしくね、龍野君。

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私から見た、龍野君 有原ハリアー @BlackKnight

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