裸の受験生

乳酸菌飲料

第1話

「勉強してないわー」「センターまで1ヶ月切ってるってヤバくね(笑)」「昨日ゲームで徹夜だわ、ねみい」


 高校3年の12月。俺は高校で、普通科進学クラスを選択した。とりあえず進学組の俺たちは、毎日似たりよったりの会話をしている。斯く言う俺も、昨日は一日スマホをいじって過ごしていた。いや、昨日じゃなくて毎日か。こいつらも同じようなものだし何とかなるだろう。


「そいや今日、模試が返ってくるらしいぞ」


「えー、最悪だわ。まーたE判定だわ、どうせ」


 みんな勉強してないみたいだし、俺もいいか。


キーンコーンカーンコーン。


「おまえらー、先月の模試が返ってきたぞー」


 担任が模試を配っていく。中身は、悲惨なものだった。国立は全てE判定だ。目標にしていた地元私立、はたまた滑り止めまでもEやD判定が目立つ。


「これはやばいわ、流石にやばいわ」


「翔、どうだったよ?」


「ひでーぞこれ」


 親にも見せれない模試もこいつらになら見せれる。


「はははは、俺らはこんなもんよ」


 よかった。やっぱりこいつらも同じような感じか。


「そろそろ冬休みだし遊びの計画立てようぜ」


「あー俺、無理やり冬期講座に入れられたんだわ。クソだりいけどサボったら親に殺される」


「マジかよ、お前らはどうよ?」


「俺、ばあちゃんち」「俺もあまり暇ねぇな」


「なんだよつまんねー。ゲームでも買っとこ」


 なんだよ夏休みは皆でだらだら遊んでたのに。モンハンでも買いに行こう。




ピコピコピコピコ。


「あんた受験勉強はいいの?」


「うるさいなぁ今いいとこなんだから邪魔すんな」


「もぉ、お母さん知らないからね」


 うるさいなぁ。俺の人生は俺が決めるっつうの。なんなら参考書、全部学校に置いてきてるし。


「そういえばお兄ちゃん、模試の結果帰ってきてないの?」


 なんでコイツが知ってるんだよ。


「あー学校に忘れた」


「どうせ悪かったから、わざと置いてきたんでしょ」


 ニヤニヤしながらウザイやつだ。


「ちげーよ」


「じゃあD大の判定教えてよ、受けるんでしょ?」


「覚えてない」


「あーはいはい、悪かったのね」


 うっざ。クソ妹は煽るだけ煽って自室に入った。これ以上リビングにいると、また母さんにも文句を言

われそうだから俺も部屋に入る。

 みんなからラインの返信がなかなか来ない。既読すらつかない。ツイッターではゲームしてるって言ってるのに。



「明日から冬休みに入るわけだが、開けてすぐにセンター試験だってことを忘れるなよ。正月休みもいいが、この数日の過ごし方で人生が大きく左右されることを考えてすごせよ」


 冬休み前にだるいこと言うなよな。漫画でも買いに行こ。


 冬休みはいつも以上につまらなかった。誰も遊びに付き合ってくれないからやることがなく、ゲームと動画サイトで一日が、そして休みの2週間が過ぎ去っていった。




「ちゃんと勉強したかー。センターは今週の土曜日からだからな。気を抜くなよ」


 流石に少しは勉強しようかな。


「お前らちゃんと勉強した?」


「いや、ほとんどやってねぇ。やばいわ」「俺もできてねぇなぁ。もう少し前からやっておけばよかった」


 こいつら少しとはいえ、家で勉強してたのかよ。口ではやらないっていいながら。もしかして全くやってないのって俺だけか?明日から勉強するか。




 結局ほとんど勉強しないでセンター当日。自己採点の結果はもちろん惨敗。これで完全に国立大学はノーちゃんだ。滑り止め大学のセンター利用もこの点数では期待できない。


「お前らどうよ?、センター」


「全然ダメだわ、近場は無理だな」


「俺もそんな感じ。でもまぁこんなもんかな」


 あれ、こいつら、センター悪くないんじゃ?気になるけど聞けない。なんか差を感じる。自分より上の奴には聞けない。聞きにくい。


「翔はどうだったよ?D大のセンター利用受かりそうか?」


「いやぁ厳しそうだなぁ。一般でうけるわ」


「なんだよ。前はセンター利用で受かって遊ぶって言ってたくせに」


「ちょっとミスってな」


「まぁ、元々少しランク下げたし余裕やろ?」


「ま、まぁな」


 これはやばい。滑り止めも落ちそうだなんて言えない。いや、こいつら俺の模試知ってて言ってるんだよな。本当に受かるって思ってるのか?



 D大の受験はセンターから20日後。学力がすぐに上がる奇跡は起きず、順当に落ちた。滑り止めも全部落ちた。まぁ後期もあるし何とかなるでしょ。


 何とかならなかった。滑り止めの滑り止めまで受験してやっと1箇所受かった。地元でも聞いたことの無い大学名だ。こんなつもりではなかった。今から何とかならないものか。


「おい、翔。遊ぼうぜ」


「国立も結果出たし大学始まるまでは遊びまくりよ」


 この雰囲気ではどちらも希望大に受かったのだろう。俺だけ落ち続けとはいえない。


「行く行く。カラオケ行こうぜ」


 もういいか、遊んで忘れよう。




 こうして俺の大学受験は、滑り止めの滑り止めで終わった。なにがいけなかったのか。もちろん勉強しなかった俺が悪い。ただ、周囲の「勉強してない」を真実だと思っていた、これも悪かった。本当はわかっていた。頭の隅では常に勉強しなければならないと思いつつ、わざと「勉強してない」と言う言葉に流されていた。気が付けば簡単なこと、なんであの時に気が付けなかったのだろうか。

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