Ⅵ‐Ⅱ これこそ罰なのだ!
ゲヴァルトを開始した当初、デモ隊も警官隊も『射手』と『蠍』の存在に気づいていないようであった。デモ隊や特殊警備車輌などに向けて、『蠍』は爆弾や火焔瓶を次々と発射してゆく。混乱の真っただ中にあるデモ隊を、猟人はワゴン車の中から眺めていた。
「ファーッ、ハッハッハッハ! レイシストのルンプロどもめ。慌てふためいておるわい! これこそ罰なのだ! お前らが今まで儂らを忘却の中に放置してきたことへの報いなのだ!」
気分はすこぶる良かった。デモ隊の上に翻る日章旗は、今やただの紅い的のようにしか見えない。自分たちを無視し、軽蔑してきた、目に見えぬ国民の意思――それを攻撃しているような気持ちだった。
「お前らを救済するために、儂らは今まで物凄く頑張ってきたのだ。お前らのような社会的底辺を救済する平等な社会を創るために頑張ってきたのだ。しかし、ファシストどもの走狗となり果てたお前らにはもう容赦しない。人権の前に人権はないのだ!」
やがて車道にも人が溢れてきた。紅軍の攻撃から逃げてきた人々や、車を乗り捨てたドライバー、攻撃を行っているのが『白鳥』や『鷲』だけではないと気づいた機動隊員や警察官たちである。
そんな警察官や機動隊員に向け、東は種子島銃をぶっ放す。一発撃つごとに、銃口から火薬と弾丸を入れて
無線機が雑音を鳴らし、佐代子の声が聞こえてきた。
「『白鳥』です。機動隊員とデモ隊たちが続々と駆けつけ、反撃を開始しています。もう爆弾も火焔瓶も充分に投げたことですし、そろそろ後ろのほうも攻撃してはどうでしょうか。その――あんまり長居をしすぎると、真麻山にも逃げられなくなりますし。どうぞ。」
「分かった。それならば退却する。」
無線機のダイヤルを回し、猟人は全ての部隊に通達する。
「全部隊に通達。ワゴン車を発進させろ。作戦どおり、南に退却しながらデモ隊の後部を攻撃してゆくのだ。どうぞ。」
「こちら『白鳥』。諒解しました。どうぞ。」
「こちら『鷲』。諒解しました。どうぞ。」
「こちら『射手』。諒解しました。どうぞ。」
「よし、発進!」
ワゴン車が動き始めた。車道を逃げる人や、退却を阻もうとする警察官や機動隊員がいたため、クラクションを鳴らしたり、あるいは銃眼から種子島銃をぶっ放したり、それでも逃げない者は跳ね飛ばしたりした。そうするあいだも、
再び無線機が雑音を鳴らし始めた。
「『鷲』です。機動隊の放った銃弾がタイヤに当たり、パンクしました。いまデモ隊に突っ込んだところです。どうぞ。」
「分かった。お前らはデモ隊の中で戦斗を続けろ。すぐ助けに行く。」
東は驚いたような顔で猟人を見た。
「助けに行くだか? どうやって?」
「バカモン、助けるわけないだろ。見捨てろ。」
総武本線の手前まで逃げたとき、特殊警備車輌が行く手を阻んだ。中から拡声器を手にした機動隊員が叫ぶ。
「そこのワゴン車、停まりなさい!」
言われなくとも、行く手を阻まれたのならば停まるほかない。ワゴン車は一旦、停止した。そんな特殊警備車輌へと、東は種子島銃を発射する。同志の一人も
「バズーカ砲だ! 今こそ使うのだ!」
猟人の掛け声の下、革命戦士の一人がワゴン車の片隅から鉄管を持ち上げた。長さ一メートル、直径五センチほどの鉄管を改造して作った「バズーカ砲」である。前部座席の銃眼からその銃身を突き出し、特殊警備車輌へ向けて発射した。
凄まじい発射音が響き、「バズーカ砲」を撃った老人は反動で後ろに吹き飛んだ。しかし相応の威力はあったらしく、砲弾は特殊警備車輌の窓に直撃し、防弾硝子を粉々に吹き飛ばした。
今まで大人しくしていた柳田が、この発射音で驚いて泣き始めた。
「うわああああん! おどーちゃーん、おがーちゃああん!」
しかし、窓硝子の一部が吹き飛んだところで、特殊警備車輌が行く手を阻んでいることに変わりはない。おまけに機動隊員たちの反撃も凄まじく、雨あられのように銃弾がワゴン車を叩いている。
運転席に坐っていた革命戦士が質問をする。
「中央委員長同志、どうしますか!? 後ろに逃げますか?」
無線機が雑音を鳴らし始めた。
「こちら『白鳥』です。後ろから機動隊と特殊警備車輌が押し寄せてきています。早く前へ進んでください! どうぞ。」
猟人は、もはや八方ふさがりとなっていることに気づいた。しかしながら、不思議と絶望はない。自分は――むしろこうなることを望んでいたのだ。自分は真麻山などで惨めな余生を送りたくない。このワゴン車は、自分と革命の夢とを乗せた棺桶なのだ。
無線機のダイヤルを回し、猟人は通告する。
「『蠍』および『射手』『白鳥』の全員に通達。陣形を組むのだ。三台のワゴン車で三角形を作るように、
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