Ⅴ‐Ⅱ ――司。
警官や野次馬の合間を縫いながら、熾子はデモ隊を追いかけていた。
デモ隊は第一車輌通行帯を鮨詰めとなりながら進んでいる。その両側は機動隊員や警察官などが固めていた。歩道にもまた、機動隊や警察官や、あるいは野次馬などが溢れかえっている。
先ほどの韓国人は、デモ隊の先頭でラップを歌っていたのだ。恐らくは今もそのあたりにいるのであろう。デモ隊の中に彼の姿を探しながらも、やや早歩きで先頭へ向かって進んでゆく。
今さらながら、自分の髪と瞳の色が気になり始めた。
デモ隊の姿は、言うまでもなく恐ろしかった。林立する差別的なプラカードや旭日旗は元より、街宣車から聞こえてくる演説に対し、死ねだの殺せだのとしばしデモ隊は合いの手を入れた。
少し離れた場所にいるとはいえ、自分が韓国人だと分かると何をされるか分からない。
熾子の顔も日本語の発音も、日本人とほぼ変わりがない。違うとしたら、この瞳と髪の色だ。もちろん、どういうわけか今まで誰からも気にかけられなかったので、今さらかもしれないが。
しばらくして、前方の視界にあるものが写った。
黒い頭のひしめく中に、銀朱の背をした海老があった。最近は、日本の女子中高生が頭に寿司ネタ状の物を載せることは珍しくない。しかしその後ろ姿は、熾子にとって見覚えのあるものであった。
熾子は目を凝らす。頭を動かしたため、彼女の横顔が見えた。
感じたものは強い失望であった。
――司。
司もまたこのデモに参加したのだと思った。今まで友人だと思っていたものは、実は友人の仮面を被った別物であったのだ。
しかし、じっくり目を凝らしていると、どうもそのような雰囲気ではない。きょろきょろと周囲を見回しながら、デモ隊よりも少し早い足取りで前へと進んでいる。それに気づき、熾子は冷静となる。
なぜこんな処にいるのかは分からなかったが、とりあえずは距離を取りながら、そのあとを追ってみることとした。
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