第5話初陣

これは俺が軍に入隊したばかり、新兵だった頃の話。




 「私、ナタイ三等陸佐!第一突撃隊希望します!」




 俺が入隊して数週間で戦争が勃発した。


 “第一突撃隊"、それはその名の通り、戦争が起きて最初に戦う部隊だ。相手の状況やその他の情報を確認する事ができないので、一番死ぬリスクが高い。


 そのため、軍も部隊の必要人数の半数は希望制にしていて、俺もその第一突撃隊に志願したのであった。




 「――人数よし。――装備よし。許可する!武運を!」




 手続きを担当している上官が敬礼をすると、俺も敬礼をした。俺は第一突撃隊の後衛に回った。


 第一突撃隊は、本部で手続きを終えて軍用車に乗り込む。戦車やヘリコプターなどは第二部隊から使用される。




 本部から敵国に1番近い最前線の基地までおよそ3時間かかる。街の中を通ってるときは何ともないが、荒れてる道では物凄く揺れた。




 第一突撃隊は対戦者兵も対空兵もそんなに動員されない。もき向こうが兵器だけで来たら、ほぼ壊滅だろう。




 だがこちらには、最新の防空レーダー搭載車が3台あるので、何とかなるだろう。




 基地へ着くと、荷物を降ろし装備の確認をし、陣形を組んで出陣した。




 「一番隊、二番隊は先にいけ」




 上官がサインでそう指示をすると、音を立てないようにして森の中へ入った。




 「スナイパーに気をつけろ。双眼鏡は常に手を休めるな」




 これも合図で指示した。俺は双眼鏡を配備されてないので肉眼で見える範囲を索敵した。




 第一突撃隊1200人は半分半分に分けて、それぞれ違う所を索敵する。


 半分にするからおよそ600人が、6人ずつ分隊にわけられる。




 「目標Bravo1、2、3全て制圧完了――。」




 「目標Golf1、2完了。3はトラブルが発生しましたが、問題ありません。間もなく完了です――。」




 各分隊長からの報告を受けた第一突撃隊総司令長マクサ一等大尉は無線機に口を近づけ、静かに指示をした。




 「第二突撃隊到着予定時刻まであと3分だ。爆撃機で空爆をする。全員その場から退却。退路に軍用車を手配しているが、人数分用意するのは無理がある。荷物だけ乗せろ。」




 俺はBravo2分隊長に任命されたため、上官の指示を聞くとすぐに隊員へ指示し、その場から退避した。






 今回の戦闘で制圧したところは、敵の主要基地の1角であり敵国は壊滅的な状況に陥ったとの事。




 その知らせを受けた2日後には無条件降伏。軍も全て引き上げた。




 帰るために荷物の片付けをしていると、司令長のマクサーが近くにいた。


 俺はそれに気づくと、すぐに敬礼をした。マクサーはそれに気づくと、何故か俺の方へ歩み寄ってきた。




 「――ナタイ三等陸佐」




 「はい!」




 「隊員の報告書によれば、いち早く敵を見つけ、一切バレること無く制圧したそうだな」




 「……」




 何を言い出すのかと無言で待っていた。




 「やるじゃないか!他の分隊は何かしらのミスで気づかれ、銃撃戦になったんだ。でもお前の分隊は、敵が一発も発砲しなかったそうだな。」




 「自分は索敵に力を入れただけです。そして何より、隊員達が懸命に任務を全うしただけです。」




 「しただけと言っているがー…、それは十分必要な能力だ。これからも期待している。そしてお前を一等陸佐に昇格することとひた。」




 「ありがとうございます」




 マクサーは俺の肩を笑顔で二度叩くと、その場を去った。


 昇格する事は嫌じゃないが、正直好きではないのだ。なぜなら、自分以外の命も守らなければならないから。




 入隊してすぐの俺が分隊長になったのは、入隊試験での評価が良かったからだと思う。まあ俺も受かりたかったからそれなりに力を出したのだが、まさかこうなるとは…。




 俺は偉くなりたいわけではないのだ。ただこの国を守れれば、いくら階級が下でも構わない。








 街へ帰ると、国民は待ってましたと凱旋パレードになった。国門からしか入れないので、そこに集まられれば凱旋パレードのようになってしまう。




 いくら勝ったとはいえ、兵士も生と死の狭間にいたので精神的肉体的疲労は凄まじいだろう。だから疲れ切って寝ている者などもいた。




 日頃、睡眠時間以外に寝ると思い罰があるのだが、このときばかりは上官も多めに見てくれる。




 基地へ戻り、シャワーを浴び終わるとすっかり日は沈んでいる。夕食をとり、歯磨きをして仮眠室へ向かった。


 仮眠室は二人の相部屋でベットが2台置いてある。




 「終わったな。」




 今は俺の家に何度も押しかけてくるあいつが俺のベットに胡座をかいて座り、そう言った。




 「今のところはな…」




 この戦争は終わったが、また次の戦争が始まるかもしれない。そうなったときは、また気持ちを切り替えて戦わなければならない。




 「俺もう寝るよ」




 「俺も今日はもう寝る」




 消灯し、すぐに眠りについた。






 その頃の俺はまだユザとは出会っておらず、友達どころか家族すらもいなかった。俺が軍に入ったのも、実は家賃を払えなかったからでもある。


 軍に入れば、訓練はキツイし死ぬリスクもあるが、大して頭脳も求められないし体が動ければ何とかなると思っていた。




 もちろん、頭脳だって求められる。階級が上がれはの話であるが。




 そんなこんなで入隊当時の俺はただの貧乏孤独新米兵士だった。


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軍を辞めて自宅警備員になった俺といつまでも招集かけてくる軍 矢航 @yakoo

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